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店の日常編

冒険者についての勉強会 その2

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 そもそも、いくら依頼があったとしても、同種族を手にかけるってのはヤバい話だろ。
 少なくとも人間の場合は、間違いなく殺人だし殺人ほう助だ。
 同属と一緒に生活した経験のないライムやクリマー、コーティは、種族内での取り決めは分からないらしい。
 おそらくミアーノとンーゴもそうだ。
 家族や親類と生活経験があるテンちゃん、マッキーは、いくら家族親族から追い出されたとは言え、やはり気が引けるらしい。
 モーナーも言わずもがな。
 サミーにおいては理解不能か。

「ミュ?」

 などと鳴いて、首をひねる仕草をする。
 首がないから体の先端をひねっている。
 あのモフモフの姿の頃は、それこそ可愛く首をひねってたりしてたんだが……。
 あの姿は……二度と帰ってくることはないんだなぁ……。

「おーい、どうした? アラタ」
「あ、すまんすまん。えっと人間に当てはめると、殺人行為になるようなことは、普通は受け付けないってことだな」
「あぁ。喜んで引き受けるのは、裏の社会のどうのこうのって話だが……もはやそいつらは冒険者とは言わねぇから省略だ」

 ごもっとも。

「ただ、それに近い依頼が出ることもある」

 物騒だぞおい。

「市町村、国から出される依頼だ。罪人逃亡とか手配書の類だな。捕獲時点で生命に異常がなければ、手荒なことをしても構わないってな」

 ……手配書?
 ひょっとして……。

「あたし達、経験済みね」

 おわっ!
 びっくりした。
 小声でヨウミが突然声をかけてきた。
 あぁ……そうだよな。
 てことは……手足もいでもひっ捕まえてこいってことだったんだろうな。
 能力がなかったら、今頃どうなってたか分かんねぇや。
 ……俺、今、小便もらしそうになってる。
 やべ、俺、体震えてねぇか?

「またちょっと話がずれたか。で、今回は人間が魔物に仇討ちだっつって襲いかかってきて?」

 え?
 あ、おう。
 何か、心中取り乱してんな、俺。

「あぁ。仇とか言いながら、当たり前だがそいつの村を潰した奴とは違ったのを知ったと思ったら、人を食う魔物だから討つだのと」

 ミアーノとンーゴを見たことがある奴は、サキワ村農場のサーマルさん、村人達の中からの見回り有志達だけだな。
 生息区域があそこから森深くの方面だし、ミアーノはまだしもンーゴはあの巨体だ。
 こいつらの前に連れてきたら、間違いなく村中大パニック。

「……つくづくアラタってば、いろんな魔物にも好かれるなぁ」

 こいつらが俺のことを無条件で好きになってるわけじゃねぇ。
 そこら辺は誤解してほしくはないんだがな。
 で、フィリクは俺の後ろにいる仲間に視線を移した。
 何か見えたのか?

「まぁ……そうだな。エルフのマッキーさんにはちょっとムカつく話になっちまうかもしれんが」

 あ、そっちを見たのか。
 でもなんでまたマッキーにピンポイントで指名するんだ?

「……あたしは構わないけど? 話続けてくれる?」
「うん。……人間社会、つまり市町村、国の考え方はいろいろあってな。ここで話す内容は、対魔物限定なんだ。他の者に対する考え方も適用できるのもあるが、それはおいといて」

 そりゃ話があっちこっちに行ったら、何の話してるのか分からなくなっちまうからな。
 魔物限定にしてもらった方が、この場においては分かりやすくはなるだろ。

「人、という呼び方は、この世界で社会を形成してる者達の総称だ。だからエルフもドワーフもノームも巨人族亜人族も人という呼び名で一まとめにしてる。それらの種族においては分からんがな」

 エルフの社会の中で、この世界で社会を作ってるすべての種族の総称を何としてるかってのは分からないってことか。
 で?

「人間は俺達のことだろ? 人って言うとそういう意味での他種族も含まれる。魔物と言うと、人間以外の種族を意味することになる」

 ふむふむ。
 俺は分かったが……。

「みんな、理解できたが?」

 なんと驚くことに、真っ先に反応したのがサミー。
 両腕で地面を同時に叩いてる。

「ヒトハミンナナカヨクデキル。ニンゲンハニンゲンノミ。マゾクはニンゲンイガイノシュゾク」
「分ったぞお」
「うん。理解できたよー」

 ライムはフィリクの話をまとめ、それを繰り返してる。
 口調がのんびりしているモーナーも、馬鹿天馬のテンちゃんも、フィリクの話についてきている。
 ほかのみんなも問題なさそうだ。

「んじゃ次は魔物についてだが、先天的に魔力を有し、自分の意思で発動できる存在すべてのことを指す」

 魔力を使う物で魔物。
 うん、分かりやすい。

「ただし、なんの媒体も使わずに、だ」
「媒体?」
「それって多分杖とか魔法陣とかですか?」
「ヨウミちゃん、分かってるねぇ。ただし、発動が前提条件な」

 また頭をひねんなきゃ解釈できそうにないことを。

「魔物が指を突き出して魔力を発動させようとすることがある。あれは発動のためじゃなく、発動箇所や場所の目安として指を出してんだ。杖とかの道具もそうだな」
「目安?」
「他の術師がその魔力を増幅させたり合体術かけたりな。場所が分かんなきゃ併せ技出せないからさ」

 なるほど。

「ところが人間は例外なく、きっかけなしに発動はできない。道具や術は魔力をこの世界に出現させる呼び水ってとこだな」
「人間のことはほとんど知らないから興味深いわねぇ」
「ウン、オモシロイ」

 すぐに飽きるんじゃなかろうかと思ってたコーティも、何やらメモを取ってる。
 こんな勉強会も、俺達の結束を固めるのにはいいかもしんねぇなあ。

「そして魔物と魔族にも違いがある。区分としての呼称の違いってのもあるが」
「区分?」
「魔族も魔物の中に入るってこと。理由は今言ったことだから分かるよな?」
「魔族以外の魔物は何があるんですか?」
「魔獣だね。あと魔族以外の魔物も魔物と言う。そういう意味では魔族のことを魔物とは言わない」

 これまたややこしいことを。

「ライムちゃんやテンちゃん、サミーも魔物と呼ばれることはあるかもしれない。でもマッキーやコーティちゃんのことは魔物とはあまり言われないはずだね」
「確かに……」
「言われてみればそうかも」

 ふむ。
 ひょっとして……。

「人間の姿形をしてるかしてないかってことか?」
「それも理由に含まれると思う。答えは、物を創造し、生産できるかどうか、だな」

 え……予想外だった。
 意外と単純だった。

「あたし、生産できるよー」
「え? テンちゃんが? 何を?」

 うわ、ムカつく顔してる。
 殴りたい、そのドヤ顔。

「ご飯食べた後―、トイ」
「言わせねぇ!」

 おいバカ止めろ!

「……テンちゃん……面白いなあ……」

 ほら……空気が微妙になってる……。
 どうすんだこれっ!
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