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へっぽこ魔術師の女の子編

俺と新人冒険者 その2

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 移動するためのキャスターがついた白板を買った。
 その日から白板は大活躍してくれた。

『一番・両手剣を使う男剣士です。魔力はゼロです。活動歴は一回です』
『二番・アイテム鑑定ならそこそこできます。鑑定できるアイテムならどんなものでも扱えます』
『三番・回復術師です。軽傷なら即座に治せます。毒や病気の回復は苦手です』

 こんな具合で十人分くらいの書き込みはできる。
 が、うろうろしている人数がそれより多いと、彼ら同士での諍いも起きる。
 俺も書かせろ。
 拾ってくれる人たちがいないから、書き込みの空きが出るわきゃねぇだろ。
 あたしの方があんた達より呼ばれやすいから、先に書かせなさいよ。
 私の方が、活動経験多いのよ? 順番、私に譲りなさい。
 たった一回くらい多いからってでかいツラすんな。

 ってな言い争いが、ベンチでごろ寝してる俺の前で激しく展開中。
 熟練冒険者のほとんどが

「元気いいなぁ。お前ら、頑張れよ」

 などと声をかけてから仕事に出発。
 新人達はお互いの言い争いに熱が入ればその分、彼らへの反応が遅れる。
 自分らも連れてってください、と言いそびれ、そこから「お前のせいで具合で、新人どもの言い争いも初日からやかましい。

「お前らなぁ。もう少しこう……。自分の売りっつーか……雇う側が得しそうな文句加えたらどうなんだ?」

 誇張したアピールをした結果、雇う側が「思ってたのと違う」と困惑するようなことがあったらまずい。
 だから、正直に自分のアピールをするのは正しいと思うが、どうもネガティブな感じが漂うっつーかなんつーか。

「あ、アラタさんからも俺達の事紹介してくださいよっ!」
「そうだそうだ! ずっとそこに寝転んでばかりで、何もしないのはどうかと思いますよっ!」

 何で俺が、冒険者のひよっこから命令されにゃならんのだ。

「何も知らない純真なお前らが、得体のしれない奴らにホイホイとついて行かないように監視してるだけだよ。お前らの仕事の斡旋をしてるわけじゃねぇ」

 俺の仕事が終わりゃ、こんな感じで新人どものそばにいる。
 けどな。
 自分からやりだす仕事と押し付けられた仕事じゃ、気持ちの入りようが全然違う。
 そして、俺の仕事が終わった後にすることは、掲示板を用意する前もこんな風にゴロゴロしてたんだが、なぜか今は退屈この上ない。
 退屈なもんだから……。

「んん……と……。お、でかい鼻くそ」
「きったねぇ!」
「鼻の穴に指突っ込む大人、初めて見た……」

 何しようが勝手だろうが。
 つかお前ら、どこからかお誘いが来る工夫しろよ。
 ベテランどもに売り出すのは、己自身だっての!
 いわゆるセルフプロデュースか?
 自分でそんな努力しろよ。
 呼びかけられるのを待ってる間、武器の素振りとか筋トレとかしたらいいじゃねぇか。

 ……自己アピールか。
 この世界に来てなかったら、再就職活動してたんだろうな。
 ……俺を採用してくれる会社とか、あったんかねぇ。
 声をかけられることがねぇなら……こいつらと同じ立場だったんかもな。
 年が若い分将来性がまだあるから、こいつらの方がまだマシか。
 ……お?

「……鼻くそに粘る鼻水が……鼻の中引っ張られる感が」
「アラタさん! それ、ほんと汚いよ!」
「変な顔だし」
「うるせえな。ティッシュは……っと……」

 ほんと、退屈極まりない。
 が、店の前の混雑は、この掲示板のおかげで大分収まってる。

「またなんか変なこと始めたんか?」
「変な事って、アラタに失礼じゃない。久しぶり、アラタ」

 と、突然声をかけきた相手は……。

「お……、おぉ、ゲンオウにメーナム。あれ? ホントにしばらく見なかったな。元気してたか?」
「冒険者業引退の将来が視界に入ってきた年齢だが、まぁ元気だな」
「生き残ってる限りは現役でしょ? ゲンオウ。でも珍しいよね。アラタに気を遣ってもらっちゃった」

 ぅおい。
 普段気を遣ってねぇ奴と思ってたんかい。

「はは。槍でも降ってくるんじゃねえか? ……それよりも、槍が降ってくるよりも現実的に変な現状が目の前にあるんだが」

 十五……二十人くらいか。
 新人達がうろうろしてるのは、確かに珍しい光景かもしれんな。
 こいつらでチーム結成すりゃいいのに、とか思ったりするけどな。

「熟練者からの勧誘を待ってるんだと。けど勧誘する側も、誰にどんな適性があるか分からねぇし、身の安全も保障しなきゃならんし、報酬も即決できなきゃまずいし、こいつらが必要ってわけでもねぇから、誰からも拾ってもらえず、仕事にあぶれてる。こっち側も怪しげな連中には誘われたくはねぇしな」

 その巻き沿いを食らった俺はいい迷惑だよ、ホント。

「アラタ……結構世話好きなのね」
「何でだよ! なわきゃねぇよ!」
「人間的に成長したんじゃねぇか? アラタ」
「変わってねぇよ! 昔のまんまだよ! あ、店を構えたから、客の顔と名前覚える努力はしてる最中だが……」

 って俺の服の裾が引っ張られ……。

「アラタさん。俺達の事紹介してよ!」
「お願いしますっ」

 いつの間にか俺のそばに、列になって並ぶ新人ども。
 やれやれだ。
 説明するのも面倒だが、説明しないままで今日一日過ごすのはもっと面倒だ。
 のんびり過ごしたいってのに、なんでこう面倒事に巻き込まれるんだ? 俺は。

「……なるほどねぇ。ま、そんなに危なくねぇ依頼だから……誰か連れてくか? メーナム」
「そうね……。一日中振り回すわけじゃないから、報酬は一人三千円くらいなら、二人くらいなら連れてこうかな?」

 一気に歓声が沸いたが、ハチの巣をつつくなんてもんじゃねぇ。
 ハチの巣を壊した後の騒ぎだわ。
 二人にアピールする奴、そいつの足を引っ張ろうとする奴、二人にしがみついてる奴。
 やかましくてしょうがねぇ。

「はいはい、んじゃ前線に出る戦士系と、後方支援の魔術系の一人ずつ、二人。戦士系は防御と攻撃バランスいい奴だ。守り専門は必要ない。魔術系はあくまで支援系で攻撃系は不要。絶対この条件だ」

 かなりの人数が気落ちしてんな。
 めげない新人どもは、戦士系が三人で魔術系が四人。
 さぁ誰が選ばれるか。

 ※※※※※ ※※※※※

 ゲンオウとメーナムが立ち去った後、二人抜けた新人の集団からジト目の視線を食らってる。

「そんなに睨んだって、状況変わるわきゃねぇじゃねぇか」
「アラタさんが、もっと気持ち入れてあたし達の事紹介してくれてたら……」

 何と図々しい。
 テメェの努力が足りねぇだけだろうが。

「でも、あの二人に、知り合いにお前らの誰かを面倒見てくれるように言っといたの、聞いてたろ? 日の目はいつか見るだろうよ」
「いつかっていつよ!」
「知るかよ。それまでの間、どっかで鍛錬積んできな。力はともかく、技術は高められるんじゃねぇの? そしたら拾ってくれる奴も増えるんじゃねぇのか?」

 つか、俺に八つ当たりすんじゃねぇよ。
 面倒見てやってるだけありがたく思えよ。
 本来なら斡旋料とられるのが普通だろ?
 世間……いや、社会の仕組みを知らねぇのか?
 どっかでそう言うことも教えてやれよな。
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