173 / 493
紅丸編
トラブル連打 後日談その3
しおりを挟む
「紅丸の決断と行為?」
「うむ。現象発生直前に、彼もそれを察知できたそうだ。しかし現象に対してもだし、そこから現れる魔物にも対処する手段がない」
多くの人数を収容することはできるようなことは言ってたようだがな。
「収容して避難することも考えたが、アラタの言葉で何かやらかすことは想像できた、だそうだ。まさか阿吽の呼吸ってわけでもないだろうが」
冗談じゃねぇ。
本心隠してツーカーだぁ?
馬鹿も休み休み言えってんだ!
「人の命を守り、金品建物などの財を守り、日常も守る。被害が大きければ復興にかける金額も跳ね上がり、商会の売り上げも上がるが、みんながみんな、それに取り組むとは限らない。一人一人が持っている財産には限度があるから、だと」
商魂逞しいな。
大企業が一気に出してくれる高額な金より、一般人のほとんどが出す金の方が多いと見たか。
「魔物の方は、旗手が来てくれれば何とかしてくれる。それまで持ちこたえられれば人間側の勝利。そう見越してたらしい」
奇しくも俺の目論見と一緒か。
……気が合うなんて考えたくもないが。
「船上でアラタの動向は見えてたらしい。タイミングを見計らって、魔物どもに渾身の一撃のつもりだったらしい。そこで紅丸からの伝言だ。『魔物どもの上に落とした船は、少しは役に立っただろ?』だとさ。まさか船が回転して更にダメージを与えるとは思わなかったから、それはアラタの戦功ということらしいがな」
やっぱり上から落とした船は砲弾代わりっつーことか。
「船の内装をすべて外し燃料なども抜き取って、なるべく周りに被害を出さないようにしてみたんだと。落とした船の周りに何か円の形の枠ができてて、その外に飛び散るものは特に何もなかったようだったから、そこまで気にしなくても良かったか、なんて言ってたな。結果論だろうがな」
魔球も十分に働いてくれたようだな。
計算通りに動いてくれるなら、人も物も有り難い。
計算外の動きをしてくれるのは、どんなものでも厄介だがな。
厄介なんだか有り難いんだか分からん連中に囲まれてはいるが……。
……あいつらに限っては、厄介だけど有り難い、かな。
「だが私は、その現場は見ていない。ライムとあの妖精から話は聞いたが……有意義に使ってもらえて何よりだ」
ライムにもしも顔がついてたら、俺に思いっきりのドヤ顔を見せつけていただろう。
俺のベッドにすり寄ってきた。
あざといんだよ、その動きっ!
まったく……余計な事は言わんでいいっ。
……と言っても……俺には余計な事と思えるかどうかまでは分からんか。
「そう言えばこいつ……コーティの種族は珍しい、とか言ってたな?」
「こいつって言うな! コーティ様と呼べ!」
面倒くせえ。
「様つけて呼んだら、期待を裏切る結果の働きしかできなかったな。こいつでいいよ、お前なんか。それが気に食わなきゃとっとと出ていきな。あんな危険なことをしてもらう義理はもうねぇだろうしよ。自由気ままに生きてゆけ」
「あんたよぉ、そりゃ無責任って奴じゃねぇのか? あたしを世話する義務があんだろうが!」
なんかこいつ、初対面の時の話と違ってねぇか?
助けてもらった恩を返したらさようならって話だったような気がするな。
「アラタ。この子、アラタのおにぎりに首ったけって感じよ?」
「う、うるさいっ!」
面倒くさい奴に懐かれたってことか……。
どうするよ……。
「アラタ。話が途中だったな。君が好むかどうかは別として、この子も実に珍しい。ピクシー種の姿は例外なく、普段は透明か半透明なんだ」
「……けれどこいつは誰の目からも見える」
「おそらく桁外れの魔力を持っているんだろう。許容範囲を超え、その影響が表面にも現れた、としか考えられん。いずれにせよ……」
「ん?」
何だよ、気味が悪い。
何耳元に近寄ってくるんだよ。
「野放しにしておくと危険ってことだ。気まぐれでその魔力全開で暴発させたら、泉から出るすべての魔物半数を消滅させるくらいの力はあるんじゃないか?」
ひそひそ話で怖い話を聞かせてんじゃねぇよ!
じゃああん時は本気じゃなかったってことかよ!
あーゆーときこそ本気だせよふざけんな!
「もちろん理性が吹っ飛んでないとできないことだろうがな。それとピクシー種に亜種はない。他種族と交流を持つことがほとんどないからな。もちろんその特性があるからってこともあるが、性格というか気質が、他種との協調性がまずない」
「プライド高そうだな」
「何か言ったか?!」
耳ざといな。
声を低くした会話でも聞き取れるのか。
今のシアンみたいに、本当にひそひそして喋んないと聞かれちまうってことか?
まったく本当に面倒この上ない。
「だから、同種の高位の……ハイピクシーとか言ったか。ピクシーの集団がいれば、そんな種族が統率することが多い……という研究報告もある」
「ピクシーよりも桁違いの力があるってんなら、こいつも、そのハイピクシーとやらになるんじゃねぇの?」
「体格、体型が二回りほど大きい種族だ。系統が同じ種族だが、成長すれば高位に変わるわけじゃない。突然変異が起きるという話もない」
つまり……異端、か。
同種と違うことを気にするふうでもないが……。
「でもね、アラタ」
「ん?」
「心根は優しいわよ? いきなり目の前に現れたと思ったら、泣きじゃくって助けを求めてくるんだから。それ」
「おいっ! 女だからって遠慮しねぇぞ! 余計な事言うな!」
「ヨウミもそれ見て慌てちゃって、あとから駆けつけてきたライムのおかげで何とか理解できたけど」
「そこの馬も余計な事言ってんじゃねぇ!」
「魔法使えるならそれで魔物を倒したら? って移動中に聞いたら、アラタを巻き込んじゃうって」
「そこのエルフも下らねーこと言ってんじゃねぇ! あーもう! どいつもこいつも言うこと聞きやがらねえ!」
……うわぁ。
面倒くせえ。
何度も思うけど、ホント面倒くせえ。
けど。
「……ありがとな、コーティ」
「うるせえ! 爆発させんぞテメェ!」
怖い怖い。
「……んじゃお詫びとして、塩おにぎりなんかいかがでしょうか?」
「ちょっとアラタ。塩おにぎりって、具が入ってないのよね? それはさすがに」
「……五個。それで今のことは勘弁してやる」
チョロい。
まぁそれが一番価値があるってんなら、こっちからはどうこう言わんけど。
「力仕事はどうにもならんが、味方になるなら彼女もまた、心強い存在になってくれるだろうな」
「何の味方だよ。俺はおにぎりの店のオーナーで、旗手とは関係ねぇ……ってば、あの後旗手の連中はどうなった?」
そうだ。
確か何とか間に合って駆けつけてきてくれたはずだ。
「お前とライムとコーティ、そして紅丸たちのお陰で、それほど労力を使わずに収めることができた。どれ一つ欠けても、あんな風に速やかに現象を抑えることはできなかった」
「俺たちへの賛辞よりも……」
「あの後すぐに王宮に帰した。休養取る暇がほとんどなかったからな。旗手の人数が揃ったというのに、なかなかな……。アラタと因縁のあるあの男も、特に何の言い残しもなく帰還してくれた」
ふん。
自分の仕事だけやってりゃいいんだよ、あいつらはっ!
「でも私、見てましたけど、腕の一振りで、ひときわ大きな魔物以外の全部を端に寄せたって感じでした。とんでもないですね」
「彼らも本来の力をようやく発揮し始めることができたって感じだよ。そして自分の力に恐怖を感じる者もいる。使いこなすにはもう少し時間もかかるだろうがな」
身の丈に合った力じゃないと、心ってのはすぐにそのメリットの誘惑に負けるもんだ。
自分の物じゃねぇのに自分の物と勘違いするとかってこともあるしな。
「で、そのあとはミアーノとンーゴが地中で移動してきて、あたし達を回収してまた地中に潜って帰ってきた、と」
「アノトキハ、サスガニオドロイタ」
「キシュとやらが一斉にこっちに敵意向けるんだもんよぉ。野蛮な連中だぜ。現象の魔物って奴初めて見たけどよぉ、真っ黒の黒黒じゃねぇか。こっちは色彩豊かじゃねぇか」
「二、三色くらいしかないじゃない。茶色と黒と白」
「落ち着いた色どりって奴だぜ? マッキンよぉ」
「言いやすいのかもしんないけど、一々呼び名変えるの止めてくんない?」
和むのはいいけどよ。
でかい本題から外れてんぞ、お前ら。
「で、肝心の紅丸はどうなった? それから双子を拉致したその従業員とやらも」
「うむ。紅丸の、泉現象への対応が我々の疲弊をかなり軽くしたことは無視できない要点だ。それに双子への行為も常習ではないこと。商会の警備部の暴走は見られるが、冤罪はないこと。そして……みんなの捕獲は、紅丸からの指示ではなく、身体的損傷もほとんどない、というのも見過ごせない」
「無罪なわけ?」
「行動に出ない思想思考の範囲なら、誰だって好き勝手なことをするだろう。それは本人の自由だし、親しくなりたいという希望に応える応えないも君らの自由だ。だが紅丸自身にもまた、その思考想像の自由は当てはまる」
「そんなっ」
確かにシアンの言う通りだ。
けど……確かにそうだ。
「……シアン。それは紅丸からの……自白、か?」
「というより、心情の吐露といった感じか」
「……親しい関係になりたい、という言葉が嘘の可能性がある。強引に拉致しようとするつもりだった可能性もある」
「もしそうなら」
「いずれ、あいつの考えていることと今回の音信不通の件に、紅丸自身の因果関係がある証明はできない」
「ちょっ! アラタ! 何言ってんの!」
「シアンが言ってたろ? 紅丸と従業員たちの証言に不一致は見られないって。それにだ」
「それに?」
「お前らに危害を加える、あるいは売り飛ばすって考えは……あいつにそんな意志があったとしても、少なくともそこまでの段階じゃない。ペテンにかける気はあったとしてもな」
「じゃあアラタは紅丸の味方すんの?! あたし達を売り飛ばす気?!」
何で俺が責められる?
つか、そんなことするわきゃねぇだろうが。
大体俺が責任持てるのは、せいぜい俺が作るおにぎりが精一杯だよ。
「少なくともあいつが俺達に接触していた間は、そんなつもりはなかったってことだな。事が上手くすすんでいけたらいずれはそうするつもりってとこじゃねぇのか? もしその前に俺との縁が切れたらその件は諦める、つー感じか」
「何でアラタに分かるのよ」
「能力でそこまで判断できるって話は何度もしたろ?」
「あいつがそのこと分かってて本心隠してたのかもしれないでしょ?!」
「俺が元旗手だったってことを知って驚いてたぞ? ヨウミだって聞いてただろ」
「あ……」
怒りのあまり思い込みが強くなるってのは仕方がない事だろうけどよ。
少しは落ち着けよ。
「じゃあ私達を紅丸に売り渡す」
「何でよ。俺が売るのはおにぎりだけだぜ?」
ったくどいつもこいつも疑心暗鬼だなおい。
「確かに金は必要だし必要な分は欲しいよ? けど金を得るには、商売なら物を売り続けなきゃ手に入らないの。大金が金を呼び込むわけじゃないし、金にオスメスがあるわけじゃないの。分かる?」
「お金のことはよく分かんないんだけどさ……そりゃ生き物じゃないんだから」
それくらいは分かるか。
まぁ分かってもらわなきゃ困るんだがよ。
「大体……こんな面倒な奴を心配してくれるような家族を誰が手放すかっての! そんなに欲しけりゃ本人の首差し出したってまだ釣り合いとれねぇよ!」
「アラタ……」
「寝床が別の所にあるミアーノとンーゴも、泣きじゃくりながら俺のことを心配してくれたコーティも、俺の家族同然……俺の家族は、俺のことをそこまで心配してくれなかった。この世界には俺の両親とかはいねぇ。だから、お前らは、俺の新しい家族、だな」
「お前……」
「え?」
コーティが枕元に飛んできて、顔を真っ赤にしながら俺の目の前で両手を光らせてる。
おい。
お前、何やらかす気だ!
「そんな恥ずかしい事、真顔で言うんじゃねぇ!」
「うごあああぁっ!!」
「うむ。現象発生直前に、彼もそれを察知できたそうだ。しかし現象に対してもだし、そこから現れる魔物にも対処する手段がない」
多くの人数を収容することはできるようなことは言ってたようだがな。
「収容して避難することも考えたが、アラタの言葉で何かやらかすことは想像できた、だそうだ。まさか阿吽の呼吸ってわけでもないだろうが」
冗談じゃねぇ。
本心隠してツーカーだぁ?
馬鹿も休み休み言えってんだ!
「人の命を守り、金品建物などの財を守り、日常も守る。被害が大きければ復興にかける金額も跳ね上がり、商会の売り上げも上がるが、みんながみんな、それに取り組むとは限らない。一人一人が持っている財産には限度があるから、だと」
商魂逞しいな。
大企業が一気に出してくれる高額な金より、一般人のほとんどが出す金の方が多いと見たか。
「魔物の方は、旗手が来てくれれば何とかしてくれる。それまで持ちこたえられれば人間側の勝利。そう見越してたらしい」
奇しくも俺の目論見と一緒か。
……気が合うなんて考えたくもないが。
「船上でアラタの動向は見えてたらしい。タイミングを見計らって、魔物どもに渾身の一撃のつもりだったらしい。そこで紅丸からの伝言だ。『魔物どもの上に落とした船は、少しは役に立っただろ?』だとさ。まさか船が回転して更にダメージを与えるとは思わなかったから、それはアラタの戦功ということらしいがな」
やっぱり上から落とした船は砲弾代わりっつーことか。
「船の内装をすべて外し燃料なども抜き取って、なるべく周りに被害を出さないようにしてみたんだと。落とした船の周りに何か円の形の枠ができてて、その外に飛び散るものは特に何もなかったようだったから、そこまで気にしなくても良かったか、なんて言ってたな。結果論だろうがな」
魔球も十分に働いてくれたようだな。
計算通りに動いてくれるなら、人も物も有り難い。
計算外の動きをしてくれるのは、どんなものでも厄介だがな。
厄介なんだか有り難いんだか分からん連中に囲まれてはいるが……。
……あいつらに限っては、厄介だけど有り難い、かな。
「だが私は、その現場は見ていない。ライムとあの妖精から話は聞いたが……有意義に使ってもらえて何よりだ」
ライムにもしも顔がついてたら、俺に思いっきりのドヤ顔を見せつけていただろう。
俺のベッドにすり寄ってきた。
あざといんだよ、その動きっ!
まったく……余計な事は言わんでいいっ。
……と言っても……俺には余計な事と思えるかどうかまでは分からんか。
「そう言えばこいつ……コーティの種族は珍しい、とか言ってたな?」
「こいつって言うな! コーティ様と呼べ!」
面倒くせえ。
「様つけて呼んだら、期待を裏切る結果の働きしかできなかったな。こいつでいいよ、お前なんか。それが気に食わなきゃとっとと出ていきな。あんな危険なことをしてもらう義理はもうねぇだろうしよ。自由気ままに生きてゆけ」
「あんたよぉ、そりゃ無責任って奴じゃねぇのか? あたしを世話する義務があんだろうが!」
なんかこいつ、初対面の時の話と違ってねぇか?
助けてもらった恩を返したらさようならって話だったような気がするな。
「アラタ。この子、アラタのおにぎりに首ったけって感じよ?」
「う、うるさいっ!」
面倒くさい奴に懐かれたってことか……。
どうするよ……。
「アラタ。話が途中だったな。君が好むかどうかは別として、この子も実に珍しい。ピクシー種の姿は例外なく、普段は透明か半透明なんだ」
「……けれどこいつは誰の目からも見える」
「おそらく桁外れの魔力を持っているんだろう。許容範囲を超え、その影響が表面にも現れた、としか考えられん。いずれにせよ……」
「ん?」
何だよ、気味が悪い。
何耳元に近寄ってくるんだよ。
「野放しにしておくと危険ってことだ。気まぐれでその魔力全開で暴発させたら、泉から出るすべての魔物半数を消滅させるくらいの力はあるんじゃないか?」
ひそひそ話で怖い話を聞かせてんじゃねぇよ!
じゃああん時は本気じゃなかったってことかよ!
あーゆーときこそ本気だせよふざけんな!
「もちろん理性が吹っ飛んでないとできないことだろうがな。それとピクシー種に亜種はない。他種族と交流を持つことがほとんどないからな。もちろんその特性があるからってこともあるが、性格というか気質が、他種との協調性がまずない」
「プライド高そうだな」
「何か言ったか?!」
耳ざといな。
声を低くした会話でも聞き取れるのか。
今のシアンみたいに、本当にひそひそして喋んないと聞かれちまうってことか?
まったく本当に面倒この上ない。
「だから、同種の高位の……ハイピクシーとか言ったか。ピクシーの集団がいれば、そんな種族が統率することが多い……という研究報告もある」
「ピクシーよりも桁違いの力があるってんなら、こいつも、そのハイピクシーとやらになるんじゃねぇの?」
「体格、体型が二回りほど大きい種族だ。系統が同じ種族だが、成長すれば高位に変わるわけじゃない。突然変異が起きるという話もない」
つまり……異端、か。
同種と違うことを気にするふうでもないが……。
「でもね、アラタ」
「ん?」
「心根は優しいわよ? いきなり目の前に現れたと思ったら、泣きじゃくって助けを求めてくるんだから。それ」
「おいっ! 女だからって遠慮しねぇぞ! 余計な事言うな!」
「ヨウミもそれ見て慌てちゃって、あとから駆けつけてきたライムのおかげで何とか理解できたけど」
「そこの馬も余計な事言ってんじゃねぇ!」
「魔法使えるならそれで魔物を倒したら? って移動中に聞いたら、アラタを巻き込んじゃうって」
「そこのエルフも下らねーこと言ってんじゃねぇ! あーもう! どいつもこいつも言うこと聞きやがらねえ!」
……うわぁ。
面倒くせえ。
何度も思うけど、ホント面倒くせえ。
けど。
「……ありがとな、コーティ」
「うるせえ! 爆発させんぞテメェ!」
怖い怖い。
「……んじゃお詫びとして、塩おにぎりなんかいかがでしょうか?」
「ちょっとアラタ。塩おにぎりって、具が入ってないのよね? それはさすがに」
「……五個。それで今のことは勘弁してやる」
チョロい。
まぁそれが一番価値があるってんなら、こっちからはどうこう言わんけど。
「力仕事はどうにもならんが、味方になるなら彼女もまた、心強い存在になってくれるだろうな」
「何の味方だよ。俺はおにぎりの店のオーナーで、旗手とは関係ねぇ……ってば、あの後旗手の連中はどうなった?」
そうだ。
確か何とか間に合って駆けつけてきてくれたはずだ。
「お前とライムとコーティ、そして紅丸たちのお陰で、それほど労力を使わずに収めることができた。どれ一つ欠けても、あんな風に速やかに現象を抑えることはできなかった」
「俺たちへの賛辞よりも……」
「あの後すぐに王宮に帰した。休養取る暇がほとんどなかったからな。旗手の人数が揃ったというのに、なかなかな……。アラタと因縁のあるあの男も、特に何の言い残しもなく帰還してくれた」
ふん。
自分の仕事だけやってりゃいいんだよ、あいつらはっ!
「でも私、見てましたけど、腕の一振りで、ひときわ大きな魔物以外の全部を端に寄せたって感じでした。とんでもないですね」
「彼らも本来の力をようやく発揮し始めることができたって感じだよ。そして自分の力に恐怖を感じる者もいる。使いこなすにはもう少し時間もかかるだろうがな」
身の丈に合った力じゃないと、心ってのはすぐにそのメリットの誘惑に負けるもんだ。
自分の物じゃねぇのに自分の物と勘違いするとかってこともあるしな。
「で、そのあとはミアーノとンーゴが地中で移動してきて、あたし達を回収してまた地中に潜って帰ってきた、と」
「アノトキハ、サスガニオドロイタ」
「キシュとやらが一斉にこっちに敵意向けるんだもんよぉ。野蛮な連中だぜ。現象の魔物って奴初めて見たけどよぉ、真っ黒の黒黒じゃねぇか。こっちは色彩豊かじゃねぇか」
「二、三色くらいしかないじゃない。茶色と黒と白」
「落ち着いた色どりって奴だぜ? マッキンよぉ」
「言いやすいのかもしんないけど、一々呼び名変えるの止めてくんない?」
和むのはいいけどよ。
でかい本題から外れてんぞ、お前ら。
「で、肝心の紅丸はどうなった? それから双子を拉致したその従業員とやらも」
「うむ。紅丸の、泉現象への対応が我々の疲弊をかなり軽くしたことは無視できない要点だ。それに双子への行為も常習ではないこと。商会の警備部の暴走は見られるが、冤罪はないこと。そして……みんなの捕獲は、紅丸からの指示ではなく、身体的損傷もほとんどない、というのも見過ごせない」
「無罪なわけ?」
「行動に出ない思想思考の範囲なら、誰だって好き勝手なことをするだろう。それは本人の自由だし、親しくなりたいという希望に応える応えないも君らの自由だ。だが紅丸自身にもまた、その思考想像の自由は当てはまる」
「そんなっ」
確かにシアンの言う通りだ。
けど……確かにそうだ。
「……シアン。それは紅丸からの……自白、か?」
「というより、心情の吐露といった感じか」
「……親しい関係になりたい、という言葉が嘘の可能性がある。強引に拉致しようとするつもりだった可能性もある」
「もしそうなら」
「いずれ、あいつの考えていることと今回の音信不通の件に、紅丸自身の因果関係がある証明はできない」
「ちょっ! アラタ! 何言ってんの!」
「シアンが言ってたろ? 紅丸と従業員たちの証言に不一致は見られないって。それにだ」
「それに?」
「お前らに危害を加える、あるいは売り飛ばすって考えは……あいつにそんな意志があったとしても、少なくともそこまでの段階じゃない。ペテンにかける気はあったとしてもな」
「じゃあアラタは紅丸の味方すんの?! あたし達を売り飛ばす気?!」
何で俺が責められる?
つか、そんなことするわきゃねぇだろうが。
大体俺が責任持てるのは、せいぜい俺が作るおにぎりが精一杯だよ。
「少なくともあいつが俺達に接触していた間は、そんなつもりはなかったってことだな。事が上手くすすんでいけたらいずれはそうするつもりってとこじゃねぇのか? もしその前に俺との縁が切れたらその件は諦める、つー感じか」
「何でアラタに分かるのよ」
「能力でそこまで判断できるって話は何度もしたろ?」
「あいつがそのこと分かってて本心隠してたのかもしれないでしょ?!」
「俺が元旗手だったってことを知って驚いてたぞ? ヨウミだって聞いてただろ」
「あ……」
怒りのあまり思い込みが強くなるってのは仕方がない事だろうけどよ。
少しは落ち着けよ。
「じゃあ私達を紅丸に売り渡す」
「何でよ。俺が売るのはおにぎりだけだぜ?」
ったくどいつもこいつも疑心暗鬼だなおい。
「確かに金は必要だし必要な分は欲しいよ? けど金を得るには、商売なら物を売り続けなきゃ手に入らないの。大金が金を呼び込むわけじゃないし、金にオスメスがあるわけじゃないの。分かる?」
「お金のことはよく分かんないんだけどさ……そりゃ生き物じゃないんだから」
それくらいは分かるか。
まぁ分かってもらわなきゃ困るんだがよ。
「大体……こんな面倒な奴を心配してくれるような家族を誰が手放すかっての! そんなに欲しけりゃ本人の首差し出したってまだ釣り合いとれねぇよ!」
「アラタ……」
「寝床が別の所にあるミアーノとンーゴも、泣きじゃくりながら俺のことを心配してくれたコーティも、俺の家族同然……俺の家族は、俺のことをそこまで心配してくれなかった。この世界には俺の両親とかはいねぇ。だから、お前らは、俺の新しい家族、だな」
「お前……」
「え?」
コーティが枕元に飛んできて、顔を真っ赤にしながら俺の目の前で両手を光らせてる。
おい。
お前、何やらかす気だ!
「そんな恥ずかしい事、真顔で言うんじゃねぇ!」
「うごあああぁっ!!」
0
お気に入りに追加
1,585
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜
西園寺わかば
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします
吉野屋
ファンタジー
竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。
魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。
次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。
【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる