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へっぽこ魔術師の女の子編

魔力の低さ 技術の高さ その1

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「マッキー、口で説明するよりい、実際にやらせてえ、それを見せた方があ、手っ取り早いぞお」
「そうね。ラッカルちゃん、えーと……あ、ここからあっちの方向の、一番手前の樹木あるでしょ? その一番低い位置の俺かけた枝あるじゃない?」
「あ、はい」
「その上の枝に、一枚だけ枯れかけた葉っぱあるんだけど見える?」
「あ、はい。あれですよね」

 俺の目でも見える。
 距離にして……五十メートル足らずか?

「その一枚だけを凍らせて地面に落とせる? あ、氷漬けにするんじゃなくて、葉っぱそのものを凍らせるのよ? で、その葉っぱ、落ちた時に割らないようにして」

 要するに、氷の中に突っ込む形じゃなく、物体その物を凍らせるんだな。
 で、落下の衝撃で割れないように、か?
 ……いや待て。
 初級冒険者がホイホイとできる芸当じゃねぇだろ。
 大体こっからあんな小さい標的を……

「はい。それくらいなら。……いきます……」

 って、それくらい?

「アラタさん、あの葉っぱ見えます? 見ててくださいね?」

 いや、俺の事よりもさ……。

「ほら、あそこですよ。見えますよね?」
「お、おお……」
「じゃラッカルちゃん、やって見せて?」
「はい。……はいっ!」

 は?
 え?
 白っぽく変わって……落ちた。
 つか……何これ。
 いや、氷結の魔法っつーから、成功した場合そうなるんだろうなっつー予想はできたが……。
 効果、早過ぎね?
 つか、遠いってば遠い距離で、ピンポイントで、この速度。
 初級冒険者の技術じゃねぇだろ、これ。

「……あー……、うん。すげぇな」
「でしょ? で、能力を鍛えたくてもなかなか成長の様子が見れなくて……」
「アラタさんに相談する前に、モーナーさんに相談したんですよ。アラタさん、なんだかんだ言っても、普通の人ですし、魔力増強の訓練とか、想像もつかないでしょうから」

 あ、なるほど。
 俺に相談持ち掛ける前に、モーナーに相談しに行ったわけか。
 モーナーも意外と頭回るからな。

「でもお、俺達の視点からじゃあ、何にも打開策出なくてえ。アラタみたいなあ、俺達と違う視点からならあ、何かいい案出るかなあってえ」

 ……買い被り過ぎもいいとこだ。
 俺に何ができるってんだ。
 ……まぁ能力の判定はできたわけだが。

「あ、あの……」
「ん?」

 ラッカルがおどおどしながら話しかけてくる。
 別に取って食おうってんじゃねぇんだし、何怖がってんだか。

「大体五十メートルくらいまでなら、思い通りの地点に、こんなことならできるんですけど」

 ……診察してる気分になってきた。
 俺は病院の医者とか、カウンセラーとかじゃねぇんだが?

「その範囲を越えたら、その指定も大雑把になっちゃいますけど……。鍛えても能力が伸びないってことは……その範囲も広がらないし、魔力も増えないってこと、ですか……?」
「……残念ながらそうなるな。そういえば、今は葉っぱ一枚っつーピンポイントで魔法を発動させたみてぇだが、樹木いっぽん丸ごと」
「こら、アラタ! むやみやたらに木々を傷つけないの! 枯れ葉だから魔法の標的にしたんだからっ!」

 あ、はい。
 マッキーってば、こういうことには厳しいんだよな。
 まぁそりゃ樹木丸ごとってことは、その根っこまで被害受けるわけだから、その範囲は結構広くなるからマッキーが怒るのも当然か?

「あの、それも伸びないんですか?」
「へ?」

 それ?
 それって何よ?

「葉っぱ一枚の範囲も広がらないのかなって……」
「はい? えーと……つまり……」
「はい……魔法の効果の範囲は、大体三十センチくらいなんです……む

 三十センチ?
 えーと……三十センチの広さっつったら……。

「……あ、俺の足のサイズ、二十六・五センチだから……範囲の直径が、大体俺の靴くらい?」
「あ、そうですね。それくらいです……」

 ……狭くね?
 ……どんなに冷たく、氷漬けできたとしても……。
 サミーの親御さんが襲いかかってきたら……例えば眼球を狙って氷結させても……。
 ……意味、ねぇな。
 あとは……そうだ、例えばマッキーから弓攻撃されたとして、矢じりを凍らせて矢じりを氷で丸くして攻撃力なくすことなら可能だ。
 凍らせる速度は相当早かったから、それは可能だ。
 で、その後は……その後は……。
 手詰まり。
 うわぉ。
 魔物討伐依頼を受けた場合、フィニッシュホールドがまるでねぇぞこれ。
 クリマーやライムの体の変形を、氷漬けで防いだとして……防げたとして……。
 直径三十センチの円形もしくは球形の範囲だぞ?
 あ、複数魔法をぶちかますのはどうなんだ?

「何かを凍らせるってのは、一度に何度も使えるのか?」
「えっと、真夏日でも一日中凍ったままにさせられるのは……二十回くらいが限界でした」

 経験済みか。
 つか、この魔法、一日二十回使い切り。
 何という自滅へのカウントダウン。
 けど、その自滅と引き換えに、六メートルくらいの範囲を、時間差がありながらも氷結させられるってことか。
 それならまだ使いようがあるかもしれんが……。
 けど、それは、あくまでもこいつを術師としてパーティに加えた時に、こいつを最大限に有効活用する方法を試行錯誤の経過と結果。
 こいつの代わり、あるいはこいつ以上の術師を募集する方が、パーティにとっては楽でいいよな。
 あ、でも待てよ?
 俺には気配を察知する能力があるから分かった。
 けど、そんな能力がなくても、ひょっとしたらこいつのそんな特性が分かる奴が、ベテランの中にもいるかもしれん。

「……回数に限度があり、鍛えても伸びない。つまり人材育成を目的としてパーティに誘っても、その目的は叶うこともない。……冒険者業、廃業しかねぇんじゃね? たとえ活用できる方法を見つけたとしても……仕事のレベル、上限付きだぞ?」

 つまり、請け負える仕事の報酬、収入も限度がある。
 一般人として仕事をする方が、儲けは多いかも分からんぞ?

「私……村の人達から期待されてたんです」
「はい?」
「魔力持ってて、魔法が使える人間って、少なくはないけど……珍しいし、普通の人なら、持ちたくても思ったように持てる能力じゃないんです」

 村の期待を一身に背負って、冒険者の養成所に入所したらしい。
 そして、能力はそれなりだが、狙い通りに魔法を放つなどの技術面では相当優秀な成績を収めて卒業したらしい。

「で、村の人達に、この仕事で恩返ししたくて、仕送りしたくって」

 村から仕送りを強制されることはなく、自分でそんな思いでこの仕事に臨んでるってことか。
 いい子じゃねぇか。
 コーティにこいつの爪の垢を煎じて飲ませ……え?
 ちょっと待て。
 養成所を卒業?

「成績優秀で卒業っつったな?」
「え? あ、はい」
「特定の成績を収めたら、即卒業できる制度か」
「えっと、相当優秀だったらそんなこともあると思いますが……。あたしはきちんと規定通り入所してました」

 規定……?
 てことは……。

「養成所で規定通りってことは……お前、年は……」
「十八才です」

 十八?!
 てっきり子供だと思ってた!
 てことは……。
 いや、十五でも十八でも、器を大きくできないってことには変わりない。

「アラタあ。俺らはあ、どうやったらこの子お、成長できるかって考えてたんだけどお……」

 あ……、そうか……。
 こいつらには、この子の特性までは知らなかったんだな。

「やっぱりアラタにい、相談してよかったあ」

 なのにあれこれ考えて、この子の力になろうとしてたがなかなか進展が見られない。
 もし最初から知ってたら、他からのアプローチをあれこれと考えられてたかもしれんが……。
 でも、俺をいいように使い走りしてるように……ように……。
 見えん。
 あの頃のあいつらの感情がどんなもんか、あの時の俺が今の俺ならすぐ分かる。
 けど今の俺でも知る由はない。
 が、この三人からは、感謝の感情以外感じ取れない。
 そんな奴らから頼りにされるのと、縋る感情で、一見少女の十八歳女子から見られたら……。

「……はっきり言や、お前のために何かをしてやれるこたぁ何もねぇよ」
「そ、そんな……」
「アラタあ……」
「そんな言い方ないんじゃない?」
「それはあまりにもひどすぎません?」

 俺に頼めば何とかなる、なんて思いこむ方が悪ぃだろうが! 全く……。

「……てこたぁ、メイスがコーティに相談してからずっとってことだよな」
「そ、そうです……」

 間違いない。
 こいつら、特にこのラッカルは……。

「考えすぎて煮詰まり過ぎじゃねぇのか? 気分転換も必要だと思うんだがよ」
「気分……転換……ですか……」
「あぁ。ということで、俺の仕事に付き合え」
「え? でも……」

 付き合ってもバチは当たるめぇよ。
 俺の仕事は米の選別関連だけだからな。
 他の職業の仕事を見てれば気晴らしにもなって、発想の転換もうまい具合に働くんじゃねぇか?

「このまま掲示板に書き込んだって、結果は今までと変わらねぇよ。ならいつもの毎日に何かの変化を付けた方が、何かいい案も出るんじゃね? つか、俺がやってやれることって、そんなもんしかねぇぞ?」
「は、はい。よろしくお願いします……」
「アラタあ……すまないけどお……頼むなあ」
「……さっきは、ごめんね? この子のこと、よろしく……」
「余計な事させて、ごめんなさいね、アラタさん」

 ……よろしくも何も、そっちが普通に自由に行動しても、そんなことができるわけだから……俺が世話しなくてもそんなことくらいはできるんだよなぁ。
 ま、いいけどさ。
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