上 下
126 / 493
三波新、定住編

おにぎりの店へは何をしに? 台風一過

しおりを挟む
「事情も知らずに頭を下げさせてそれで満足するってんなら、そこに気持ちがなくても問題がないと? 頭を下げて下を向いた顔で、舌を出してても気にしないと?」
「それが謝罪になるわけがないでしょう!」
「頭を下げたら顔は見えませんからね。でもそっちは頭を下げられて満足するんでしょ?」
「人を馬鹿にするんじゃないわよ! いいから謝りなさい!」

 話が通じないなぁ。
 訳の分からないことを喚いているし。

「こちらが悪かったら誠意をもって謝りますよ。ですがね。悪いと一つも思ってませんからねぇ」
「なっ……!」
「まず、サミーは言葉を喋れません。なのになぜお宅の子供さんらが来たんです? なぁ、君ら、あいつから招待受けたりしたのか?」

 何も言わずにかぶりを振った。
 否定、とみていいよな。

「つまり、そっちが勝手にこっちに来た。こっちに来なきゃならない理由はあったか?」

 同じく否定するんだが。
 何も喋るな、とでも言われたか?

「だよな。つまり、そっちが勝手にやってきた。来なきゃよかったのに。来なきゃ怪我をすることもなかったんだぜ? これからは、もうここに来るな。な?」
「そんなことで誤魔化せると」
「誤魔化すも何も、これからはどうするかって話でしょうが。それで事故は起きない」
「事故?! 事故ですって?!」

 事故以外、なんて表現すればいいんだ?

「一緒に遊びたいっつってきたんだぜ? だよな?」

 今度は二人揃って頷いた。
 そこまで嘘をつかれたら、話し合いは成立しない。
 なぜならサミーは、この二人に遊ぼうと誘うことはできないから。
 できたとしても理解できないだろうし、初対面での二人の反応だって、好意を持つかどうか分からない。
 なんせ動物じゃなく魔物だってことは見ただけで分かるだろう。
 たとえ可愛らしい姿をしていても、だ。
 子供はまともで助かった。

「そっちはともかくサミーは怯えて帰ってきた。お前らとは会いたくなさそうだった」
「嘘おっしゃいっ!」
「頭ごなしにこっちのことを否定しないでもらいたい。こっちだってそっちのことは何一つ、あなたの言う通りであると言い切れることはないんだし」
「私の言うことを嘘と言うんですか?!」


 話がずれちまった。
 人の話、最後まで聞けや。
 だから結果を決め付けて話す奴とは会話したくないんだ。
 俺の職場でもそうだった。
 何でもかんでも責任を擦り付けんじゃねぇっての。

「させたんじゃないの!」
「じゃあなぜ怪我をさせるような振り払い方をしてきたんだって話になる。そして怖い思いがまだ続いてるのはなぜかってことだが」
「そんな振りをしてるだけでしょう! いいから謝りなさい!」

 自分の言うことは正しく、食い違うことを言う連中はすべて間違っている。
 そんな考え方をする奴も、俺の周りにたくさんいたっけなぁ。

「……一緒に遊ぶってとこが問題だよな。サミーは一緒に遊びたかったんだろうよ。だがそっちの一緒に遊ぶ遊び方は、サミーのそれとは違ってたってことだ」

 常識、ならば誰だって同じ解釈をする。
 だがそうじゃないことでは、見解の相違ってもんがでてくることがある。
 当たり前と思われることにもだ。
 つまり……。

「サミーは、一緒に遊んでくれるお前らを、遊び相手と思ってた。だがお前らはサミーを、自分達が楽しむ道具にしようとしたんじゃないのか? つまり玩具ってことだ。ぬいぐるみでもいいやな。遊ぶ奴はぬいぐるみを自由に動かすことができる。だが残念だったな。玩具でもぬいぐるみでもない。あいつは魔物っつー生き物だ。意思も持ってる。されたら嫌なこともあるだろうよ。なのに言うことを聞けと言わんばかりの扱いをされたら、そりゃ嫌がるだろうさ」

 サミーがうまれてまだそんなに月日が経っておらず、まだ子供ってのが幸いしたな。

「精一杯の抵抗をして、ようやく逃げることができた。捕まったら、今度は何されるか分からない。意思や感情がありゃ、魔物だって恐怖を感じるだろうよ。サミーにとっちゃ、お前らの方が泉現象で現れる魔物くらいに怖いと感じてるだろうよ」
「魔物ですって?! 言うに事欠いて……」
「お前らは、親と一緒ながらこうして会いに来た。会えるくらいは気持ちに余裕があるってことだ。サミーは怖がってお前らと会おうとしない。サミーにはそんな余裕はない。怪我をさせたことは謝らなきゃならんだろうな。けどな、お前らがサミーを怖がらせたことに誠意をもって謝るつもりがないなら、わざわざここに来る必要もない。俺も謝ってほしいとは思わん。来なくていいよ。というより、来るな。二度と来るな。来なくてもお前らの生活は成立するはずだ」

 俺がここで店を始めてどれくらい経ったっけ?
 でも村人がここに来ることは一度もなかったし、近寄る気配も一度も感じなかった。
 俺の店があってもなくても、この村の行政とかにはほとんど影響がないってことだろう。
 。
「俺の商売の相手は冒険者達だ。村人じゃない。しかも俺の扱う品は生活必需品でもない。お前らがサミーと遊ばなきゃならない理由も知らないし、知りたいとも思わん。けど互いに不快に思うなら、接触しちゃだめだってことだろうな。そっちに謝る気はないし、こっちも謝る気力もない。幸い、お互い普通に生活はできるようだし、それが落としどころってもんじゃないか?」

 そう。
 接触がすべての原因だ。
 それでも謝れというなら、子供の監視が行き届いてないことを責めるだけだ。
 物事には、必ず原因ってもんがある。
 その原因はこっちで作ったことはない。

「おい、みんな。帰るぞ」

 父親らしい男が初めて口を開いた。

「だってお父さん……」
「この人の言う通り、お前達がここに来たのが原因だ。そこの人も、人じゃないんだろう? 物語で聞いたことしかないが、ドッペルゲンガーじゃないのか?」
「私、ですか? えぇ、そうですが……」
「魔物と一緒に生活をしている人がいるってこと自体初めて知った。確かにこの人の言う通り、そんな事実がありながらそれを知らず、私達は普段と変わらない生活を続けていた。無関係でも互いに生活できるというなら、今後もそれを維持すれば何の問題もないはずだ。今回はお前達が悪い。帰るぞ」
「ちょ、ちょっと、あなた……」

 子供の手を引っ張ってここから立ち去る男。
 それを追う母親。
 台風一家。
 もとい、台風一過だな。

「だ……大丈夫……なんでしょうか?」

 何がだよ。
 サミーのことか?
 俺達のことか?
 あいつらのことか?

「多分、大丈夫なんじゃない?」

 だから、何がだよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!

さとう
ファンタジー
異世界にクラス丸ごと召喚され、一人一つずつスキルを与えられたけど……俺、有馬慧(ありまけい)のスキルは『模倣』でした。おかげで、クラスのカースト上位連中が持つ『勇者』や『聖女』や『賢者』をコピーしまくったが……自分たちが活躍できないとの理由でカースト上位連中にハメられ、なんと追放されてしまう。 しかも、追放先はとっくの昔に滅んだ廃村……しかもしかも、せっかくコピーしたスキルは初期化されてしまった。 とりあえず、廃村でしばらく暮らすことを決意したのだが、俺に前に『女神の遣い』とかいう猫が現れこう言った。 『女神様、あんたに頼みたいことあるんだって』 これは……異世界召喚の真実を知った俺、有馬慧が送る廃村スローライフ。そして、魔王討伐とかやってるクラスメイトたちがいかに小さいことで騒いでいるのかを知る物語。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺若葉
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...