上 下
300 / 493
王宮動乱編

アラタの、新たな事業? その3

しおりを挟む
 洪水被害を何とか未然に防いだ。
 ちょび髭の大臣による拘束に戴冠式。
 まぁその前にも騒ぎもあって、どうもみんなにストレスが溜まってたらしい。
 悪意だろうが善意だろうが、これらはいずれも、自分らの行動が自由に取らせてくれなかったから。
 誰からも見られることなく動ける地中でストレス発散してたんだろう。
 いつもなら気付く注意点に気付かず、危険地帯にぶち当たってしまった、ということらしい。

「スマナイ」
「気にすんな、ンーゴ。ミアーノも、地上の移動お疲れだったな」
「あ、いや、俺も……すまん」

 この二人、他の仲間と違って、どちらかと言うと協調性は高くない。
 寝床が俺らとは離れてるところにあるからな。
 だから、素直に謝罪の言葉が出るのは、ちょっと意外だな。
 それにしてもだ。

「しかし溜池をいい所に作ることができたものだ。フィールドの山側の端とはな」
「まだいたのかよ。かれこれ四時間くらい時間食ったぜ? いつもの晩飯の時間はとっくに過ぎてる」
「ならちょうどいい。ここで一緒に晩餐会といこうか」

 まったく気にしてないのか?
 随分とお気楽な王様だ。

「国のトップになったらなったで、予定がすし詰めになってねえのか? 過労死しても知らねぇぞ?」
「一々王宮に戻る方が疲れが溜まる。それに居場所は留守番してる者達に伝えているから問題ない。用事があるなら、専門家に丸投げしておけばいいからな」

 王様がこんなんでホントにいいのか?
 まぁ俺は国政の専門家じゃねぇから、そこまで心配する立場でもねぇけど……。

「それに、疲れを癒すには絶好の場所じゃないか。なぁ、みんな」
「まぁ、そうですね」
「しかし道具がありません」
「近くの宿に買いに行きましょうか? 宿屋なら遅い時間でも宿泊客が来るらしいですから」

 シアンが親衛隊に呼びかける。
 その親衛隊も、何やら和やかな表情を浮かべているが……。

「最悪バスタオルだけでも構わない。人数分頼む」
「バスタオル? って……まさか……」
「溜池と言っていたが、毒ではないのだろう? ならば温泉ではないか」

 ……確かに、湯気とお湯を見た時に、温泉って言葉が真っ先に浮かんだけどよ……。

「けどこの底は……」
「誰かが落ちても大丈夫だように、縁の底は浅くしてるで? 中心にいけば深くなってくけどな」
「ヒロイカラ、カナリナカニススンデモ、オボレナイゾ」

 まるで、最初から入ること前提で作ってるみてぇじゃねぇか!
 けどな……。

「脱衣所もねぇし……お湯以外何にもねぇぞ?」
「ゆったりできれば文句は言わないさ」
「俺らが飯食ってる間、お前らは入浴ってか? こっちが見てて恥ずかしくなるっての」
「一緒に入ろうじゃないか」

 おいこら待て。
 俺らを巻き沿いにすんな!

「とりあえず、全員の分の食事を注文しなければな。あぁ、お代はすべて私が持とう。もちろん私の財布から出すから心配いらない」

 当然だ!
 国の金で食う気なんかねぇわ!

「ルミーラ、サミーラ、みんなから注文を聞いて行ってきてくれないか?」
「はい」
「了解しました」

 あっという間に二人の姿は見えなくなった。
 普段から鍛えられてる奴の行動は、やっぱり段違いだよなぁ。

「入ってみたい気はするけど……もう時間遅いしなあ」
「あたしもテンちゃんと同意見。ほかのみんなは?」

 で、こちらはお風呂談義かよ。
 おまけにマッキーがアンケート取り始めやがる。

「無理して今日は入る気はないけど、温泉なら入りたいなー」
「俺もお、ゆっくり入ってみたいぞお。ライムにい、体綺麗にしてもらうのもお、好きだけどお」
「ライムモハイッテミタイー」

 クリマーもコーティも入りたがっている。
 サミーに至っては、両腕を激しく同時に地面を叩いてる。

「なら食事が終わった後、我々だけでゆっくり浸からせてもらおう。ところで効能とかはあるのかな?」
「知るかよ」

 洪水を未然に防ぐ作業で手いっぱいだったんだぞ?
 地下はミアーノとンーゴにしかできない作業だったが、地表にでるお湯を貯める場所は、その二人と俺達の共同作業だったんだからな。
 まあシアン達も手伝ってはくれたが……。

「流石にそこまでは、気配では分からないか」
「……俺を便利な道具みたいに扱う気じゃねぇだろうな?」
「立ってる者は親でも使え。まして他人はなお使え。……私の場合は、母親は心強かったが父親はなぁ」

 いや、今は落ち込むタイミングじゃねぇだろ。
 自分で言っといて、自爆してんじゃねぇよ。

「お待たせしました」
「持ってきました」

 って下らねぇ話してる間に、晩飯がやってきた。
 つっても……籠に入れて持ってきたとはいえ、よくもまぁ二人きりで持って来れるもんだ。
 あ、親衛隊側はオードブルか。

「で、何か効能はあるのだろうか? アラタ」

 拘るなぁ。
 見ただけでなら……。

「……肉体的精神的疲労回復、出血が伴う負傷の回復期間の短縮、打ち身などの痛み緩和、ぐれぇかな? パッと見でな」
「美容効果はないの?」

 戻ってきて早々、ルミーラから質問が飛んできた。
 まぁ……まぁ、女性ならではの質問、かなぁ。

「あるんじゃね? 疲労回復を感じとれりゃ、それだけ気持ちにも余裕は生まれるだろうし。乾燥肌の悩みなら、ある程度は解決できるんじゃね?」

 料理を並べていただきますの挨拶をして、みんなで飯を食ってる中で、女性陣が目を輝かせ始めやがった。
 ……そう言えば、ワーム種のンーゴは、表面はいつもツルツルなんだよな。
 ……ワーム種自体そうらしいから、湯の成分にはあんまり関係ないか。
 あ、性別で言えば、ンーゴも女性だったな。
 あまり関心なさそうだが。

「温泉宿作れそうよねー」

 は?
 何やら話が盛り上がってたと思ったら、いきなりそんな話?

「塀で囲って……」
「うんうん。露天風呂にするとして、でも脱衣場は床、必要だよね」
「混浴は止めとこう」
「そだねー」
「いや、混浴は避けるべきではないと思うぞ?」

 おい。
 王様。

「私達は、権力には屈しませんっ!」

 親衛隊からやり込められとるわ、この王様。
 しょーがねぇな。
 つか……女性陣の目が真剣すぎる。
 こいつら、飯、あまり進んでねぇぞ?
 話に夢中になりすぎなんだよ。

「で、いつから工事始めるの? アラタ」

 おいちょっと待て。
 いきなり話が飛び過ぎてんぞ!

「お前ら……周りのことも考えろよ!」
「周り?」

 妄想が暴走しすぎてやがる。
 もう夜も遅くなってた。
 思考が単純になるのも仕方がねぇか。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

幼馴染みの2人は魔王と勇者〜2人に挟まれて寝た俺は2人の守護者となる〜

海月 結城
ファンタジー
ストーカーが幼馴染みをナイフで殺そうとした所を庇って死んだ俺は、気が付くと異世界に転生していた。だが、目の前に見えるのは生い茂った木々、そして、赤ん坊の鳴き声が3つ。 そんな俺たちが捨てられていたのが孤児院だった。子供は俺たち3人だけ。そんな俺たちが5歳になった時、2人の片目の中に変な紋章が浮かび上がった。1人は悪の化身魔王。もう1人はそれを打ち倒す勇者だった。だけど、2人はそんなことに興味ない。 しかし、世界は2人のことを放って置かない。勇者と魔王が復活した。まだ生まれたばかりと言う事でそれぞれの組織の思惑で2人を手駒にしようと2人に襲いかかる。 けれども俺は知っている。2人の力は強力だ。一度2人が喧嘩した事があったのだが、約半径3kmのクレーターが幾つも出来た事を。俺は、2人が戦わない様に2人を守護するのだ。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

移転した俺は欲しい物が思えば手に入る能力でスローライフするという計画を立てる

みなと劉
ファンタジー
「世界広しといえども転移そうそう池にポチャンと落ちるのは俺くらいなもんよ!」 濡れた身体を池から出してこれからどうしようと思い 「あー、薪があればな」 と思ったら 薪が出てきた。 「はい?……火があればな」 薪に火がついた。 「うわ!?」 どういうことだ? どうやら俺の能力は欲しいと思った事や願ったことが叶う能力の様だった。 これはいいと思い俺はこの能力を使ってスローライフを送る計画を立てるのであった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

最古のスキル使い―500年後の世界に降り立った元勇者―

瀬口恭介
ファンタジー
魔王を倒すも石にされてしまった勇者キール。スキルが衰退し、魔法が発達した500年後の世界に復活したキールは、今まで出来ることのなかった『仲間』という存在を知る。 一見平和に思えた500年後の世界だったが、裏では『魔王候補』という魔族たちが人間界を我がものにしようと企んでいた。 それを知ったキールたちは魔族を倒すため動き始める。強くなり、己を知るために。 こうして、長いようで短い戦いが始まる。 これは、一度勇者としての役目を終えたキールとその仲間たちが自らの心象を探し求める物語。 ※この作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。 ※元勇者のスキル無双からタイトル変更しました。 ※24日に最終話更新予定です。

とある辺境伯家の長男 ~剣と魔法の異世界に転生した努力したことがない男の奮闘記 「ちょっ、うちの家族が優秀すぎるんだが」~

海堂金太郎
ファンタジー
現代社会日本にとある男がいた。 その男は優秀ではあったものの向上心がなく、刺激を求めていた。 そんな時、人生最初にして最大の刺激が訪れる。 居眠り暴走トラックという名の刺激が……。 意識を取り戻した男は自分がとある辺境伯の長男アルテュールとして生を受けていることに気が付く。 俗に言う異世界転生である。 何不自由ない生活の中、アルテュールは思った。 「あれ?俺の家族優秀すぎじゃね……?」と……。 ―――地球とは異なる世界の超大陸テラに存在する国の一つ、アルトアイゼン王国。 その最前線、ヴァンティエール辺境伯家に生まれたアルテュールは前世にしなかった努力をして異世界を逞しく生きてゆく――

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

処理中です...