上 下
257 / 493
店の日常編

千里を走るのは、悪事だけじゃない その20

しおりを挟む
 それにしてもな。
 エージ達から話は聞いたが、それだけでコーティがここまで赤面するか?

「コーティ、お前熱でもあんのか? 恥ずかしいだけじゃそんなに」
「うっさい! バカッ!」

 ……いつも皮肉とか毒を吐くのが中心だった。
 こいつから悪態つかれたのは初めてじゃないか?
 何かあったんか?

「おい、エージ。お前ら、コーティに何かしたのか?」
「え? あ、まだあったんだっけ」

 まだ何かあんのかよ。
 もう勘弁してくれよ。

「アラタさんの仲間一人一人名前をあげて、俺の大切な仲間達に、自分勝手な理由で傷一つでもつけてみろ、みたいな見得を切ってたな」
「しかも臆面もなく、ね」

 全員名指しで……衆人環視の元……。
 で、でもあれだ、こ、恋の告白とかじゃねぇからな、うん。

「アラタさんがうろたえてるの、初めて見たような気がする」
「俺達がピンチに陥った時は……」
「あれはうろたえるとは言わないでしょ」

 大人をからかってんじゃねぇぞテメェら!

 ※※※※※ ※※※※※

 俺自身は何の戦力にもならないが、とてつもない魔力をこもった球をいくつも持っているということから、待機組に無理やり参加させられた。
 だが結局出番はなし。
 討伐組の連中で何とか仕留められたようだ。
 まぁドラゴンの怒号とかファイヤブレス? あるいは打撃の衝撃が襲ってきて、いくら気配を感じ取れるっつってもビビらずにはいられなかった。
 遠く離れていても、そいつらの一歩がどんだけの幅なのか。
 一瞬にして接近されることを考えると、とても落ち着いてられなかった。
 野良ドラゴンの数は、俺の察知通り三体。
 討伐組からは怪我人は出たものの、軽傷者のみ。
 重傷、重体、死者がゼロってのは流石プロ。
 無論仲間達も無傷。
 冒険者達からも感謝されるほどの働きぶりだったようだが、詳しい話をされてもよく分からんかった。
 分からないのも当然だろう?
 こっちゃ、魔物討伐のノウハウも戦闘の仕方もよく分からん一般人だしな。
 で、よく分からんうちに夕方になって……。

「魔物が近寄らない原因のハーブ群については、村長はじめ村の人々には初耳だったようだ」
「繁殖力が高いから、またすぐに元に戻ると思うよ?」
「村の方には範囲を伸ばさないのは、多分土の質が合わないからだと思う。村への侵食は心配無用ね」

 その他の報告やその後の報告をするために、俺の店の前に、ドラゴン討伐に参加した何人かの冒険者達がやってきた。
 まぁそういう場所を選んだわけじゃなく、魔物が来ることが少ない場所に人が住み着いてその範囲を広げ、村になったんだろう。
 村ができてから、周囲の環境がそうなったわけじゃないだろうからなぁ。
 そういうこともあるか。

「それにしてもなぁ。まさか、あんなでかい獲物を、しかも三体仕留めて処理して、その日の夕方に酒宴できるたぁ思わなかった。」
「獲物の処理がスムーズにできて何よりだったな。まぁこれだけ大人数でやるなんてこと、ほとんどなかったからなぁ。……あ、そうだ。あのならず者達の処分なんだけどよ」

 討伐したドラゴンの処分の話の跡でそんな話されると、あいつらも一緒にまとめて何かの素材にしたように聞こえるぞ。

「村を壊滅させるため、なんてことじゃなかったらしいから動機は自分勝手な些細なもんだが」
「でも引き起こした事態はそう言うことに繋がってくからね」
「未然に防いだことができたから、あいつらにどうこう言えるけどさぁ。被害が起きたら……処刑一択だよなぁ」
「ま、そんな議論は上の連中に任せるさ」

 上?
 上ってば、こいつ等の上司みたいな立場の人達ってことか?

「お偉いさんでもいるのか? お前らの所属してる組織か何か?」
「違う違う。保安官の連中に任せるってことさ。俺らよりもあいつらへの説得力はあるだろうし、俺らの判断だけであいつらをどうこうするようなことがあったら、怒りの感情に任せてどうのこうのって言い出す連中もいないだろうしさ」

 俺がここからいなくなっても痛くも痒くもない、と思ってる連中には、俺だってそいつらがここからいなくなっても何とも思わないから、こいつらがあいつらに何しようとも何とも思わないんだがな。
 ま、それでこいつらが夢見悪い思いをするんなら、彼らの思いを尊重するさ。

「ところで、祝勝会っつーか、討伐の打ち上げの宴を開くんだよ、俺達」
「へぇ。いいんじゃない? でも……こんな大人数、ドーセンとこに入る? 入らない……んじゃない? ねぇ、アラタ」
「……無理だろ。一目瞭然だ」

 討伐計画の話し合いだって、フィールドじゃなきゃ冒険者全員参加できなかった程だったんだからな。

「……アラタさん? 物は相談なんですが……」

 それはいいんだが、最後に俺に話しかけてきた奴!
 気味悪ぃんだよ!
 いかつい体に野太い声で猫なで声ってのはよ!

「何だよ! フィールドで酒かっ食らいてぇってんなら一晩限りだ! お開きでそのまま雑魚寝するならまだ許してやる。帰る時ゃ綺麗に掃除して帰れ!」
「そんな意地悪言わないで……って……え? 貸してくれるの? マジで?」

 厳密にいえば、俺らのもんじゃねぇんだけどな。
 広くて、俺らがいつもみんな揃って朝飯晩飯食える場所だから使ってるだけなんだが。

「ただし条件がある」
「条件?」
「いいよいいよお。使わせてくれるんなら、どんな条件だってのんじゃうっ」

 調子いい奴がいるな。
 まぁいいけどよ。

「俺は宴に混ざらんぞ。獅子奮迅の活躍をしたのはお前らと、俺とヨウミ以外の俺達の仲間だ。だから俺とヨウミは混ざらん」
「いや、けどよ……」
「別に俺が混ざらなくてもいいだろ。討伐に参加した仲間達も参加させねぇってんじゃねぇんだから。そいつらには、逆に声をかけねぇ方が問題だろ」
「そりゃまぁ、そうだけどよ……」
「汗流して疲労した甲斐があった連中のお祝いの集会だ。俺は何もしてねぇよ。逆に俺が居心地悪ぃわ」

 ……仲間同士で顔を見合わせて何相談することあるってんだ。

「で、でもアラタ、あの時は……」

 一人の冒険者が、何か言いかけた冒険者の肩を叩いて止めた。
 あの時。
 ならず者達の前での大立ち回りのことか?
 勘弁してくれよ。
 それこそ触れてほしくねぇよ。
 黒歴史、とまでは言わねぇけどよ。

「……有り難く使わせてもらいますよ、アラタさん。……今日は、いや、今日までいろいろと面倒見てもらって有り難うございました」

 よせやい。
 首がむず痒いっての。
 あまり夜遅くまで騒いでくれるなよ? ミアーノとンーゴのねぐらが近い場所だしな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!

さとう
ファンタジー
異世界にクラス丸ごと召喚され、一人一つずつスキルを与えられたけど……俺、有馬慧(ありまけい)のスキルは『模倣』でした。おかげで、クラスのカースト上位連中が持つ『勇者』や『聖女』や『賢者』をコピーしまくったが……自分たちが活躍できないとの理由でカースト上位連中にハメられ、なんと追放されてしまう。 しかも、追放先はとっくの昔に滅んだ廃村……しかもしかも、せっかくコピーしたスキルは初期化されてしまった。 とりあえず、廃村でしばらく暮らすことを決意したのだが、俺に前に『女神の遣い』とかいう猫が現れこう言った。 『女神様、あんたに頼みたいことあるんだって』 これは……異世界召喚の真実を知った俺、有馬慧が送る廃村スローライフ。そして、魔王討伐とかやってるクラスメイトたちがいかに小さいことで騒いでいるのかを知る物語。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺若葉
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

処理中です...