上 下
312 / 493
米からの騒動編

仕事なら、米の選別以外はしたくねぇんだが その2

しおりを挟む
「ってなことで、のんびりと時間を過ごすつもりが、槍衾を作る仕事を手伝わされてな」
「何というか、最近のアラタを見てると、のんびりというよりぐうたらな生活って感じが……」

 ヨウミ。
 話題の焦点はそこじゃねぇ。

「でも振り返ってみると、一番非力なアラタが一番動き回ってる感があるのよねぇ」
「守んなきゃならない人にい、守ってもらってる感じがあ、すごく強いんだなあ」

 マッキーもモーナーも、よく見てんじゃねぇか。
 もっと褒めろ。

「でも槍衾作りって初めて聞くわね。その様子じゃアラタは知らないだろうから……ヨウミ、知ってた?」
「んーん。あたしも初めて。そう言えば、イールさんっていたでしょ? お昼の時間におにぎり食べに来る……元冒険者、でいいのかな? あの人の村でも作ってたとか」

 相変わらずコーティからは、通常は適当な扱いされてんなぁ。
 それにヨウミは人づてに話聞いたから正確には覚えてなかったか?

「イールの彼氏の村っつってたぞ。名前までは記憶にないが。でも彼氏って確か……魔物にやられて死んだって話聞いた覚えはあるな」
「どれくらい前の話なのか分かんないけど、まだ引きずってるのかな……」
「いや、思い出話って感じだったから、あまり気にしてなかったっぽいな。それはともかく、農作物を食い荒らす魔物っているのか?」

 魔物と言えば、人の作った物を壊して暴れて、人の命を食らう連中ばかりっつーマイナスのイメージが強ぇな。
 こいつらは例外中の例外だろ。
 その例外がよくもまぁこんなに集まったもんだ。

「いるんじゃねぇの? 俺とンーゴなんざ、地中で食えるもん食ってた毎日だったからよお。こんな風に地上に出るこたぁほとんどねえ」
「マモノモ、ニクショクトカソウショクトカ、イロイロイルトオモウゾ」

 魔物と呼ばれる種族の全貌どころか、この村のこともほとんど知らねぇからなぁ。
 でも、米の選別の作業に追われる日々だからなぁ。

「あれ? でもアラタぁ」
「何だよテンちゃん」
「農作物って言うけど……アラタがいつも収穫してるススキモドキはどうなの?」
「あ……」

 槍衾の設置は、主に田んぼと畑と牧場を守るような位置取りだ。
 次に村人の住まい。
 そして農畜産物生産関連の建物とか敷地。
 野生のススキモドキは誰も目もくれない。
 てこたぁ……。
 真っ先に犠牲になるの、俺じゃねぇか!
 ……またも、自己防衛に努める日々がやってくるのか……。
 けど、ちょっと待て。

「あれ?」
「ドシタノ?」
「そんな魔物の気配、全く感じないんだが……」
「予報とか、警戒態勢をとるとかの、緊急じゃない事態なんでしょ?」

 なるほど。
 でもススキモドキ伸び放題の荒れ地にまでは防衛策は取らねえだろうなぁ……。

 ※※※※※ ※※※※※

 人命に危険が迫ってるわけじゃねぇ。
 農作物の危機がやってくるかもしれない。
 というサキワ村の現状。
 となりゃ、俺のする仕事は日常と変わらん。
 そして一日分の仕事を完了させりゃあとはのんびりできるわけだ。
 自分の世界では、そんな余暇にはいろんな娯楽があった。
 けど、のんびりしたい余暇ですら、娯楽に追われてるような気がしなくもなかった。
 それもそうだ。
 何で他人の娯楽に無理やり付き合わされにゃならんかったんだって話でな。
 金も時間もようやく自分のために費やせる、という幸せ。
 誰からも束縛されない……。

「ちょっとアラタ。さっさと仕事してきなさいよ。お手伝い達が戸惑ってるよ!」

 ……俺の妄想の勇み足。
 やることやってからぼんやりするか。
 ということで、小川の傍のススキモドキの草原に到ちゃ……。
 あれ?
 ススキモドキの丈は、平均以下でも俺の身長を越える。
 だから縁までいかないと小川は見えない。
 んだが……。

「……刈られてるっぽいね」
「実った穂だけ持ってかれたって感じ……ですよね」
「昨日はこんな感じじゃなかったよね。小川の場所が見えるよ?」

 俺のへその高さくらいまで刈り取られた範囲は割と広い。
 が、俺の仕事に支障が出るほどじゃないし……。
 誰がなぜこんなことを?
 いや、そんなことはしちゃいかんってことじゃない。
 ただ、こんなことをする意味が分からん。
 考えてることが分からない奴の存在って……なんか怖いよな。

「でも、人の仕業とは限らないよね」
「んじゃ虫?」
「かなり大きくないとこんなに広く刈れないよ?」
「まさか、魔物?」

 槍衾作って設置したばかりだぜ?
 ましてや、そいつらがやってくる気配もなかった。
 魔物だとしても、ススキモドキが刈り取られた断面が、こんなにきれいなはずはない。
 刃物を使って刈り取った跡だとは思うが、とりあえず今は……。

「落ち着け。今現在、危険な存在は、近くどころか周囲にも村の中にもいない。いつも通りの作業すんぞー」

 しかし……。
 米の分量を一日分採集するために調べる範囲とほぼ同じくらい刈られてる。
 まぁここら辺の気配を、これからは重点的にマークしてみるか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

追放されたテイマー半年後に従魔が最強になったのでまた冒険する

Miiya
ファンタジー
「テイマーって面白そうだったから入れてたけど使えんから出ていって。」と言われ1ヶ月間いたパーティーを追放されてしまったトーマ=タグス。仕方なく田舎にある実家に戻りそこで農作業と副業をしてなんとか稼いでいた。そんな暮らしも半年が経った後、たまたま飼っていたスライムと小鳥が最強になりもう一度冒険をすることにした。そしてテイマーとして覚醒した彼と追放したパーティーが出会い彼の本当の実力を知ることになる。

付与効果スキル職人の離島生活 ~超ブラックな職場環境から解放された俺は小さな島でドラゴン少女&もふもふ妖狐と一緒に工房を開く~

鈴木竜一
ファンタジー
傭兵を派遣する商会で十年以上武器づくりを担当するジャック。貴重な付与効果スキルを持つ彼は逃げ場のない環境で強制労働させられていたが、新しく商会の代表に就任した無能な二代目に難癖をつけられ、解雇を言い渡される。 だが、それは彼にとってまさに天使の囁きに等しかった。 実はジャックには前世の記憶がよみがえっており、自分の持つ付与効果スキルを存分に発揮してアイテムづくりに没頭しつつ、夢の異世界のんびり生活を叶えようとしていたからだ。 思わぬ形で念願叶い、自由の身となったジャックはひょんなことから小さな離島へと移住し、そこで工房を開くことに。ドラゴン少女やもふもふ妖狐や病弱令嬢やらと出会いつつ、夢だった平穏な物づくりライフを満喫していくのであった。 一方、ジャックの去った商会は経営が大きく傾き、その原因がジャックの持つ優秀な付与効果スキルにあると気づくのだった。 俺がいなくなったら商会の経営が傾いた? ……そう(無関心)

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

処理中です...