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へっぽこ魔術師の女の子編
閑話休題:いつもの日々の中の一日
しおりを挟む今日も今日とて俺の仕事は、米の選別の後は新人冒険者どもの争いごとの仲介。
新人どもに悪い奴らが集らないように監視する役割だったはずだがなぁ。
「おら、三番。字がちと汚ぇぞ。もうちっと綺麗に書き直せ。八番、字がでかすぎ。十番が小さめで読みづれぇんだよ」
新人どもの、雇ってくれアピール合戦がほんとうざってぇ。
俺が自分らのために何かしてくれる、と思ってる節があるっぽい。
するわきゃねぇだろ。
てめぇのことはてめぇでやれよ。
俺は、その欲望の数々を公平になるように差配してるだけだ。
そんな新人どもを横目で見る、こいつらの先輩達は大勢いる。
頑張れよ、なんて声をかけながらその場を去るそいつらは、集団戦に向かう連中だったり人手が足りてるパーティだったする。
ただしダンジョンに限る。
フィールドへは、店に並べばそのまま右方向に移動するだけ。
ダンジョンは店の左側の、岩壁の角を曲がってまっすぐの方向。
掲示板はその角を曲がってすぐに置くことにした。ベンチもあるからな。
店の横に置くと、信心の集団が商売の邪魔になっちまうんでな。
けど店に来る連中は、店の入り口よりも先に、遠目から掲示板の前にたむろしてる新人どもの方が目に入る。
遠目だから、何の集まりだ? ってなもんで、興味のない奴らは見過ごしがち。
結局、こいつらにお呼びがかかるってのは……ほとんどないな。
結果として、掲示板に書く順番待ちが文句を言い始め、呼ばれないんだからしょうがないじゃないかって言い出す奴との口喧嘩が勃発。
争いごとというにはあまりに平和的だが、争いごと自体が存在しない毎日を送りたいもんだ。
それにしても、手伝いに来る施設からの連中と見比べて、いろいろと思うところはある。
「バイトとかで食いつなぎながら冒険者の仕事を探すってのはしねぇのか? お前ら」
角を曲がった先の店舗では、手伝いに来た者達がヨウミから指示を受けて懸命に仕事をしてる最中だろう。
「本職の仕事から離れちゃったら、尚更お呼びがかからないじゃないですかぁ」
思い返すと、つくづくエージ達は恵まれてたんだな。
あの頃は新人時代もあいつらも、弟子が何人かいる、みたいな話聞いたっけ。
それに比べたら……。
冒険者の育成制度はきちんと整備されたようだが、自立してから仕事を得るまでに問題があるんだな。
師匠弟子制度だと、師匠が弟子を鍛えながら、依頼人との顔つなぎも同時にできてる。
だから仕事に困ることはほとんどなかった。
まぁ一時期中堅の人数不足が問題になったが、ぼちぼち回復してる感じだな。
「それにしても、新人とは言え、まともな人材ってほとんどいねぇな」
「そりゃそうですよ。好成績で卒業した奴は、すぐに勧誘がたくさん来るから」
するとこいつらは売れ残りかぁ。
まぁ考えてみりゃ、いつが成長期かは分からんが、スカウトする側は即戦力になりそうな奴を選ぶだろうから……。
けど、こいつらの中には、成長期はこれからって奴もいるかもしれん。
能力を使えば、それも判明するだろうな。
ラッカルのこともそれで明確になったからな。
けどあいつの時みたいに、それでこいつらが仕事を得られるってんなら、新人冒険者の斡旋所ってのもできなくはないのか。
……新人の能力を見定めるのは俺だけにしかできない仕事、なんだよな。
となれば、その新人の力に見合った仕事をあてがうのも俺の役目になるよな。
……国のための仕事になるんだろうが……俺だけ苦労することになるんじゃね?
でもそんなことでもしなきゃ、ここに来る落ちこぼれ新人どもに、いつまでも付きまとわれちまう……。
「アラタさん、どうしたんです? 随分滅入ってるみたいですね」
「お前らのせいでな。……お前ら、互いに気が合いそうな奴と組んで、適当に探索したらいいじゃねぇか」
誰のせいだと思ってんだよ。
つか、なんでこんなに新人だらけになっちまってんだ?
「他のみんなはどうかは分りませんけど、僕には初対面の人達ばかりなので、すぐパーティを組んでもいいって思えないんですよ。仕事を見つけるのも、養成所でやってくれるのが一番手っ取り早いんですが、やってくれないんですよね。恨み言なら一つや二つじゃ足りないくらいです」
やっぱ新人でもそう思うか。
にしてはこいつ、終始ニコニコ顔だな。それで恨み言がある、と。
つかこいつ、自棄に馴れ馴れしく話しかけてきやがったな。
つばが広い黒い帽子に灰色っぽいロープを身に付けてる。
魔術師か?
「……養成所の制度がどんなもんかは知らんが、入所中に訴えるべきだったな。俺だって、用意した掲示板は思い付きの片手間の作業みてぇなもんだ。だから中途半端なマネは止めろ、なんて文句の一つも飛んでくるかも分からんが、俺の場合は、お前らのために何かをする必要があったり義務だったりってこたぁねえからよ」
文句があるなら、掲示板を別のことに使うまで。
文句が出ないような工夫をするような気遣いをするのは、実に面倒だ。
「アラタさんだって、溜まってる恨み言は、それこそ十本の指じゃ足りないくらいじゃないですか?」
「……まぁそうだな。のんべんだらりとした生活をしてぇってのに、何でこんなに面倒事があれこれやってくるのやら」
「おや、それだけですか? のんびりしたいって思いは誰だって持ってると思うんですけど、アラタさんは特別強いんじゃないですか? ここに来るまでいろいろご苦労があったって話らしいですし」
なんだこいつ?
「理不尽に辛い思いをされられた者は大概、ひどい目を合わせた人達をそうは簡単に許せないと思うんですけどね」
「……お前……」
「はい? 怖い顔しないでくださいよ。僕だって、僕に目もくれず同期に声をかけてたセンパイ達には、もっと僕のことを知ってくださいって、少なからず恨みめいた思いは持ってますし」
怖い顔、つーか……初対面で、何突っ込んだ話始めてんだ。
自分の身の上話されたって、明らかに釣り合い取れてねぇぞ。
それにだ。
「……ほんとに十八才か?」
「あ、僕は十九才です」
……そういう話じゃねぇんだがな。
それにしてもこいつ、新人のくせに馴れ馴れしい……いや、ある意味ふてぶてしいか?
おまけにこいつの感情が……顔の表情と同じ、穏やかなもんだ。
普通に考えるなら、人間的に穏やかな性格、だわな。
けど……。
「聞き方間違えたな。養成所を出てからどれくらい経つんだ?」
「今年になってすぐに卒業しました。なので半年ってとこですかね」
「卒業の時期はどの養成所も同じか?」
「違うみたいですよ? でも全部の養成所の卒業生から話を聞いたわけじゃないので、詳しくは分かりませんけどね。僕のところのように一月のところもあれば、三月末、四月の頭に卒業ってところもあるみたいです」
ふーん……。
それも大切な情報だが、重要って程じゃねぇ。
それに……話、ずれてねぇか?
いや、ずらしてんじゃねぇのか?
「で、卒業してすぐに声をかけられることもあれば、半年も仕事にありつけない奴もいる、と」
「それもいろいろですね。僕の場合は卒業してしばらくは仕事ありませんでした。ようやく声を掛けられて、一つ、二つこなして、また仕事見つけられなくて……そうですね、三か月は探してたでしょうか。他の仕事のバイトなんかしてる暇なかったですね」
三か月も無職かよ。
待て。
なんかおかしい。
「で、この村のダンジョンの噂を聞いてやって来た、というところです。まぁここに辿り着いた経緯も、人それぞれだと思いますよ? 同じ養成所の同期の連中ですら、すでに経歴バラバラですからね」
収入がない時期を三か月。
そして仕事にありつけそうな場所の話を聞きつけてやって来た。
が、来たからと言って仕事が見つかるわけじゃねぇ。
それでよくもまぁニコニコできるもんだ。
……そうだ。
こいつ、落ち着きすぎなんだ。
もしくは現実が見えてねぇかのどちらかだ。
そういえば、こいつの名前知らねぇな。
「おい、お前、名前何てんだ?」
「あ、これは失礼しました。ミナードと言います。今後もお世話になります」
やめてくれ。
何の世話だよ。
つか、とっとと勧誘される努力しろよ。
何で俺の世話になる挨拶してんだよ。
「アラター、そろそろお昼の注文の時間だよー。みんなからのリク、メモしてるからよろしくー」
え?
もうそんな時間か。
「あら? もうそんな時間ですか。今日のお昼はアラタさんのお店のおにぎりにして……午後は休んでようかな。じゃ、失礼しますね」
「お、おう……」
……お喋りな奴もいたもんだ。
午前中はこいつらを誘う連中もいなかったし、午後も掲示板の表記は変わりそうにもないな。
「飯食いに行こうぜ」
「俺、弁当作ってきたからここで食う」
「あたしはおにぎりをお昼ごはんにする―」
……やれやれ。
また午後もこいつらの相手しなきゃなんねぇのかなぁ。
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