上 下
125 / 493
三波新、定住編

おにぎりの店へは何をしに? その4

しおりを挟む
 店に出ると、そこには例の双子を挟んで、大人の男女二人の計四名が横に並んでいた。
 男の方はしかめっ面。
 女の方は完全にお怒りモードって顔をしている。

「何か用……」
「うちの子供達が怪我をして帰ってきたんですけど! 話を聞けば、ここにいる魔物にやられたって!」

 やっぱり親子か。
 で、その双子は俯き加減で上目遣い。
 そして俺を睨んでいる。

「あぁ、そりゃ気の毒に」
「どう責任とってくれるんですか!」

 ……ここでもか。
 仕事てでミスをしたとき、すぐに「お前が悪い」「責任取れ」の連続コールくらったっけ。
 あの職場、あの世界から解放されたと思ったら、この言葉が世界を越えて、まだ絡みついてくる。
 うんざりだ。
 だが幸いにも、そう言ってくる奴らとは何の関係もない。
 嫌いなしがらみを徹底的に遠ざけてきた結果、いくらかは気楽に対応できそうだ。

「俺に責任はないよ? そのほかに特に俺から言うことはないな。客は来ないけど商売と仕事の邪魔」
「責任ないはずないでしょう! あな」
「その二人がここに来て、一緒に遊びたいっつってどっかに連れてった。しばらくして泣きながら戻ってきた。帰って来てからはずっと俺にしがみついたままだった。今は……あの部屋にいるか」

 サミーはいつの間にか俺の体から離れていた。
 多分こいつらに会いたくなかったんだろう。

「嘘おっしゃい! うちの子達だって泣きながら帰ってきたんですよ?! 魔物に襲われたって!」

 あぁ、こりゃあれだ。
 被害者は自分達で、そうなった事情を加害者から聞きに来たってやつか。
 結論を既に出してからここに来たんだな。
 話しても無駄じゃねぇか。

「そう思うんならそれでいいんじゃないですか? どうせこっちの話を聞く耳も持ってないでしょうから、俺らの話を聞くのも時間の無駄ですよ」
「ちょっとアラタ、行商時代と違うんだから。同じ村に住む人からの」
「からの何だ? 取り調べか? 追放か? こっちの話を聞く気がないんだぜ? 聞いても、自分らの妄想が事実、と決めつけた上での聞き取りだ。こっちの言い分は全く聞く気がないくらい分かるさ」

 時間の無駄。
 本当に時間の無駄だ。

「あんたねぇ! 謝罪の気持ちはないんですか?! 子供達が傷ついているんですよ?!」
「こっちの方もあんなに怖がって」
「嘘おっしゃい!」
「……ヨウミ。聞いたか? こっちの言い分を聞く気がないっつー俺の言うことは正しかったろ?」
「悪いのはそっちでしょうが! うちの子達を傷つけて!」

 言葉を喋れないサミーの行動を考えてみる。
 震えるほど怖がり、泣いていた。
 いたずらされて、それに恐怖を感じて精一杯の抵抗をした。
 それが子供らを傷つけたと主張する原因になった。
 こっちに非がない事情ならば、大体こんなとこだろう。
 だが、サミーが怯えていた対象は相手への恐怖ではなく、罪の意識という可能性も出てきたな。
 遊んでて興奮してつい力を入れて二人に接触。
 例えば、それで子供らが泣き出して、慌てふためいて俺に縋りついてきた場合。
 しかし、問題はサミーの現状だ。

「ちょっと席外しますよ」

 サミーの様子を見ることにする。
 貯蔵庫がある部屋を覗くと、隅で震えたままだ。
 ハサミで顔を隠している。

「サミー。悪いことをしたら謝らなきゃならん。相手に誠意が伝わるかどうかは知らん。だが、まずは絶対に謝ること。その誠意が伝わるような行動を起こすのはそのあとだ」

 俺の声は聞こえてるはずだが、サミーは震えたままその場から動こうとしない。

「だが、悪くないなら謝る必要はない。つか、謝ったらだめだ。物事の善悪が狂う。相手が謝るべきだ。だが謝罪の言葉に誠意が感じられなかったら、その言葉を受け止める必要はないうぉっ」

 またも俺の胸に跳びついて泣きだした。
 おそらくサミーは……。

「このままあいつらのところに行くか。で、あの二人に謝る……う」

 すぐに俺から離れて、また隅でうずくまる。
 もう決まりだな、これ。

「……サミー。もう泣くな。うっとおしいから。それに……謝らなくていいうおっ!」

 またも飛びついてきた。
 忙しい奴だな、こいつも。
 ……せめてこいつが言葉を喋ることができたら、いろいろ面倒は省けるんだがなぁ。

「会うのが怖いなら離れろ。まだ話すべきことがあるから、俺は行かなきゃなんないから」

 サミーはいつまでも抱っこされたかったらしかったが、その気持ちを堪えるようにゆっくりと胸から降り始めた。やはり俺らの言葉は理解できてる。
 叶えてほしい願いを神様に頼める機会があるなら、まず、俺らに理解できるお喋りをサミーができるようにお願いしてみるか。

「……だから謝罪をすればいいだけのことでしょ! それで手を打ってあげるっつってんだから!」
「でもそれって……あ、アラタさん、どうでした?」

 こういう来訪者には、クリマーに相手させる方がいいかもな。
 ずっと丁寧語だしな。

「おぅ……。そうだなぁ……。その双子。もうここには来んな。それで解決できることだと思うぜ?」
「なっ……。あ、あなた、謝ることもできないの?!」

 なぜか、俺が謝らなきゃならないってことになったらしい。
 話がどんどんずれていくな。

「あんたに喋ってんじゃねぇ。出しゃばんな」
「なっ……。あなた、一体どういうつもり?!」
「そもそも事の発端は、その双子とうちのサミーとの接触だぜ? その接触がなきゃ騒ぎにならなかったってことは分からんか?」
「それくらいは……」

 あぁ、分かるよな?
 ということはだ。

「こうやって歩いてここまで来たんだろ? それくらいの体力はあるわけだ。取り返しがつかない事態になっちまったってんなら、そりゃまずいことになるだろうがそうじゃないだろ? 今は、おんぶとかされてここに来たんじゃないだろ?」
「歩いてきたわよ? それがどうしたの?」

 最初に接客したのはヨウミだったな。
 来た時の様子も見てたわけだ。

「だから、同じことを繰り返さないようにするためには、村人たちはここに来ないようにすればいい。なんせ村人が来なくてもこの店はやっていけたんだからな」
「そりゃそうだろうけど」
「今はそういうことを話ししているんじゃないでしょっ! まずは謝りなさい!」

 人より優位に立ちたいって気持ちがありありだな。
 しかも話を聞きに来たって言いつつ、こっちは悪くない、悪いのはそっちと決めつけてる。
 めんどくせぇ奴がいるのは俺の世界でもこの世界でも変わらんか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

追放されたテイマー半年後に従魔が最強になったのでまた冒険する

Miiya
ファンタジー
「テイマーって面白そうだったから入れてたけど使えんから出ていって。」と言われ1ヶ月間いたパーティーを追放されてしまったトーマ=タグス。仕方なく田舎にある実家に戻りそこで農作業と副業をしてなんとか稼いでいた。そんな暮らしも半年が経った後、たまたま飼っていたスライムと小鳥が最強になりもう一度冒険をすることにした。そしてテイマーとして覚醒した彼と追放したパーティーが出会い彼の本当の実力を知ることになる。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

処理中です...