108 / 493
三波新、定住編
ある日森の中卵に出会った その3
しおりを挟む
「ということで、卵を孵すために卵を返しに行くことにする」
「何が何だか分からない……」
「だから、魔物の卵が転がってたの! それを親の元に帰しに行くの!」
洞窟に行ったん立ち寄る。
ひょっとしたらライムとマッキーが戻ってるかもしれないから。
だがそこにいたのは、留守番組のヨウミとクリマーだけだった。
そこで森の現状を報告し、ドーセンから得た情報を伝える。
親は村に危害を加える可能性はまずない。
が、放置された卵が万一孵って、そいつがその辺りを縄張りにしたら、村は間違いなく危険な区域になるかもしれない。
「魔物を扱う業者って……」
「その業者、誰に売るんだ? 冒険者も店も、手伝ってもらうために魔物を飼うこと自体禁止の条例が出た後情報錯綜してるだろ」
だから中堅冒険者が引退して、復帰数もゼロのまま。
俺を何とかしようとした結果らしいが、よく分からん。
「うちらで引き取ったら?」
「親が取り返しに来たらどうする」
どでかい魔物に暴れられても困る。
この世界を破壊するってんなら何としてでも阻止しなきゃならんが、個人的感情で俺達だけを攻撃するとなると、俺達のその行動自体が間違いってことになる。
「で、でも、森の中、山の方に進むと危険って……。親元に帰すんじゃなくて、魔物の領域内に放り込んどく、じゃだめなの?」
「生きてんだよ。一人じゃ生きられない命が、その中で生きてんだよ」
捨てられることを前提に生まれた命。
獲られて食われた後なら、俺達の目にも止まらなかったし気にすることもなかった。
ないもの同然だっただろうからな。
けど、現実として、その命は獲られることなく存在している。
人情としては、やっぱり生まれた場所に戻してやりたい。
「生まれるかもしれない命なら、親に育ててもらうのが一番だろうに。いや、親でなくても、生まれた瞬間から見守られ続けた者に育ててもらうのが一番いいんだ。俺は……」
……くそっ。
三十過ぎて、いつまで根に持ってやがる。
けどな。
こうあってほしかったっていう自分の理想を誰もが持ってて、しかも誰にも当てはまることなら……。
それは、俺のエゴじゃない。
正しい倫理観だと思うんだ。
間違った倫理観に押しつぶされそうな理想論もある。
そんな現実も俺には付きまとってた。
何で俺だけ辛い目に遭って、あの卵はこんなにも気に留められて心配されなきゃいけない?
そんな嫉妬心もないこともない。
けどそんな気持ちなんざ簡単に吹き飛ばせる。
だってこの世界は……。
「俺のことを、いい奴だって言ってくれた人が住んでいる世界だからな」
「え?」
……思わず口に出ちまった。
「何? 何か言った?」
「よく聞こえなかった。なんて言ったの?」
ヨウミにもクリマーにも聞こえてなかったようだ。
うん。
何でもねぇよ。
「……親元に返しに行ってくる。細心の注意を払い、退路を囲まれるようなヘマもしない」
「人の言葉理解できる魔物なんて珍しいよ? 本当の魔物ってば、ライムとテンちゃんくらいなんだからね?」
「そのライムは同行してもらう。通訳的な意味でな。あとは……志半ばに超特急で引き返すためにもテンちゃんは必要だな」
「……もう出発する算段立ててるし……。相談しに来たんじゃなかったの?」
誰もそんなことをするつもりはなかったが?
「私の能力も役に立ちそうにないし。本物と見分けがつかない変身能力は高いけど、気配はまるで違うし必ず同じ能力を持つわけじゃないしね」
「モーナーも屋外には不向きだ。頑丈だが、あいつを犠牲にして逃げるなんて考えたくもない」
動きが遅いから、急いで逃げても真っ先に捕まっちまう。
血も涙もない上司ならモーナーを囮にする作戦を立てることはできるだろうが、俺は即却下。
「マッキーは森林での活動得意そうだし……そのままの面子で行くのね?」
「でも……帰りはいつになるの?」
クリマーの心遣いが新鮮で心に染みるっ。
ヨウミはもうすっかり俺にスレてしまったようだ。
誰がお前を、こんな風にやさぐれてしまったんだ……。
いや、俺の嘆きはおいといて。
「気配の範囲とか考えると……最短で三日か? 俺のその範囲は、調子のいい時は最大歩いて三時間くらいかな?」
平坦な道ならもっと短いだろう。
だが足場が悪い。
斜面が多い。
見通しが悪い。
慎重に進む。
これらがその時間を引き延ばす。
それでも行かなきゃならない理由に、親に育てられるのが一番だというのは含まれない。
行きたい理由ではあるが。
何より、村にあらゆる危険を及ぼさないように予防するってのが一番の理由だ。
そして卵の存在を知っているのは俺達だけ。
その責任者とあらば、率先して動かなきゃならんだろ。
俺が住んでた世界では、責任者だからこそ安全圏に常に身を置くって奴が多すぎる。
そして仕事を他人に押し付けて、ミスはそいつのせいにして、手柄は自分のものにする。
冗談じゃねぇ!
そんな奴と一緒にすんな!
……それも俺が行かなきゃならない理由じゃなくて、俺が行きたい理由かもしれない。
でもそんな理想の姿になるのも必要なんじゃないか?
ま、こいつらにそんな説明を一からするのも面倒だ。
「一応おにぎりを持てるだけ持って行くわ。で、そうだな……五日で戻ることにしよう。それがオーバーしそうで、巣を見つけられなかった時は……残念だがその辺りで放置するか。卵狙いの魔物がついて来ないとも限らないしな」
「……でも、アラタがそんな危険なことをしなきゃならない理由は」
言うな。
議論が堂々巡りするだけだ。
それに気配を察知する能力がある。
これがあるだけでも、危険度はかなり下がる。
なんせ、コミュニケーションがとれそうにない相手かどうかも判断できるかもしれないしな。
「変に引き留めるより、いろんなトラブルを想定して、切り抜ける対策を用意させた方が建設的よ? ヨウミ」
「う……まぁ……そうなんだけどさ……」
「ということでしばらくここを留守にする。モーナーにも伝えといてくれ」
「うー……。分かった。早めに帰ってきてね?」
言われなくたってそのつもりだ。
いくら巣に帰したいっつっても、何が何でもそこに辿り着かなきゃって考えは持っちゃいない。
俺の能力にうぬぼれるつもりはないからな。
「何が何だか分からない……」
「だから、魔物の卵が転がってたの! それを親の元に帰しに行くの!」
洞窟に行ったん立ち寄る。
ひょっとしたらライムとマッキーが戻ってるかもしれないから。
だがそこにいたのは、留守番組のヨウミとクリマーだけだった。
そこで森の現状を報告し、ドーセンから得た情報を伝える。
親は村に危害を加える可能性はまずない。
が、放置された卵が万一孵って、そいつがその辺りを縄張りにしたら、村は間違いなく危険な区域になるかもしれない。
「魔物を扱う業者って……」
「その業者、誰に売るんだ? 冒険者も店も、手伝ってもらうために魔物を飼うこと自体禁止の条例が出た後情報錯綜してるだろ」
だから中堅冒険者が引退して、復帰数もゼロのまま。
俺を何とかしようとした結果らしいが、よく分からん。
「うちらで引き取ったら?」
「親が取り返しに来たらどうする」
どでかい魔物に暴れられても困る。
この世界を破壊するってんなら何としてでも阻止しなきゃならんが、個人的感情で俺達だけを攻撃するとなると、俺達のその行動自体が間違いってことになる。
「で、でも、森の中、山の方に進むと危険って……。親元に帰すんじゃなくて、魔物の領域内に放り込んどく、じゃだめなの?」
「生きてんだよ。一人じゃ生きられない命が、その中で生きてんだよ」
捨てられることを前提に生まれた命。
獲られて食われた後なら、俺達の目にも止まらなかったし気にすることもなかった。
ないもの同然だっただろうからな。
けど、現実として、その命は獲られることなく存在している。
人情としては、やっぱり生まれた場所に戻してやりたい。
「生まれるかもしれない命なら、親に育ててもらうのが一番だろうに。いや、親でなくても、生まれた瞬間から見守られ続けた者に育ててもらうのが一番いいんだ。俺は……」
……くそっ。
三十過ぎて、いつまで根に持ってやがる。
けどな。
こうあってほしかったっていう自分の理想を誰もが持ってて、しかも誰にも当てはまることなら……。
それは、俺のエゴじゃない。
正しい倫理観だと思うんだ。
間違った倫理観に押しつぶされそうな理想論もある。
そんな現実も俺には付きまとってた。
何で俺だけ辛い目に遭って、あの卵はこんなにも気に留められて心配されなきゃいけない?
そんな嫉妬心もないこともない。
けどそんな気持ちなんざ簡単に吹き飛ばせる。
だってこの世界は……。
「俺のことを、いい奴だって言ってくれた人が住んでいる世界だからな」
「え?」
……思わず口に出ちまった。
「何? 何か言った?」
「よく聞こえなかった。なんて言ったの?」
ヨウミにもクリマーにも聞こえてなかったようだ。
うん。
何でもねぇよ。
「……親元に返しに行ってくる。細心の注意を払い、退路を囲まれるようなヘマもしない」
「人の言葉理解できる魔物なんて珍しいよ? 本当の魔物ってば、ライムとテンちゃんくらいなんだからね?」
「そのライムは同行してもらう。通訳的な意味でな。あとは……志半ばに超特急で引き返すためにもテンちゃんは必要だな」
「……もう出発する算段立ててるし……。相談しに来たんじゃなかったの?」
誰もそんなことをするつもりはなかったが?
「私の能力も役に立ちそうにないし。本物と見分けがつかない変身能力は高いけど、気配はまるで違うし必ず同じ能力を持つわけじゃないしね」
「モーナーも屋外には不向きだ。頑丈だが、あいつを犠牲にして逃げるなんて考えたくもない」
動きが遅いから、急いで逃げても真っ先に捕まっちまう。
血も涙もない上司ならモーナーを囮にする作戦を立てることはできるだろうが、俺は即却下。
「マッキーは森林での活動得意そうだし……そのままの面子で行くのね?」
「でも……帰りはいつになるの?」
クリマーの心遣いが新鮮で心に染みるっ。
ヨウミはもうすっかり俺にスレてしまったようだ。
誰がお前を、こんな風にやさぐれてしまったんだ……。
いや、俺の嘆きはおいといて。
「気配の範囲とか考えると……最短で三日か? 俺のその範囲は、調子のいい時は最大歩いて三時間くらいかな?」
平坦な道ならもっと短いだろう。
だが足場が悪い。
斜面が多い。
見通しが悪い。
慎重に進む。
これらがその時間を引き延ばす。
それでも行かなきゃならない理由に、親に育てられるのが一番だというのは含まれない。
行きたい理由ではあるが。
何より、村にあらゆる危険を及ぼさないように予防するってのが一番の理由だ。
そして卵の存在を知っているのは俺達だけ。
その責任者とあらば、率先して動かなきゃならんだろ。
俺が住んでた世界では、責任者だからこそ安全圏に常に身を置くって奴が多すぎる。
そして仕事を他人に押し付けて、ミスはそいつのせいにして、手柄は自分のものにする。
冗談じゃねぇ!
そんな奴と一緒にすんな!
……それも俺が行かなきゃならない理由じゃなくて、俺が行きたい理由かもしれない。
でもそんな理想の姿になるのも必要なんじゃないか?
ま、こいつらにそんな説明を一からするのも面倒だ。
「一応おにぎりを持てるだけ持って行くわ。で、そうだな……五日で戻ることにしよう。それがオーバーしそうで、巣を見つけられなかった時は……残念だがその辺りで放置するか。卵狙いの魔物がついて来ないとも限らないしな」
「……でも、アラタがそんな危険なことをしなきゃならない理由は」
言うな。
議論が堂々巡りするだけだ。
それに気配を察知する能力がある。
これがあるだけでも、危険度はかなり下がる。
なんせ、コミュニケーションがとれそうにない相手かどうかも判断できるかもしれないしな。
「変に引き留めるより、いろんなトラブルを想定して、切り抜ける対策を用意させた方が建設的よ? ヨウミ」
「う……まぁ……そうなんだけどさ……」
「ということでしばらくここを留守にする。モーナーにも伝えといてくれ」
「うー……。分かった。早めに帰ってきてね?」
言われなくたってそのつもりだ。
いくら巣に帰したいっつっても、何が何でもそこに辿り着かなきゃって考えは持っちゃいない。
俺の能力にうぬぼれるつもりはないからな。
0
お気に入りに追加
1,585
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
ボッチはハズレスキル『状態異常倍加』の使い手
Outlook!
ファンタジー
経緯は朝活動始まる一分前、それは突然起こった。床が突如、眩い光が輝き始め、輝きが膨大になった瞬間、俺を含めて30人のクラスメイト達がどこか知らない所に寝かされていた。
俺達はその後、いかにも王様っぽいひとに出会い、「七つの剣を探してほしい」と言われた。皆最初は否定してたが、俺はこの世界に残りたいがために今まで閉じていた口を開いた。
そしてステータスを確認するときに、俺は驚愕する他なかった。
理由は簡単、皆の授かった固有スキルには強スキルがあるのに対して、俺が授かったのはバットスキルにも程がある、状態異常倍加だったからだ。
※不定期更新です。ゆっくりと投稿していこうと思いますので、どうかよろしくお願いします。
カクヨム、小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜
西園寺わかば
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ どこーーーー
ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど
安全が確保されてたらの話だよそれは
犬のお散歩してたはずなのに
何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。
何だか10歳になったっぽいし
あらら
初めて書くので拙いですがよろしくお願いします
あと、こうだったら良いなー
だらけなので、ご都合主義でしかありません。。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる