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店の日常編

王族の欲 王子の告白 その4

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「法律が存在する以上、私の一族……直系から王が選ばれる。直系の誰もが高い能力を有しているから、誰の目から見ても何の問題もない。だがこんな条件が揃ったらどうなると思う?」

 条件?

「まず、その国家権力に執着すること。そして、自分の立場を危うくすると思わしめる存在が現れること。さらに、自分が王に選ばれた根拠を自ら疑うこと」

 一番は、国家に限らなければ、誰もがいい思いをしたいと思うだろうからそう思う人はいるだろうな、とは思う。
 だから一つ目の条件は大多数に当てはまるだろうな。
 三番目も、自分に自信を持てなきゃそう思うことになるだろう。
 俺も……まあそんなこともあった。
 問題は二番目。
 ややこしい言い方するよな。
 自分の立場を危うくする存在が現れる、とするなら、たとえば王が単身で、周囲に現象の魔物の群衆に囲まれたら、立場どころじゃねぇよな。
 まぁ立場も含むとすれば、この例は当てはまる。
 だが、危うくすると思わしめる存在、ってなぁ……思わされるってことだよな。
 例えば俺にとっての元職場……思い出したくもねぇが、芦名の場合だ。
 当時、俺の先輩に当たる。
 が、立場で俺とあいつを見れば、どちらも平社員。
 上司になったら、おそらく俺を使い潰すだろう。
 しかし当時の上司が昇進しない限り、その席は空くことはない。
 席が空いても芦名がその地位に就くとは限らない。
 そして、その上司の上の席もしばらく空きそうにない。
 だからあいつが近々昇進するという話はない。
 ということは、間もなくあいつが俺の上司になるということはない。
 なのに俺が、あいつは間もなく昇進するだろう、と勝手に思い込むことに似てるってことか。
 つまり……。

「王の立場は揺るぎがないのに、いつ王の座から追い出されるか分からない、と思いこませる存在がいたってことか」
「うん。そういうことだ」

 あ。
 つい口に出ちまったか。
 まぁいいや。
 と言うことは……。

「国民は現象の魔物達の出現と暴虐に苦しめられていた。王も勇者の一人となった時代、世代は、ほかの勇者と共に讃えられた。だが王は勇者ばかりやってるわけにはいかない。内政外交経済生産治水その他諸々の仕事や役割がある」
「国王は勇者でなければいけないってわけじゃない、か」
「勇者の一人は国王でなければならない、と言うことも当てはまる。そして、国王の働きぶりを目の当たりにできるのは、国民の生活に近い場所でしかない」

 読めてきた。
 勇者をしていた王は、国民の目に触れやすい。
 だから国民から讃えられやすかった。
 しかし国民から選抜された勇者ばかりのチームになると、国民は国王の執務の奮闘ぶりが見えにくくなる。
 ただ能力が高いってことだけじゃ意味がない。
 その能力を発揮し、その効果が現れる。
 その二点を国民に見てもらう機会がなければ……。

「国王は何の仕事をしてるんだ? と怪しむ国民も現れる、か」
「勇者の活躍は、昔から国民の生活の場に近い。だが王の仕事は、もちろん国民の生活の視察なんかもあるが、王宮の公務室でなければできないこともある」

 そこに来て、自分の立場に自信を持てなければ……。
 己に、そして国民に対して疑心暗鬼にもなるか?

「……本来、勇者の資質は国民においては後天的なものだ。先天性がある国王、あるいは王族に敵う道理はない。どの世代においてもな」
「あれ? さっき、王は足元を掬われかけたって言わなかったか? それって……まさか……」
「……今まで何度かあったらしい。勇者達と彼らを支援する者達によるクーデター未遂がな」

 グダグダじゃねぇか。
 国民はいつ魔物に襲われるか分からない不安な毎日を送りながら、討伐に期待を寄せる。
 その討伐する側が下剋上を狙ってたら……。
 そりゃまあ討伐に成功したら、世論の後押しってのも出てくるわな。
 それに権力欲は、一番上の地位にいる者しか持てねぇもんじゃねぇ。
 自分はこの国のトップよりも上だ、と思い込む奴の中には、それを証明してその地位に上がろうとする奴がいてもおかしくねぇ。
 その下克上を狙えることを励みにすれば、討伐の成功率も上がるんじゃねぇか?
 そんなふうに権力欲、支配欲が強ぇ者が勇者の中にいて、その代の王が同じ思いを持ちつつ自分の資質に疑いを持ったら……。
 持ったら……。
 あれ?
 持ったら?
 どうなる?

「待て。クーデター未遂ってことは、何とか王の地位を保てたってことだよな。それが王の性根とどう繋がる? ここまでの話、正直お前の親父程ひどい奴ってのは想像できねぇんだけど?」
「召喚魔法の開発に取り組んだのは、その時代から。今の王族の七、八代目辺りからその研究が始まり約七十代にわたる。今から約十代前に開発完了し、成功した。開発目的は……」

 なるほどな。

「泉、雪崩現象から発生する魔群の討伐ではない。クーデター防止。そして、難易度の高い魔術開発による功績を国民にアピールし、王の地位の安定を図り、安泰なものとするため、か」
「……本来ならば、国民の安心と安全のためにするのが、リーダーに選ばれた者として果たすべき仕事で義務だろう?! それが、己の、保身をっ……第一にっ……」

 喉の奥から振り絞るような声。
 苦悩と罪に苛まれる者の声か。
 誰の罪かは分からんが。
 それに……。

「……シアン。お前の苦悩はよく分かった。けど、それが俺と何の関係がある?」
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