上 下
237 / 493
店の日常編

その人への思い込みを俺に押し付けるな とは言っても、知りたくても教えたくないこともある

しおりを挟む
 それから数日過ぎた。
 営業時間終了一時間くらい前、客が全くいない店の前。
 シオンがまた来ていた。

「……叱られた」

 親衛隊に、お忍びでここに来たのがバレたため、だそうだ。

「知るかよ」
「でもあの者達もお忍びでここに来てたらしいな」
「非番の時に、鍛錬目的で来てたんだと」

 同じお忍びでも、あいつらは自分の任務のため、成長のため、そしていずれにせよ、それはシアンを守るために繋がっていく。
 正当な理由が存在している。
 だから逆に、シアンは親衛隊に何の注意もできなかったらしい。
 シアンにゃ悪いが、笑わずにいられなかった。

「そんなに笑っちゃ悪いよ? シアンだって、好き好んでトラブル持ち込んできてるんじゃないんだし」
「えっと、テンちゃん? 慰めるのと蹴落とすのを同時にしないでくれるかな?」

 今日は、バイトを休みにしたテンちゃんも混ざっている。
 言い回しもなかなかうまくなってきたんじゃねぇか?
 で、シアンの報告によると、シアンと親衛隊のここでの活動は、親衛隊は今まで通り非番の者なら問題なしとされ、シアンのお忍びについても条件付きで自由行動をとれるようにしたとか。

「アラタ達の通話機から親衛隊へ、直通の通話をできるようにする、と」
「それで単独行動の許可下りたのか? 大丈夫かよ」
「君がいてくれるからな。アラタ」

 なんだよその曇りのない笑顔は。
 こっち向けんなっ。
 それに、俺をアテにしてんじゃねぇよ。
 ま、何かあったら、できる範囲でなら助け舟出さんでもねぇけどよ。
 それはそうと。

「あの女三人組はどうなった? 何かキナ臭ぇ話も湧いて出てきたっぽかったが」
「うん。それについては、今のところ問題はない」
「問題大ありだろうが。何か企んでたりしてんのか?」
「人聞きが悪いな。穏便に済ませようって工夫だよ」

 物は言いようだな。

「王宮の別館のスイートルームの個室にそれぞれあてがって押し込んだ。もちろん敷地内までなら自由行動可、ということで」
「へえ?」

 貴族とは言え、その階級内では貧乏暮らし。
 裕福な生活を体験させていれば、変に騒ぎ立てることもない。
 ましてや別館とは言え王宮の一部。
 シアンとの共通点も増えていくことで、彼女達の自尊心も満たされるってことらしい。

「けど、そのうちお前と会話したいとか言い出すんじゃねぇの?」
「かもしれないね。でも物理的に無理。私もいろいろと忙しいからね。その分王宮生活を堪能してもらって、その欲求はそっちに逸らすさ」
「買い物とかどうすんだ? まぁ買い物すること自体にストレス解消する効果があるらしいが……」
「使用人のための店が並んでいるフロアもある。そこを利用してもらえば何の問題もない。建物の中が息苦しく感じたら、庭に出て散歩でも楽しんでもらえたらそれでいいし」

 至れり尽くせりだな。

「彼女達の家族が、もし国家転覆なんて大それたことを考えてるようなら……彼女達に悪いが」
「人質か? その価値があるかどうかは不明だが……」
「国家権力に近づこうとするのが目的なら、現状維持でも十分効果はあるさ。彼女らがあの生活に満足してくれるなら、家族だって大人しくしてくれること間違いないだろうし」

 シアンの方がよっぽど腹黒くないか?
 もっとも誰に対しても平穏にって訳にはいかねぇか。

「それにしてもアラタ。君は結局、旗手ってことを彼女達に伝えなかったんだな」
「口は災いの元ともいうし、沈黙は金とも言う」

 言ったら、初めから説明しなきゃならんだろうが。
 この世界に来たばかりの頃ならともかく、思い出すのだって面倒だわ。

「……いろいろと面倒かけるな」
「まったくだ」
「アラタ。流石に即答はどうかと思うよ?」

 マッキーにみんなが同意するが、それほどまでの間髪入れず即答した俺の反応も大したもんだ。

「はは……。これからも……助けてくれるか?」
「縋ってくるなら応えてやる。ただし無理しない範囲で、な」

 こいつに限っては、安請け合いはまずいよな。
 いつの間にか政治関係の仕事させられてた、なんてのはもうね。
 ま、誰かに聞いてほしい話があるってんなら、聞くだけなら付き合ってやってもいいか。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

処理中です...