上 下
183 / 493
店の日常編

外の世界に少しずつ その1

しおりを挟む
 おにぎりの店も随分大所帯になった。
 なったというかなってしまっていたというか。
 日中はそうでもないんだが、夜になるとつくづくそう思う。
 というのも、日中にみんなが揃うということはほとんどないから。
 全員が揃う時は、三食の飯時くらいか。
 というのも、モグラっぽい獣人と、ミミズというか、手足のないイモリだったかヤモリだったかが巨大化したようなンーゴは、いつもフィールドにいるからだ。
 飯時は、今まではドーセンの宿屋で食ってたが、冒険者の客で満員になるようになってしまった。
 増改築が終わった彼の宿屋もすでに悲鳴を上げてるそうだ。
 しょうがない。
 元々部屋数自体が少なかったから。
 建物自体を丈夫にし、部屋の内装も幾分か居心地よくしたそうだが、手を加えたのはそれだけ。
 部屋数は二つか三つ増えただけだが、予約客は遥かにその数を超えるようになっちまったようだ。
 多分人と巨人族のハーフなんだろうモーナーは、今まではドーセンの宿屋で寝泊まりをしていた。
 初級冒険者のニーズにあったダンジョンがある、という話を聞いた俺達……同じ人間のヨウミとダークエルフのマッキーの三人なんだが、それがあるここ、サキワ村にやってきた。
 ドーセンが引き合わせてくれたダンジョンを一人で掘り続けていたモーナーに、山の崖に穴を掘ってもらい、おにぎりの店と俺達の住まいにした。
 プリズムスライムのライムと灰色の天馬のテンちゃんと再合流。
 またモーナーに頼んで部屋を増やした。
 予備の部屋もあったし、テンちゃんは荷車を停めている車庫に泊まりたがっていたが、物置なども必要だし、ということでさらに奥行きが深くなった。
 最初はクレーマーとして、弟のゴーアと一緒に店にやってきたドッペルゲンガー種のクリマーが加入。
 ゴーアはドーセンの店で、姉のクリマーは俺の店で働くことになり、またも部屋を増やす。
 フィールドの近くに落ちていた卵を紆余曲折の末に孵して生まれたギョリュウ族のサミー。
 その道中で合流したミアーノとンーゴが仲間に加わった。
 そして魔力の強さのあまり姿を隠すことができない、ピクシー種のコーティが加わった。

 俺抜きでも、互いにそれなりに仲が良さそうで何よりなんだが、サミーは一日のほとんどが俺にべったり。
 卵から孵って半年もたたないんじゃないか?
 甘えん坊なのも仕方がない。
 が、他の仲間達と仲良くしてるし、テンちゃんには一丁前に毛づくろいまでしてあげてる。
 もっともテンちゃんから一方的に毛づくろいをし続けてもらっていたことで覚えたんだろうが。
 それに、村人で唯一店にしょっちゅう顔を出す双子の子供とも親しくなった。
 成長も見えて何よりなんだが、逆に成長してねぇんじゃねぇか? と疑いたくなるのがテンちゃん。
 夜になると、自分のお腹をみんなの枕にして寝せたがる。
 自分が布団になるという行為が、みんなの寝床の世話をしてるように見える。
 だが見方によっては、夜は一人で眠れないという受け止め方もできる。
 いつまでも一人で眠れない寂しん坊ってことだ。
 しかし悔しいことに、寝心地がいいんだよな。
 翼を掛布団にしてくれるから尚更。
 天然の羽毛布団って訳だ。
 でも、人間より体が大きい種族だが、それでも一応部屋は作ってある。
 最近ようやく自室で寝るようになったのだが、日中は憎まれ口を叩きながらも俺に付きまとってるコーティが、夜にはテンちゃんに付きまとうことが多くなった。
 俺の指先から肘くらいまでの身長のコーティは、そんなテンちゃん布団がちょうどいいサイズとか言いながらその腹に潜り込む。
 脱水症状さえ起こさなきゃ、別に構わねぇんだけどよ。
 ヨウミとマッキーとクリマーは、同じ体型をしているということからか、時々女子会とか何とか言いながら、誰かの部屋に一緒に寝ることがあるようで。
 そこら辺はよく分からん。仲良きことは美しき哉。

 で、そんな成長を見せるサミーは、夜はやっぱり俺の寝床に入りたがる。
 一緒に寝たいってことなんだな。
 寒い季節には暖かくって有り難い事なんだが……。

 ※※※※※ ※※※※※

「ふわあぁ……。……うー……。朝になったら朝陽が差し込む窓が欲しい、ってのは贅沢かなぁ……。朝だぞー。サミー、起きろー」
「ミュゥゥ……。ゥァァ」

 サミーは、小さく突き出た鼻の下にある、小さい口をそれなりに大きく開けてあくびをする。
 その口目掛けて小指をちょこんと入れたらどうなるかな。
 閉じた時に驚いた顔するんだろうか?

「お前は着替えの必要はないから楽そうだな。抜け毛はありそうだが」

 毛の生え代わりはあるようだ。
 だが脱皮もする珍しい種族……というか、ギョリュウという種族自体珍しいそうなんだが……。

「……今日の抜け毛は短いのばかりだな。黒いのも……って、黒しかないな。お前……黒い毛なんてあったか?」

 サミーの体は小さいエイの形。ただし背中は盛り上がっている。
 形を気にしなければその鳴き声も相まって、茶色が主体の毛が生えた猫だ。

「まぁ……これだけの量ならすぐ掃除も終わるし……気にするほどじゃないか。……サミー、これ、片づけられるか?」

 サミーは両腕のハサミを交互に振り下ろし、床を叩く。
 否定のジェスチャーだ。
 肯定は両手を同時に上げ下げする。
 サミーの口から出るのは猫の様な鳴き声のみ。
 お喋りはできないが、俺たちの会話を聞き、理解できるようだ。

「……息で吹き飛ばして、部屋の外に出すだけでもいいぞ?」

 今度は両手で同時に床を叩く。
 よし。毛の処理は任せた。
 っていうか、自分の抜け毛だろ?
 自分のことは自分でできるようにならにゃなぁ。

「さて……今日の仕事は米研ぎから始めるかなー。まだみんな寝てるから、洞窟内の掃除にゃ早いか」
「ふわあぁぁ……って、あ、おはようございます、アラタさ……ん? んん?」
「おう、おはよう、クリマー。どした?」

 クリマーは誰に対しても丁寧語を使うし、相手を呼ぶときも大抵さん付けだ。
 堅苦しさを感じることもあるが、どんな時でも態度が全く変わらないことには好感は持てる。
 だが例外もあって、サミーにはちゃん付けで呼ぶし、ライムには時々呼び捨てする時がある。
 弟のゴーアにも呼び捨てだな。当たり前だろうが。
 だが……。

「……ぷっ。ぷふふふっ」

 人の顔を見るなりいきなり笑いだすのは失礼だろう。

「何だよ。突然。気分悪いな」
「い、いえ……だって……ぷふっ。あ……ひょっとしてアラタさんの部屋には鏡はないんですか?」
「鏡ぃ?」

 鏡見てみろってか?
 何なんだよそれ。

「ちょっと待っててください。持ってきますね」

 で、部屋に戻ってきて持ってきた手鏡を見せられた。

「……おい……。おい……」

 前髪の左側が……なかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

付与効果スキル職人の離島生活 ~超ブラックな職場環境から解放された俺は小さな島でドラゴン少女&もふもふ妖狐と一緒に工房を開く~

鈴木竜一
ファンタジー
傭兵を派遣する商会で十年以上武器づくりを担当するジャック。貴重な付与効果スキルを持つ彼は逃げ場のない環境で強制労働させられていたが、新しく商会の代表に就任した無能な二代目に難癖をつけられ、解雇を言い渡される。 だが、それは彼にとってまさに天使の囁きに等しかった。 実はジャックには前世の記憶がよみがえっており、自分の持つ付与効果スキルを存分に発揮してアイテムづくりに没頭しつつ、夢の異世界のんびり生活を叶えようとしていたからだ。 思わぬ形で念願叶い、自由の身となったジャックはひょんなことから小さな離島へと移住し、そこで工房を開くことに。ドラゴン少女やもふもふ妖狐や病弱令嬢やらと出会いつつ、夢だった平穏な物づくりライフを満喫していくのであった。 一方、ジャックの去った商会は経営が大きく傾き、その原因がジャックの持つ優秀な付与効果スキルにあると気づくのだった。 俺がいなくなったら商会の経営が傾いた? ……そう(無関心)

追放されたテイマー半年後に従魔が最強になったのでまた冒険する

Miiya
ファンタジー
「テイマーって面白そうだったから入れてたけど使えんから出ていって。」と言われ1ヶ月間いたパーティーを追放されてしまったトーマ=タグス。仕方なく田舎にある実家に戻りそこで農作業と副業をしてなんとか稼いでいた。そんな暮らしも半年が経った後、たまたま飼っていたスライムと小鳥が最強になりもう一度冒険をすることにした。そしてテイマーとして覚醒した彼と追放したパーティーが出会い彼の本当の実力を知ることになる。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

処理中です...