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紅丸編

トラブル連打 その12

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 魔物が泉のように湧いて出てくる場所。
 今まで何度もその気配を感じ取ってきたが、その現場に足を運んだのは初めてだ。
 当たり前だ。
 人を、他の魔物を襲うさらに強力な魔物から身を守る術を持ってない、気配を察知する以外は普通の人間だからな。
 だが今は、敢えてその場に自ら望んでやって来た。
 つくづく、我ながら面倒な性格だ。
 近隣の町の住民なんぞ、それぞれが避難すればいいだけだろうに。
 自分の命が一番大事だろうに。
 何でまた、人知れず世話を焼こうとするのか。
 答えは出ない。
 出ないなら、ここから遠く離れた場所に逃げればいいのに。
 誰からも文句は言われないはずだし、言われる立場でもないし。
 けれど、逃げるにはもうすでに手遅れ。
 それどころか、対抗手段の手を打ってしまった。

「暴風の輪ってとこね。しかも二層か」
「タカサモアルネ。マワリノキギモフキトバシテ、コマカククダカレテル」

 そんくらいのことはやれるはずだ。
 あの馬鹿王子と母君で作った魔球ってんならな。
 ただ、いつまで続くかは分からない。
 願わくは、魔物が全滅するまで続いてほしいが、おそらくはそこまで持つはずはない。

「ギリギリとまでは言わないが、暴風のそばに寄った方がいいな。接触するなよ?」
「ふん、分かってるわよ」
「ジャアライムハ、アラタノカラダヲクルムネ」
「おう、頼む」

 そう言えばこのピクシーは、ライムの姿を見ても驚かないな。
 レアな種族かどうかの判断とかがないと分からないだろうがな。

「確かに真っ黒な何かが出てきたわね。あたしの魔法はまだ早いの?」
「あと二体くらい出たら。この円の中心に向けて、の方がいいな。……いいですね」

 丁寧語に言い直さないと、また何を言われるか分からん。
 もうそれどころじゃないしな。

「二体……三体……よし、いっくぞおおぉぉ!」

 コーティは両腕を上に伸ばし、手のひらを天に向ける。
 イメージとしては雷を呼び込みそうなんだが、それは勘弁してもらいたい。
 が、その直後、天からやってきたのは……。

「え? え?? 水……うわっ!」

 大量の水。
 水が上から落下してきた。
 文字通り、水の落下だ。
 土砂降りとか、そんなんじゃない。
 水の塊の落下。
 どでかい氷が落ちてきた。
 けど、氷じゃなく水。
 そうとしか言いようがない。
 だが、魔物はあまりダメージは受けてないようだった。
 暴風の壁に、風の中に引っ張り込むように願っといて助かった。
 風に引きちぎられて細かくなり、それはやがて風の中で消えた。

「……こんなもんだな」
「おめぇの魔法、そんなもんじゃねぇだろ。結果オーライなんて許さねぇ! この魔球と同じくらいの力があるはずだからな。なのに風任せってどういうことだ!」

 何体かの魔物が、暴風の結界の外に無傷のまま出てしまったらどうなってたか。
 せっかくの用意が全て無駄になる。
 風に押し付けるのはいいが、こいつの魔力には、この中でぶっ倒せるくらいの力はあるはずだ。
 怠慢だ。
 舐めている。

「助けてくれ、と頼んで、助けてもらったらそんなことを言ったつもりはないと言い張り、下手に出りゃこのざまだ! 感謝を言葉に出さずに伝えられるチャンスだろうによ! 礼なんて言いたくないんだろ?! だったらきっちり働け!」

 消費した魔力の分は補充しなきゃならんだろう。
 もちこんだおにぎりは、そのためだ。
 コーティは俺に怒鳴られて怒りの感情をあらわにしたが、俺が付き出したおにぎりで一時その感情は収まったようだ。

「……ふん! 巻き沿い食らっても知らねぇぞ!」
「今この場じゃ、俺に気を遣えなんて言わねぇ! 魔物どもを抑えろってことだけだ!」

 コーティは俺の怒鳴り声を聞いちゃいねぇ。
 さっきと同じ動作をとる。
 同じ水を落下させる魔法だが……。

「ぶっ……! ぐぉっ!」

 コーティを罵倒して正解だった。
 下手に出るより、貶した方が効果が高そうだ。
 それでも俺が無事なのは、俺を覆ってくれたライムのお陰だ。
 ライムも俺も今のところは無傷。
 魔物どもは、何体かさっきと同じように風の中に押し込まれたが、結界の中の残っている魔物は、完全に水に潰されて圧死してるか、完全に出現する前の事だったため無傷のままの魔物のどちらかだ。

「くそがあっ! コケにしやがってぇ! お前らか! お前らのせいかああぁぁ!」
「ぶあっ!」

 もう一発炸裂させる。
 俺も無傷とは言え、それでもその水圧は感じる。
 それもダメージになるなら、ライムを通してダメージを受けてるってことだ。
 ライムは俺と一緒に、持ち込んだおにぎりも包んでいる。
 二発も出せば、魔力はすべて使い切ってるはずだ。
 そのおにぎりをコーティに手渡すが、食ってる余裕はなさそうだった。

「地面氷結! 地面に接触している魔物の足を止めろ!」

 氷結の魔球を一個消費。
 その間にコーティはおにぎり一個を食べきった。
 しかしまさか。

「……あ? 暴風の勢いが弱まったか?」
「ウン、ヨワクナッタ。モウジキキエル」
「は……早すぎる。コーティ、お前の魔法、いったん中断!」
「あぁ?! やらねぇのかよ!」

 やっても構わない。
 だが、魔物が水で結界に向けて押し出されたときに、暴風が消えたらどうなる?
 魔物達が四散。
 そうなったら、すべてを追いきれるわけがねぇ。
 死角の多い森林の中での追いかけっこなら、追いつけるのはマッキーくらいだ。
 ライム、テンちゃん、クリマーはおそらく空からでも追いかけられる。
 けど、樹木の枝や葉っぱで、地面はほぼ死角になる。
 泉現象も続いている。
 できるとしたら、氷結魔法での足止め。

「なら、その魔球の真似すりゃいいんだな?」
「この風が消えても、その範囲から外に出さないようにするっ! 行動範囲を広げないようにできりゃなんでもいい!」

 この暴風はすぐには消えないだろう。
 だが、これまでのように水を落とす場合、落ちた後風に押し付けるまでの時間がかかる。
 弱まった風の中に押し込んだら、風の外に押し出してしまうかもしれない。
 暴風が弱まる気配はある。
 だが突然消えてしまう場合、そのタイミングの予知は無理だ。
 しかも、魔物が出現する数の単位は十くらいずつ。
 突然現れず、五秒くらいかかるのが……幸いというか不幸にしてというか。
 出現しきれない魔物には、どんな攻撃を仕掛けてもノーダメージで済ませられてしまうようだ。

「だったら……発破ああぁ!!」
「うおっ!」

 突然この空間の中心で、何かが爆発したような衝撃が走った。
 コーティは無事。
 俺はライムのお陰で無傷だが、その近い場所にいた魔物達の体は飛び散り、遠くにいた魔物達は風に押し付けられて引き裂かれていく。

「出現した魔物の撃ち漏らしはない。暴風の外に出た魔物はゼロ。上出来ではあるが……まさかこんなに早く効果が切れるとは……。暴風が弱まってる」
「足止めの氷結っ! で、おい! おにぎりっ! 魔力ゼロになっちまった!」
「お、おう」

 コーティの活躍は、いい意味で予想外だった。
 攻撃を食らわした魔物は全滅。
 しかし、それ以上に出現数が多い。
 おしくらまんじゅうの状態は何とか免れたが、暴風から解放される方がまずい。
 が……何か異常事態がやってくる気配。
 暴風の消滅よりも、それは早くここにやってくる。
 だがそれが何なのか分からない。

「コーティ! 何かが来る! 魔物じゃない何かだ! 防御態勢も怠るな! ライム! 頼むぞ!」
「オウ!」
「防御……って、どうすればいいのよっ!」

 せめてどこからやってくるのかが分かれば……。
 え?
 上から?
 魔物が増え続けるこの状態で、今度はここに何が来るんだ?!
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