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店の日常編

冒険者についての勉強会 その3

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「コホン。で、魔族と呼ばれる者にはもう一つ、特徴があってね。……創造し生産できて、意思疎通もできるってことは、ほかの生産者を相手に取引ができる」
「……なんか社会の勉強してるみてぇだな」
「え?」

 ん?
 何だよ、え? って。

「えーと……先回りされちまったな。結局そう言うことなんだ。物の種類が増える。生活が楽になる。その者を中心として、意思疎通しやすい同属の者達が周りに集まってくる」

 今回の仇討ちの話、どこいった?
 まぁ黙って話を聞くしかないが。

「集団で生活する人数が増えると、村や町ってもんができる」
「それで?」
「つまり、物作りができたとしても、取引相手もおらず集団で生活してない者は、魔族には当てはまらないんだな」
「となると、魔物以外に呼びようがない?」
「その通り」

 と言うことは……。
 ンーゴとミアーノは、地中から土を柔らかくして底なし沼にして、そこにトラップを作ってた。
 これこそ創造と生産だ。
 だが、確かにこれは物々交換の取引の対象にはならねぇな。

「人間が魔族と取引する関係を持ったら、いろいろと規則や決まりごとが必要になる。取引と無関係な事でもだ」
「あぁ、それで保安官がどうのって言うことになるのね?」
「うん。危害が加えたら、加えられたらってこともあるからな。だが取引しない相手には、規則自体生まれるわけがない」
「取り決めの話し合いもできないどころか、その相手がどこにいるのか分からないから、よね」

 いない相手との条約なんか作れるわけがない。
 まぁそれも分かるが……。

「つまり、人間から見た魔族は、自分らと同格ってことだ。だがそんな魔族の定義から外れた魔物は……」
「ひょっとして、格下?」

 フィリクは声を出すのは憚れたのか、マッキーからの質問に黙って頷いた。
 こいつがマッキーに「気を悪くする話」と言ったのはこのことだったのか。
 魔族の定義から外れた魔物……。
 マッキーどころか、おにぎりの店にいる魔物みんながみんな、定義から外れてんじゃねぇか。
 だって……端から同属がいなかったり、追い出されちまったもんだからよ……。

「……その集団から外れちまった魔物、元々集団を成さない魔物同様、我が身と生活を何よりも優先しがちになる。周りとの妥協や調和を考えることはほとんどないからな」
「それと格下扱いとどう関係がある!」

 ……なんか、みんなから見つめられてる。
 そりゃ、ちょっと言葉に力入っちまったけど、そんなに見られるようなことか?

「……アラタ。気を悪くするな。あくまで一般論だ。……関わると利益どころか被害を受ける……っつーより、災害だよな。場合によっては災厄となる。その経験者は……アラタ達は既に対面済みだろ?」

 俺の気が悪くなった?
 いや、今はそれはどうでもいい。
 魔物の一部は災厄をもたらず存在になり、その経験者……被害者ってことだよな。
 あ……。
 あの変な女のことか。

「普通の野生の動物なら、駆除しなきゃならない対象だ。犯罪者を捕まえるんじゃなく、災害をもたらす物を駆除する作業ってことだ。この表現だけでも、ある意味格下っていう認識になるよな?」

 そりゃ確かにそうだが……。

「じゃあそんな魔物との間にそんな災害が存在せず、互いに利益をもたらす関係はどう表現する?」
「友達……じゃないよね」
「トモダチ、ハタイトウナカンケイダカラネ」

 うん。ヨウミとライムノ言う通り。
 友達と呼べる間柄だが……。

「アラタの場合は、本当に稀なケースだ。議論や喧嘩できる対等な立場だからな。時として、逆にアラタがやり込められることも多いが、俺達から見たらそのほとんどは微笑ましい光景……」
「おい。どこが微笑ましいんだ」

 ここは絶対訂正を求めたい。
 特に、相手がコーティだった場合だ。

「話の腰、折らないのっ」

 ヨウミからもやり込められること、多かったな……。
 でも同じ人間だから、うん……。

「……格下と見なす魔物が自分に利益をもたらすことが分かれば、あとは自分に歯向かうことなく従わせることで……」
「……奴隷、ってことになるのかしら」
「一般的に分かりやすく言えばな。だが法律とか規則とかには、その言葉は用いられない。定義が地域や国ごとによって微妙に変わるからな」

 奴隷か。
 商人ギルドから手配書出されたときに、そんな言葉も噂の中に入ってたような気がする。
 こいつらは俺にとっちゃ、今では仲間だ。
 だからこいつらそれぞれ、行動を共にしてきた時から、奴隷なんて言葉とは無縁と思ってたが。

「でも法律とかに奴隷って言葉が存在しないなら、そんな立場の魔物達は何と表現されてるんですか?」
「……所有物だ。所有物扱いにされるんだ」
「……おい」

 分かっちゃいる。
 頭では、フィリクの話は一般論だと分かっちゃいる。
 分かっちゃいるんだが。
 ぶっ!

 いきなり顔面に黒い物が飛び掛かってきたっ!
 なんだこれっ!

「こらっ。サミー! 今、みんな、勉強中なんだから邪魔しないのっ!」
「ミイィ……」

 サミーかよ。
 何をいきなり。

「ソンナニオコルナ、ダッテサ」

 ……怒るな?
 怒ってたのか?
 俺が?

「ったく……腕っぷしはひ弱なくせに、妙に喧嘩っ早くなってない? アラタのくせに……」
「コーティも、そんな憎まれ口叩かないのっ。ほら、サミー、ちょっと大人しくしてて。……アラタもね」

 ちっ。
 ……ここは、珍しく場を繕ってくれるヨウミの顔を立てるか。
 仕方がねぇ。

「つまり今回は、その女は仇討ちと言う正当な理由がある。だが仇じゃない。ここに問題点がある。アラタの所有物の価値を台無しにする、という行為だ」

 言い方に釈然としない思いはあるが、とりあえず俺の気持ちは置いといてだ。
 だがフィリクの言わんとすべきところは納得できる。
 俺の仲間を勝手にどうこうと決めつけるなってことだ。

「アラタ達からの話によれば、その種族は人を襲うだのどうこう言ってたとか」
「あぁ、そうだ」
「それってば、動機のすり替え、だよな。アラタの立場では、自分の物を奪おうとする行為だ。彼女の持つ理由に正当性はある。が、行為に理由がついてこない。そして……俺達も要注意しなきゃならない問題点がそこに潜んでる」

 なんか言い方が大げさじゃねぇか?
 話がでかくなりそうな。

「その種族は人を食うから、という理由だったそうだが、人間の命を守るため、という言い訳にすれば、ある意味公共性が生まれ、正当性も生まれる」
「まぁ、そうだな。納得できんが」
「この時点でのアラタの納得いかない気持ちは些細な問題だ。もしこの公共性が別の理由になった時……例えばその魔物の体には、難病をたちどころに治す、とか、死者蘇生の効果がある、なんて理由があったら?」

 え?

「……何であたし達を見るの? アラタ」
「そんなのあり得ないでしょうに。まさか、あたし達を」

 ……馬鹿言うな。
 だが、あり得ないその話を信じる者がいたら……。
 信じる者達同士で高値で取引されるってことも……。
 まさか……。
 紅丸も……?

「……アラタ? 何、青ざめてんの?」
「ちょっと、アラ」
「おい……フェリク」

 体が震えてるのは分かる。
 寒いんだか熱いんだか分らん。
 フェリクは、忌々しく思えるほど平然としてる。
 一体、この仮定の話はどこまで現実の中に存在してるんだ?
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