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店の日常編
外の世界に少しずつ その7
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「ちょっと! サミー! なにしてんのっ?!」
フィールドで飯を食ってた連中が戻ってくるなりやかましい。
「静かにしてろ。俺の頭を見て剃髪してもらおうって思いついた客だよ」
「はぁ?!」
俺みたいに草むらに座らせるのもなんだったから、車庫の荷車に腰掛けさせて、後頭部からサミーに剃らせた。
ずっと座りっぱなしにさせるのもなんだったから、タオルケットと枕を持ってきて仰向けにさせた。
連れも隣に座ってサミーの動きを見ていたが、そのうち横になって、そしてうたた寝。
気持ちは分かる。
「あ、サミーと一緒に先にここに来たの、アラタのそれ? いい感じになってる」
「今朝は思わず笑ってしまいましたが……ちょっとかっこいいかもですね」
失敗しても俺の頭。
だから試しに、サミーに仕事をさせてみたらどうなるか。
今朝目が覚めて、初めてサミーを見た時、当然サミーもあの頭を初めて見たはずだ。
が、何の反応もなかった。
距離が近かったから剃り跡が目に入らず、それで気付かなかったんだろうな。
昼休みに剃らせたときも、顔の上に乗っかって鼻をスリスリしていた。
つまり、俺の髪型の全体は目に入ってなかったはず。
もしもそんな状態で仕事が終わった時、俺の頭を見た奴らの反応が好感を持てるものだったとしたら……?
おそらく、今まで自分で髪の毛を切っていたちょっと面倒な作業を、安心してサミーに任せられる。
それで話は終わると思ってた。
それが、金を払ってまで剃ってもらいたい、という奴まで現れたってんだからなぁ。
バランスよく剃ることができたのはたまたまだとしても、頭全部を剃髪するってぇと髪型のバランスなんて考える必要ないからな。
それに、頭髪を全て剃り落としてる奴は割と多い。
理髪店の人達に配慮せずに考えれば、これも副業になるかも分からん。
サミーの剃髪も、瓢箪から駒、だよな。
この世界に来てから、この言葉の連続だ。
いや、この世界に腰を据える、と決めてからか?
「でも、この落ちた髪の毛どうするの? 散らかしっぱなし? まぁ風が吹けばどっかに飛んでくだろうけど」
テンちゃんにしては気が回るな。
指摘されるまで気が付かなかった。
「この掃除までは……手が回らないかもしれません」
「アラタ、するんだよね? アラタが引き受けた仕事でしょ?」
当てつけるような言い方すんなよ。
「ダイジョウブダヨ、ヨウミ。ライム、オソウジデキルヨ」
「へ? 箒持って? ダメダメ。アラタにやらせなきゃ。こういうことはね」
「ント、オソウジジャナカッタ」
「掃除じゃない? 何すんの?」
俺もマッキーと同意見。
何しようとするんだ?
「イッタダッキマース」
え?
おい。
……クリットが仰向けで寝ている周りの床を、コロコロの掃除道具みたいに形を変えたライムが、あの道具のように転がっていく。
……床掃除そのままじゃねぇか。
「ある意味便利ね。一家に一台」
「やめろ」
俺に掃除をやらそうとしたヨウミが言っていい事じゃねぇような気がする。
言ってもいいことであったとしてもだ。
それはちょっと……。
いや……。
ちょっと気になることを思い出した。
ドーセンの店の、米袋が置かれている場所。
米の選別で、米をこぼすことはなかったんだが、米の欠片がな。
まったく散らばせずに選別するってのはちと無理だった。
ドーセンは気にすんなっつってたけど……。
「……行ってみるかな」
「今から? どこへ? 無理だよ」
「何でよ」
ヨウミに止められた。
「午後のお店の時間だもん」
あぁ、そりゃ無理か、うん。
「っていうか、この二人、起こさないの? サミーもお仕事終わったみたいだよ?」
おっと、その前にこっちかよ。
って、こいつらも目的があってここに来たわけだしな。
剃髪は物のついでだもんな。
※※※※※ ※※※※※
アークスとクリットの二人と、何度か押し問答をした。
一回の仕事に二千五百円。
おにぎりのセットはどんなに高くても一つで五百円くらいだが、一つだけ売ることはほとんどない。
大概何人かのグループで買いに来るからな。
大体五、六人で一組というグループ。
本職とほぼ同額の儲けにするというのはどうなんだ?
ということで気が引けてな。
「いいからとっとけよ」
「子供の小遣い程度。気にすることでもあるまいに」
と押し付けられた。
彼ら、というか、クリットだけなら気にしなくてもいいだろうが、そのことをどこかから聞いた者達がやってきたら、それも仕事の一つになっちまうかも分からん。
これを本職にしている者達に申し訳ない気がしないでもないが……。
「ミィミィ」
サミーは両手を同時に振りながら、全身で喜びを表している。
結局このハサミはなんなんだ。
まぁいいけどさ……。
「ほらほら、ぼーっとしない。お客さん並び始めたよ? はい、いらっしゃいませー」
「じゃあ私、品物陳列しますね」
「うん、よろしく」
「じゃああたしはテンちゃんと、フィールドの方に行ってるから。モーナーはダンジョンの深いところ広げてくるって言ってた」
「うん、行ってらっしゃい、マッキー、テンちゃん」
「イッテラッシャーイ」
ライムは荷車の床掃除。
店が落ち着いたら、ドーセンの物置に行っておかないとな。
やはり仕事は、後片付けまで終わらせて仕事と言えるだろうからな。
まぁ埃とか、俺の仕事とは無関係の汚れもあるけどな。
ん?
冒険者以外の誰かが来そうだな。
シアンじゃないことは確かだが……。
フィールドで飯を食ってた連中が戻ってくるなりやかましい。
「静かにしてろ。俺の頭を見て剃髪してもらおうって思いついた客だよ」
「はぁ?!」
俺みたいに草むらに座らせるのもなんだったから、車庫の荷車に腰掛けさせて、後頭部からサミーに剃らせた。
ずっと座りっぱなしにさせるのもなんだったから、タオルケットと枕を持ってきて仰向けにさせた。
連れも隣に座ってサミーの動きを見ていたが、そのうち横になって、そしてうたた寝。
気持ちは分かる。
「あ、サミーと一緒に先にここに来たの、アラタのそれ? いい感じになってる」
「今朝は思わず笑ってしまいましたが……ちょっとかっこいいかもですね」
失敗しても俺の頭。
だから試しに、サミーに仕事をさせてみたらどうなるか。
今朝目が覚めて、初めてサミーを見た時、当然サミーもあの頭を初めて見たはずだ。
が、何の反応もなかった。
距離が近かったから剃り跡が目に入らず、それで気付かなかったんだろうな。
昼休みに剃らせたときも、顔の上に乗っかって鼻をスリスリしていた。
つまり、俺の髪型の全体は目に入ってなかったはず。
もしもそんな状態で仕事が終わった時、俺の頭を見た奴らの反応が好感を持てるものだったとしたら……?
おそらく、今まで自分で髪の毛を切っていたちょっと面倒な作業を、安心してサミーに任せられる。
それで話は終わると思ってた。
それが、金を払ってまで剃ってもらいたい、という奴まで現れたってんだからなぁ。
バランスよく剃ることができたのはたまたまだとしても、頭全部を剃髪するってぇと髪型のバランスなんて考える必要ないからな。
それに、頭髪を全て剃り落としてる奴は割と多い。
理髪店の人達に配慮せずに考えれば、これも副業になるかも分からん。
サミーの剃髪も、瓢箪から駒、だよな。
この世界に来てから、この言葉の連続だ。
いや、この世界に腰を据える、と決めてからか?
「でも、この落ちた髪の毛どうするの? 散らかしっぱなし? まぁ風が吹けばどっかに飛んでくだろうけど」
テンちゃんにしては気が回るな。
指摘されるまで気が付かなかった。
「この掃除までは……手が回らないかもしれません」
「アラタ、するんだよね? アラタが引き受けた仕事でしょ?」
当てつけるような言い方すんなよ。
「ダイジョウブダヨ、ヨウミ。ライム、オソウジデキルヨ」
「へ? 箒持って? ダメダメ。アラタにやらせなきゃ。こういうことはね」
「ント、オソウジジャナカッタ」
「掃除じゃない? 何すんの?」
俺もマッキーと同意見。
何しようとするんだ?
「イッタダッキマース」
え?
おい。
……クリットが仰向けで寝ている周りの床を、コロコロの掃除道具みたいに形を変えたライムが、あの道具のように転がっていく。
……床掃除そのままじゃねぇか。
「ある意味便利ね。一家に一台」
「やめろ」
俺に掃除をやらそうとしたヨウミが言っていい事じゃねぇような気がする。
言ってもいいことであったとしてもだ。
それはちょっと……。
いや……。
ちょっと気になることを思い出した。
ドーセンの店の、米袋が置かれている場所。
米の選別で、米をこぼすことはなかったんだが、米の欠片がな。
まったく散らばせずに選別するってのはちと無理だった。
ドーセンは気にすんなっつってたけど……。
「……行ってみるかな」
「今から? どこへ? 無理だよ」
「何でよ」
ヨウミに止められた。
「午後のお店の時間だもん」
あぁ、そりゃ無理か、うん。
「っていうか、この二人、起こさないの? サミーもお仕事終わったみたいだよ?」
おっと、その前にこっちかよ。
って、こいつらも目的があってここに来たわけだしな。
剃髪は物のついでだもんな。
※※※※※ ※※※※※
アークスとクリットの二人と、何度か押し問答をした。
一回の仕事に二千五百円。
おにぎりのセットはどんなに高くても一つで五百円くらいだが、一つだけ売ることはほとんどない。
大概何人かのグループで買いに来るからな。
大体五、六人で一組というグループ。
本職とほぼ同額の儲けにするというのはどうなんだ?
ということで気が引けてな。
「いいからとっとけよ」
「子供の小遣い程度。気にすることでもあるまいに」
と押し付けられた。
彼ら、というか、クリットだけなら気にしなくてもいいだろうが、そのことをどこかから聞いた者達がやってきたら、それも仕事の一つになっちまうかも分からん。
これを本職にしている者達に申し訳ない気がしないでもないが……。
「ミィミィ」
サミーは両手を同時に振りながら、全身で喜びを表している。
結局このハサミはなんなんだ。
まぁいいけどさ……。
「ほらほら、ぼーっとしない。お客さん並び始めたよ? はい、いらっしゃいませー」
「じゃあ私、品物陳列しますね」
「うん、よろしく」
「じゃああたしはテンちゃんと、フィールドの方に行ってるから。モーナーはダンジョンの深いところ広げてくるって言ってた」
「うん、行ってらっしゃい、マッキー、テンちゃん」
「イッテラッシャーイ」
ライムは荷車の床掃除。
店が落ち着いたら、ドーセンの物置に行っておかないとな。
やはり仕事は、後片付けまで終わらせて仕事と言えるだろうからな。
まぁ埃とか、俺の仕事とは無関係の汚れもあるけどな。
ん?
冒険者以外の誰かが来そうだな。
シアンじゃないことは確かだが……。
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