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店の日常編

千里を走るのは、悪事だけじゃない その17

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 気付いたら、血まみれの奴ともう二人は悶絶してた。
 もう二人は、かなり怯えてた。
 傍にいる冒険者達も。
 いや、冒険者達は、俺のそばにいる者達全員怯えてた。
 一人だけ例外がいたが。

「あのなぁ、アラタ。お前、いい加減にしろよ」
「逆鱗に触れたってのは分かったけど……やりすぎよ?」

 一体何の話だ?
 というか、俺への拘束がきつすぎないか?
 後ろの冒険者のぷっとい腕で口は塞がれてるし首は動けないし、下半身は動くが体全体が持ち上げられてるから足がぶらぶら。

「アラタのことはあ、俺達が引き受けるからあ」
「モーナー、お前らだって主戦力の一つだぞ? こいつにずっと付き添われてもこっちが困るんだが」
「じゃあ待機組に任せたらいいんじゃない? こいつらの取り調べとかもするんでしょ?」
「あぁ、それもそうか。テンちゃんの怪我も治ってるみたいだし、計画に変更なしということで」

 話が勝手に進んでいる。
 いや、そもそもドラゴン討伐の話は、俺が知らずとも勝手に進めていい話だ。
 ならず者共は全員奴らの店の中に連れ込まれていき、俺はこの場に待機組とずっと一緒にいることになったらしい。

「ったく……。何なんだこの訳の分からない展開は」
「アラタさん、それはこっちが言うことですよ。いきなり駆けつけてきて、いきなり暴力沙汰で、おまけにあの連中の三人の股間を蹴り上げるって」
「暴力沙汰? 何を言ってる。制裁と言え制裁と」

 待機組の中に、たまたまエージ、ビッツ、シーム、デイリーの四人がいた。
 四人揃って、強すぎるハープ系の香りがダメだったらしい。
 待機組の中では一番親しいっつーことで、俺への対応役になったんだと。
 それはともかくだ。
 今気になること言わなかったか?
 股間を蹴り上げた?
 誰が誰の股間を蹴り上げた?

「制裁? あ、あぁ、テンちゃんのことですか」
「そう言えばそんな感じな事言ってましたもんね」
「そんな感じ? 何を言ってんだ?」

 俺、何か言ってたか?
 いや、何をしてたんだ、俺は。

「アラタさん……さっきから微妙に話が噛み合わないんですけど……。ひょっとして覚えてないんですか?」
「あり得るな。あんなにキレたアラタさん初めて見た」
「キレるどころか、怒ったことってほとんどないもんな」
「不機嫌な顔はいつも見てるけどね」

 お前らなぁ……。

「えっとですね、アラタさん。アラタさんが覚えてないと思われるところなんですけど……」

 おいこらエージ。
 聞く側の心構えがまだ整ってないんだがっ。

 ※※※※※ ※※※※※

「なんだてめぇはっ! 関係ねぇだろうが! つか、て、おめえら、いい加減放しやがれ!」

 ならず者の一人が地面の上で仰向けに押さえられながら、こんなことを叫んだのは覚えてる。
 意識が飛んだのはその後からだ。

「関係なんざ大ありだ! テンちゃんと全く関係のねぇテメェが言えることかあ!」

 そう叫んで飛び掛かって馬乗り。
 躊躇いなく目いっぱいの力を込めて、ほんの数秒で八発くらい両手でぶん殴ったとか。
 ならず者の仲間が俺に飛び掛かってきたが、周りの冒険者から取り押さえられたんだそうだ。
 その間にも、俺は二発三発と拳を振るってたらしい。

「俺の大切な仲間に、テンちゃんの、よりにもよって唯一無二の翼を切り落とそうとするってんなら、そのドタマぁ、お前らの仲間と一緒に差し出せや! それでもまだ全然足りねぇぞテメェ!」

 鼻血が噴き出し、歯も二、三本へし折れたとか。
 そこでようやく冒険者の一人に、後ろから抑えられたんだと。

 ※※※※※ ※※※※※

「……一回目の意識飛んだ場面はそれで終わりか?」

 それだけなら、まぁ、まぁ問題ないな。
 俺としては、な。
 暴力事件としてはどうかは分らんが……。
 けど、テンちゃんへの暴力は、明らかに暴力止まりでは収まらない。
 向こうにしちゃ魔物狩りのつもりだったろうが、俺らから見れば仲間を殺しにかかってるんだからな。

「あ、あとは、寝食共にしたテンちゃんと、無関係なわけがあるかーって」
「一部の人達、ドン引きしてたね」
「俺達とか、アラタさんのことよく知ってる人達は、テンちゃんの習性なんかも知ってるから何ともなかったけど」

 おい。
 おいぃ?!
 そりゃテンちゃんの体、あったかくて眠りやすかったけどさ!
 よりにもよってそんなタイミングでそういうこと言うか?!
 頼むっ!
 嘘だと言ってくれ……。

「……何でその記憶ないんだろうな、俺……」
「アラタさん……日ごろからいろいろ溜め込みすぎてんじゃない?」
「不機嫌な事多いから、日頃から発散してると思ってたんだけどな」
「不機嫌な顔って、フリなのか芝居なのか……」
「口で言うほど、みんなの事嫌いじゃないってのは分かりましたけどね」

 うがああああっ!
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