上 下
156 / 493
紅丸編

トラブル連打 その1

しおりを挟む
「あのアトラクション施設の船、今度はどこに行くんだろうね」
「あれだけじゃなく、ショッピングの船もレストランも、ここら辺に停泊してるんでしょ?」
「一斉にい、移動するってえ、言ってたよねえ」

 休暇組の三人の会話が弾んでる。

「宿泊施設もあったけど、止めた方がいいよ」

 その三人に水を差すのはテンちゃん。

「どうして?」
「利用者、多かったんでしょ?」
「なにかあ、あったのかあ?」

 テンちゃんが沈んだ声で、どんな思いで宿泊したかを三人に伝えている。

「……うん……まぁ……そんなこともあるよ」
「テンちゃんだしね……ま、次は、何とかしてもらえればいいね……」

 慰めようにも、適当な言葉が見当たらないマッキーとクリマー。

「そりゃあ、テンちゃんだけだあ」

 モーナーは的確だな。
 テンちゃんがさらに凹んだ。

「そのベッドお、体を横にできるう、広さだったんだろお?」
「……うん……」
「なんでえ、そのテンちゃんのお腹にい、アラタ達をお、寝せなかったんだあ?」
「あっ!」

 やっぱ、馬鹿天馬じゃねぇか……。
 マッキーもクリマーもため息ついてるし。
 しょうがねぇな。
 にしても、モーナーはやっぱり機転が利くなぁ。

「ミュウミュウ、ミャアァ~」

 サミーは小さくても、優しいな。
 テンちゃんの鼻先ぺろぺろ舐めてる。
 慰めてるつもりなんだろうが、見ている俺らが癒される。

「うん、うん……。ありがとね、サミー……」
「ミュウ~」

 微笑ましいんだが、テンちゃんの凹んでる理由を思うと、なんだかなぁ。

「でもみんなしてアスレチック系に興味持ち始めたっぽいけど、買い物とかはいいのか? ここから離れちゃいるが、船が出ちまうと同じ物欲しい時ゃもっと遠くに出かけなきゃならなくなるぞ?」
「買い物は更にお金使っちゃうからね。いくらアラタが援助してくれたって、限度はあるでしょ?」

 ヨウミに気遣われた。様な気がする。
 気のせいか?

「体の鍛錬はあ、普段もできなくはないけどお、面白そうだしい、楽しそうだしなあ」
「そういう楽しさって、お金じゃ買えないものね」
「リスクのない気晴らし。入場料も高くないし」

 まぁ、それで互いの交流がさらに深まるってんなら、こっちは何も言うことはないさ。

「あれ? サミーも行きたいの?」

 ヨウミの驚いた声。
 サミーに行きたそうな様子もなかったから、考えてもいなかった。

「え? サミー……って……なんでそこ?」

 テンちゃんの首の後ろにしがみついている。
 ということは……。

「テンちゃんと一緒に、三人を送りたい、と?」
「ミャアァァ」

 猫よりも鼻が突き出ている顔で、機嫌のいい元気な鳴き声を聞かせてくれる。
 そういうことなら問題ないか。
 サミーが一番懐いてるのは、俺を外すとテンちゃんだし、テンちゃんもこの三人を降ろすとすぐに戻ってくる。
 往復してかかる時間は、多分二時間もかからないだろう。
 昼飯は、マッキーとクリマーとモーナー以外の全員、でいいな?
 まぁミアーノとンーゴはいつものように俺のおにぎりなんだが。

「じゃ、行ってくるねー」
「私達もお土産、買ってきますね」
「いってきまあす」
「おう。みんな通話機持ってるな? それと、お前らの帰り、向こうを出る時間は今と同じってことでいいな?」

 帰りの確認もしとかんと。

「通話機は……うん、みんな持ってます。テンちゃんも」
「うん。明日と明後日、二泊の予定にするから、帰りは二泊した朝に向こうを出るね」
「テンちゃん、そこら辺ちゃんと三人から話聞いとけよ?」
「分かってるよー。心配いらないって」

 心配なんだよ、お前だから。

「サミーも落とされるなよ?」
「ミャアア」

 元気いいな。
 ちょっとばかりの空の旅、だな。

「じゃあ送ってくるねー」
「おう、行ってら」
「みんな、気を付けてねー」
「イッテラッシャイー」

 いつも通りの、誰かの休暇の日。
 見送った後もいつも通り。
 留守の俺達はおにぎり作りと販売だ。
 天気もいいし、また自称ファンクラブ会員どもが殺到するんだろうな。
 だが残念。
 今日はヨウミとライムだけ。
 連中には、今日は外れの日ってとこかな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

帝国の第一皇女に転生しましたが3日で誘拐されました

山田うちう
ファンタジー
帝国の皇女に転生するも、生後3日で誘拐されてしまう。 犯人を追ってくれた騎士により命は助かるが、隣国で一人置き去りに。 たまたま通りかかった、隣国の伯爵に拾われ、伯爵家の一人娘ルセルとして育つ。 何不自由なく育ったルセルだが、5歳の時に受けた教会の洗礼式で真名を与えられ、背中に大きな太陽のアザが浮かび上がる。。。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

追放されたテイマー半年後に従魔が最強になったのでまた冒険する

Miiya
ファンタジー
「テイマーって面白そうだったから入れてたけど使えんから出ていって。」と言われ1ヶ月間いたパーティーを追放されてしまったトーマ=タグス。仕方なく田舎にある実家に戻りそこで農作業と副業をしてなんとか稼いでいた。そんな暮らしも半年が経った後、たまたま飼っていたスライムと小鳥が最強になりもう一度冒険をすることにした。そしてテイマーとして覚醒した彼と追放したパーティーが出会い彼の本当の実力を知ることになる。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

処理中です...