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店の日常編

王族の欲 王子の告白 その1

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「……ま、これらの話は、ここに来たついでだ。コーティに通話機を贈る目的で来たんだが……」

 シアンの様子が変わった。
 というか、雰囲気が、か?
 どのみちやな予感しかしねぇ。
 とは言っても、面倒事を押し付けてくるような感じじゃあねぇな。

「さて、今日はもう客も来ないようだし、もう寝ちまうかな」
「晩ご飯の時間すらまだ来てないと思うのだが?」
「否定するとこ、時間の前に客云々だろうよ。話があるんなら、それが長けりゃ客を待たせにゃならんし、この国の王子がこんな田舎の店に来てるなんて噂が立ったら、この村どうなるか分かったもんじゃねぇぞ?」

 もっともこいつがここに来てるのを、不特定多数の人達が目撃している。
 今更、だよな。

「実はアラタ、お前に詫びに来たのだ」

 ……何度言えばわかるんだ?
 詫びはもういらねえつってんだろ!

「あのな、それについてはさんざん」
「いや、アラタ。君が想像している詫びではないのだ」
「何だそりゃ?」
「アラタ。おそらく君は、……父上の非礼、無礼を私が詫びようとしている。そう思っているのだろう?」

 お前が俺に被害を与えるようなことは、はっきり言えば全くない。
 俺がお前を嫌うのは、父親がアレだってことと、今やお前がこの国の権力者だっつーこと以外に理由はない。
 もしも父親がアレじゃなく、そしてお前が一般人だったなら……特に何の感情も湧かない相手だったな、うん。
 だから、話を聞いてくれと言われれば、仕事の邪魔にならないなら、いくらでも聞いてただろうよ。
 お前自身は俺に対して罪とか何とかってのはないんだから。
 だから、詫びに来たと言われれば、父親の代わりにとしか思えん。
 だがそうじゃないってことは……。
 こいつ……俺の知らない間に、俺に損害を与えた?
 まさか、ススキモドキから採ってきた米の半分を食ったとか?
 詫びを入れてほしいようなことと言ったら……そんくらいしか思いつかんが?

「そのような……父親がやらかしたことを詫びるのは、ある意味とても簡単なことだ。あの件に比べれば、な」
「あの件?」

 あの、などと言われたって、俺にゃあ心当たりはない。
 勿体ぶりすぎだろ。
 いや待て。
 ここでなし崩しに話を続けさせちゃ、それこそ……。

「……手っ取り早く話、終わらせてくんねぇか? お前、この国……ひょっとしたら世界的に有名人だしな」
「国内においては、有名なのはアラタ達とそうは変わらんのだが……」
「俺らと? 変わらないわきゃねぇだろうが」
「ファンクラブ、なるものがあると聞いたぞ? この店の……仲間達一人一人に。無論アラタにも」
「……やれやれ……」

 そっち方面かよ。
 つか、桁が違うだろうよ。有名度の。

「話ズレてんぞ? とっとと話せ。そしてとっとと帰れ」
「アラタ、茶化さないの。何となく思いつめたような顔してるわよ? シアンってば」

 分かってる。
 分かってるよ。
 でも今は長話に付き合える時間帯じゃねぇし。

「あの、奥の方に行きません? お茶でも飲んでのんびりしながらでも」

 のんびりってお前。
 閑古鳥鳴いてるって言ってるようなもんじゃねぇか。
 そこまで閑散としてねぇからな?
 時間がくりゃ客は殺到する店なんだぞ?
 つか、お前は主に会計してるから分かんだろうが!

「……厚意に甘えるとしようか。ちょっとお邪魔するよ」
「じゃあこちらの方へどうぞ」

 クリマーまでっ。
 ったく……もう……。

「なるべく早めに済ませろよ?」

 ※※※※※ ※※※※※

 外からは見えない奥の部屋。
 そこに、モーナーとフィールドの二人以外全員揃った。
 一体何をやらかす木なのやら。

「お茶菓子まで出さんでいいだろうが」
「アラタの料簡、狭いわねぇ」

 コーティ、うるせぇよ。

「……で? お忍びで店に来て、コーティに通話機を渡すってのは口実だろ。お前の本命は、ここでする話、だな?」

 能力を使えばそれくらいのことはすぐ分かる。
 だが……、なかなか言い出しづらいこともある。
 そんな口実でも作らないと、その話しづらい話をするために運ぶ足も軽くはないこともある。

「お見通しか。流石、旗手の一人……いや、元旗手、だね」
「……話づれぇんなら日を改めな。話し始めるのに時間がかかるんじゃ、こっちも」
「……今回は、父の詫びをするつもりは毛頭ない。いや、父だけの、と言い直した方がいいか」
「だけ……って……。父と他の誰かの悪事を詫びに来た、ということか?」

 自ずとそんな解釈ができる。
 まぁなんだ。
 こいつも大変だな。
 悪政を強いる親父に耐えかねて、母親と一緒に父親を追いやって、急遽ピンチヒッターで政治を執り、異世界から来た連中には、引き続いて面倒を見て……。
 だがその役目に自らなろうとしたわけだし、頑張れとしか言いようがないんだが。
 それだけならできなくはない。
 が、更に問題抱えて……。

「アラタは、ここに来て……五年くらい経ったか?」
「何だ? 昔話でもする気か? あいにくそんなに暇じゃねぇよ」
「……この世界のことをどれくらい理解できてるのかな、と思ってな」
「人間と魔物がどうのって話くらいなら、いろいろレクチャー受けたよ」
「そうか。……魔法についてはどうだ?」

 魔法?
 確か、魔力を最初から持ってる人間はいない、みたいなことを聞いたような気がしたが……。

「光と闇、そして地、水、火、風、雷の魔法が主だったものだ。複雑で強力な魔法は、これらの組み合わせによって生まれる」
「……また回りくどい話になるのか?」
「辛抱してくれ。それを踏まえて、という話だ」

 ……しょーがねぇ。
 付き合うか。
 みんなもシアンの話を真剣に聞くつもりのようだしな。

「ただ単純に、適当に組み合わせて新たな魔法を生み出そう、と気軽な気持ちでできるものじゃない。考察、検討、研究、洗練されなきゃ生まれないものだ。その集大成と称される魔法がいくつかある。その一つが召喚魔法だ」

 ほほう。
 って、自分の知らない世界の人間を呼び寄せるんだから、まぁそれくらいのスケールのでかさはあるんだろうな。

「逆に、どれだけの時間や知恵をかき集めてもできない魔法もある。不死や死者蘇生の類だな」

 人命に関する魔法か。
 まぁ分かる。

「つまり、この世界で一番高度な魔法は召喚魔法、というわけだ」
「まぁ、分かる。それで?」
「おかしいと思わないか?」
「何が?」
「それ程の魔力、魔術をもってして、よその世界の物を呼び寄せる。なぜその術師たちが、泉や雪崩現象から生まれる魔物討伐に参加しないのか、とな」

 え?
 ……まぁ……。
 そう言われてみれば……うん。
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