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店の日常編

ファンクラブをつくるのはいいが俺を巻き込むな 問題を起こさなきゃ問題なしということで

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 ワッツはこんなことを言っていた。
 テンちゃんの優しそうな目が好きだ。
 気品を感じる毛並みが好きだ。
 羽根の一枚一枚が生え揃っている翼が好きだ。
 バランスのいい体格が好きだ。
 まぁ……まずは外見から好みを決めるよな。
 それは否定しない。
 けど、相手が自分にどう思ってるのかを知るのが遅かった。
 相手の名前を知るのが遅かった。
 相手の素性を知るのが遅かった。
 そして、なぜ俺と一緒に行動しているのかを知ろうとしなかった。
 テンちゃんに対し、愛情ってのはあるだろう。
 けど、恋愛だの結婚だのの意識は、多分テンちゃんにとっては足りなかった。
 ワッツに好意を持たれていたことは、全く気付いてなかったし、知った後も『え? あ……そうなんだ……』の一言で終わってしまった。
 ワッツの、テンちゃんに対する評価が、何となく美術品への物に似たような気がした。
 美術品を手元に置いておきたい。
 その思いが、敬愛よりもより身近なものに感じたから、だから着せ替え人形みたいな扱いをしているような気がしたんだろう。

「恋愛……かぁ。よく分かんないや」

 彼が去った後のテンちゃんの最初の一言だった。

「無理して感じ取ろうとするもんでもねぇよ。自然と湧き上がる気持ちの一つなんじゃねぇの?」
「アラタの怒鳴り声みたいに?」

 例えが悪すぎんぞ、マッキー。
 でもまぁ……。

「お前が俺達に感じていることを、他の誰かに同じような思いを持てるようになったら……恋愛よりも大切な感情なんじゃないのかねぇ……。よく分からんっ」
「分かんねぇんかよっ!」
「分かるわけねぇよ。こっちゃそんな感情なんて簡単に踏みにじられた経験しかねぇんだからよっ! ……て、いつまでもくっちゃべってねぇで、とっとと晩飯食おうぜ。はい、いっただっきまーすっと」
「いっただっきまーす!」

 声が揃った食前の挨拶を聞くと……うん、やっぱ安心感はあるな……。

「でもさ、アラタがあんな風にお話ししてくれるって、今までなかったよねぇ」
「そりゃそうよ。これからはぁ、家族だもんねっ」

 ヨウミ、うぜぇ。
 何だそのドヤ顔は。

「ヨウミだって当てはまるし、他のみんなも、今後どんな奴を相手にしなきゃならんか分からんぞ? 同じ事言うけど、人間関係の間に生まれる感情ならどんなことにだって当てはまる。誰かに頼らなきゃ切り抜けられない難局ならそいつに頼るしかないが、自力で何とかできるように成長することも必要だからな?」
「ミィ~」

 流石にサミーの脱皮は自力でやってもらわにゃ困るけどな。

「ミューって子も、アラタの話は理解できたみたいで……」
「ほお」

 結局あの子はどうなったんだ?

「なんか、ここに来る時は遠巻きにして見てる……って……」
「人気が変わらずに何より」
「何より、じゃないよっ! 同性とどうこうって趣味はないってのに……」
「別にいいじゃねぇか。この森の奥から、今もヨウミのことを……ってオチはないんだろう?」
「気味悪いこと言わないでよっ! 彼女達も仕事があるから、毎日ここに来ることはないって言ってたけど」

 自分で言ってて気味が悪くなったが、まあそれならまずは一安心。

「キュウカノヒ、アソビアイテ シテクレルッテー」

 まぁ……ライム相手に恋愛感情持つ奴もいないとは思うが。
 マスコット的存在って感じだからな。
 サミーと……不本意ながらンーゴもそうらしい。
 確かに人それぞれだけどさ。

「あたしはごめんだな。どうせ物珍しさに寄ってきてるだろうしよ。このおにぎりよりもうまいモン食わせてくれるってんなら考えてもいいけどなっ。デザートとかって奴ぁ、確かに味はおにぎりよりもいいけどよお。つーことで、あたしの為にどんどん作れよなっ!」

 別にコーティのために作ってんじゃねぇよ!
 でも、こっちが迷惑と思わない限り、受け入れてくれる人が増えるってのは悪い気分じゃないな。

「でも……でーと? 行きたい場所ってあまりないよねぇ」

 どこで覚えたのやら。
 あ、ヨウミ達の話でも聞いたのか?

「テンチャンの行きたいとこって、例えばどんなとこ?」
「んーとねぇ……おいしい干し草食べてさせてくれるお店!」
「多分……ないと思いますよ?」
「ドーセンの店くらいだなあ。あとは牧場……あ……テンちゃんは放牧地に入っちゃダメだぞお」

 誰もそのリクエストに応えられねぇよ。
 つか、モーナーも、話題はそっち方面じゃねぇから!
 ったく、しょーがねぇなぁ、こいつらは。
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