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店の日常編

外の世界に少しずつ その6

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 昼休み時間中のおにぎりの店にやってきた二人の客。
 シアンの親衛隊隊員なんだそうだ。
 重装備をしている方の一人、クリットと名乗った男が依頼した仕事は、自分の頭の剃髪。
 おにぎりの店に頼む仕事か?!
 理容店とかに行けよ!
 俺の前髪の一部を剃り落としたサミーを見て思いついたらしいがな。

「剃髪だから、髪の長さとか分け方とか気にせずに済むし、アラタ殿の皮膚からの出血も見られない。安心して任せられそうだなと」
「でも相場とかあんだろ。価格崩壊させちまいかねないし、格安になったらそれこそ客が殺到しちまう」

 うちはあくまで、おにぎりの店がメインだ。
 この世界でも理髪店、理容店に従事する人達も資格が必要なら、無資格で営業してることになる。

「理髪店は刃物を扱うし、化粧品……とでもいうのか? ひげ剃り前などに使う液体とかも必要だろう。だがサミーは一切使ってなさそうだし、傷がついて血が出ても本職で受けるケガに比べれば可愛いものだ」

 そりゃ可愛いもんだろうよ。
 だったら……。

「金をとること自体問題になりそうだな。サミーのいたずらに身を任せた結果、髪の毛一本も残さず剃られた、と……」

 いうことにすればいいはずだ、よな。

「アラタ殿。それはまずいんじゃないかと思う」

 クリットの連れのアークスとやらからのご意見ですかい。
 そりゃまたなんでだ。

「俺らの正体は、ちょこっと調べりゃすぐ分かる。親衛隊の人の頭に、この店の魔物がいたずらしてた、という噂が流れたら……」
「あぁ、そうだな。噂ってのは、無関係で無責任な連中から広まることが多い。関係者から広まるのは、噂じゃなく伝聞って奴だからな」

 口コミ、って言葉はこの世界にはないのか。
 まあいいけど。

「ってこたぁ、金をとれば……」
「俺達がアラタ殿に依頼した仕事ってことだ。悪い噂が流れるとしたら、その仕事に出来不出来に寄るものだ」
「けどなぁ……」

 その業種の人達に迷惑かけちまうんじゃねぇか?
 常連さんがこっちに流れてくりゃ……。

「それに……剃髪の相場は二千五百円くらいだ。高くても、洗髪とひげ剃りも入れたとしても五千円で釣りがくる」

 剃った頭を洗うのが洗髪ってどうなんだ?

「つまり、こんな田舎に二千円くらい安くしてくれる理髪店がある、と聞いたとしてだ。車代五千円くらいかけてくる奴がいるかどうか」
「あ……、あぁ、なるほど」

 料金が安い店を探し求めた結果、交通費がその差額を超えるとなると、間違いなく損をする。
 いくら格安店に行きたい人でも、トータルで損をするような行動はとらんだろ。
 となると、あとは時間だが……。

「あんたらはここに、ダンジョンで鍛錬しに来たんだよな? その時間が削られるぞ?」
「剃髪だけなら三時間も四時間もかかるまいよ。アラタ殿の剃り込み、どれくらい時間かかったんだ?」

 えーと……。
 五分かかったか?
 十分はかかってないな。

「ま、時間がかかりすぎるようなら途中でやめてもいいように、左右のバランスを整えながら剃ってもらえりゃいいさ」

 いや、それは却って時間がかかるんじゃ。

「全部剃ってもらえたら二千五百円で。途中で中断なら、最低でも千円くらいでどうだろう?」
「ちょっと待て。この村にだって理髪店はあるだろ。そっちに行ってみたら?」

 いくら僻地とは言え、人が生活している以上は、それなりに店の業種は揃ってるはずだがな。

「もしこの村に店があったとしてだ」

 ん?

「店の世話になってからここにお願いしに来たら、いろいろ評判が立ってまずかろう?」

 まぁ、そうだな。
 あの理髪店は客を逃がした、なんて噂が流れたら……。
 間違いなく逆恨みされちまう。

「けど先にここに世話になって、その後で理髪店に行くようになったらどうだ?」
「田舎でも、素人よりは腕のいい店はある、と……」
「うん、そう言うことで頼みたいんだが……」

 なんか……丸め込まれた気がしないでもない。
 まぁでも、そういうことならその業種からは叩かれずに済むか。

「でも、ずっと座りっぱなしになるんじゃねぇか? 疲れてもしらんが」
「サミーに鼻でスリスリしてもらえるなら、そんな疲れなんか問題にならんな、うん」

 本人がよけりゃ別にこっちは構わんけどなぁ……。
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