上 下
106 / 493
三波新、定住編

ある日森の中卵に出会った その1

しおりを挟む
 体調がようやく戻った。
 店も、新たに仲間が一人加わって、通常営業に戻った。
 が、客が減った。
 まぁ仕方がない。
 いくら初級冒険者に適したダンジョンといっても、中堅冒険者だって手こずるような魔物が突然出てくるんじゃ、初級は誰も怖くて近寄ることもできない。
 ましてやこの村は日本大王国の端っこ。
 ブランド物の食材を仕入れる行商人以外に、ここに来たがる職種の人はいない。
 あぁ、この国の皇太子がいたか。
 まぁそれは例外として。
 客……はっきり言うと、経験を積もうと来訪する初級冒険者の人数が減った。
 彼ら以上の腕を持つ冒険者達は目もくれない。
 来訪者の減少も一時的なものだろう。
 しかし客足が戻るまで時間や期間も必要だ。
 ダンジョン案内役の一人であるモーナーは、ダンジョンに入る冒険者がいない日もダンジョンに一人潜る。
 さらに深く掘り進めたいという本人の希望。
 掘っていくうちに、持ち帰ることができる価値ある鉱物の量が増える。
 その活動だけでも、初級に限るが冒険者達のいい経験になる。
 だが挑戦者は今のところゼロ。

「テンちゃんはあ、マッキーの手伝いしたらどおだあ?」

 こないだのゴーレム三体くらいなら、周りに誰もいなければ、かえって気兼ねなくその剛腕を振るえるんだそうだ。
 確かに自分の攻撃の巻き沿いを気にしなくていいもんな。
 マッキーの仕事はというと、普段とそんなに変わらない。
 屋外の方が逃げ道はたくさんあるから、ということらしいな。
 初級冒険者の申し込みは多くもなく少なくもなく。
 もっとも、冒険者達が誰も来ない日も多くなった。
 仕方がないと言えば仕方がない。
 だが、しばらく誰も来ないということは分かっていたことが幸いした。
 なぜそれを前もって分かるかというと、ドーセンの宿の予約状況。
 向こうも向こうで閑古鳥が鳴いていた。
 こっちのダンジョンを当てにし過ぎていたってことだよな。
 それはともかく。

「みんなー。ちょっと問題が起こってるんだけどー」

 店に飛び込んできたのはマッキーだった。
 屋外で、ダンジョンのようなイレギュラーが起きないように、初級冒険者達が活動しそうなところをいつも巡回していたんだそうだ。
 そこで見つけた異変を報せに来た、というわけだ。
 店には、ダンジョンで作業中のモーナーと、マッキーと同行していたテンちゃん以外全員揃っている。

「問題? テンちゃんはどうした」
「テンちゃん、その場所を確保してる。そこに来てほしいんだけど」

 俺は店の責任者でもあるが、みんなのリーダーっていう自覚も一応ある。
 マッキーの様子を見ても、危機的状況ってことじゃないのは分かった。
 一応店番のために誰かを残して、俺は行かなきゃならないだろう。
 ヨウミに店を任せて、ここでのいろいろなことを覚えてもらう必要があるクリマーも残ってもらって、仕事の一区切りをつけたライムはついて来てもらおう。
 マッキーを先頭にフィールドに入っていく。
 が、意外にもさらに奥深く森の中に入る。

「おい。こんなに奥まで入るのか?」
「おそらく何かの魔物の行動範囲内」
「おい」
「何かの拍子に、冒険者達の行動範囲に入り込まれちゃ困るから、一応警戒してるの。何の異変もなければ、こっちにまで来ることはないから。でも……」

 こっちにまで来るかもしれない異変を見つけた、というわけだ。
 今なら何かが起きても、テンちゃんにマッキー、ライムがいる。
 何とかなるだろう。
 と思っていた。
 が、どうにもならなかった。

「テンちゃん、連れて来たよ」
「あ、アラタ。これ、これなんだけど……どうする?」
「これ? あ? これ……岩? にしてはカラフル……」
「タマゴ! タマゴ!」

 ……ライムは確かに卵と言っている。
 確かに形状は、鶏の卵の巨大化した物と見えなくはない。
 大きさは、ライムの半分くらいか?
 ライムはあれ以来大きくなっていない。
 幅は俺の肩幅と同じくらい。
 高さは俺の膝のあたりまでのでかい水滴みたいな形状。
 で、その卵の外側はオレンジと黄色、そしてそのグラディエーションとでも言うんだろうか。
 うん、カラフルとしか言いようがない。
 まぁ虹色のライムには負けるな。
 で、だ。
 生き物がいる気配はある。
 ということは、鶏卵に例えると、有精卵だよな。
 温めないと孵らない。
 でも……何の魔物だ?
 いや、その前に。

「……卵って……ここで生みつけられるのか?」
「ないない。ここでは初めて見た」
「初めて? どこかから転がって……来るわけがないか」

 森の中だしな。
 転がるなら斜面からじゃないと。
 大分距離はあるし数えきれないほどの木々が生い茂っている。

「どこかの木の枝に巣があって……」
「なかったよ」

 テンちゃんが調べたらしい。
 飛べないほど狭い空間へは、マッキーがよじ登って調べに行ったんだと。

「何の魔物か、どこから来たか。これが問題だな」
「どこから来たか、は想像つくよ」
「ほう?」
「この卵を食べるために、何かの魔物がどこかの巣から攫ってきたんだ。何かが起きて卵を落とした。それしか考えられないね」

 というか、そんな場面を何度も見てきたんだと。
 流石森の中ではマッキーは頼りになる。
 けど卵を落とした?

「どこから落としたんだ?」
「木のてっぺんより上。上空だと思うよ?」
「……落下速度を考えても……十分割れる力が加わらないか? 見た目、ひび一つ入ってない」

 タマゴに触ってみたいとは思うが、何かの被害に遭うのも怖い。

「殻が丈夫な卵って……あれしか考えられないよね」
「うん……考えたくはないけど」

 二人は何かを知ってるらしい。
 聞かなきゃならないことだろうが、その表情を見ると聞きたくない。
 というか、耳を塞ぎたい。
 なんだよ、その苦虫を潰したような顔は。

「生まれてくる雛、そして大人もそれなりに丈夫なんだよね」
「モーナーとは比べ物にならないほど」
「幸い魔物の気配は……ないでしょ? アラタ」
「ん? あぁ、でなきゃ、何も考えずマッキーについて来れるわけないからな。……あれ?」
「うん、そうなの。餌として咥えた魔物が落とした。おそらく親の襲撃を受けたんだろうけど……」
「見つけられなかった? それともまだ探してる? いや、探してる様子も感じられないな……」
「でも、卵がここにあると知ったら……」

 おいバカ止めろ。
 卵泥棒は俺達って勘違い……。

「中に雛の気配がある。見つけたら連れ戻しに来るかもしれない、モーナーを超える力を持つ魔物……」
「追いかけて来れる距離に巣があるってことよね」

 いや、それって……かなりまずくねぇか?

「知らないふり……するわけにもいかないよな……。せめてどんな魔物の卵かが分かれば……ってお前ら知ってそうだな?」
「細かい種族は分かんないけど……多分……ドラゴンかな」
「あたしもそう思う」

 テンちゃんの意見にマッキーが一致。
 ドラゴン、と名付けられた小さい魔獣とかなら……。

「空は飛ぶよね」
「盗んだ魔物の姿もないってことは……仕留められたのかもね。それくらい大きいと思うよ?」

 安心できる情報が一つもないっ!
 どうすんだよこれ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

追放されたテイマー半年後に従魔が最強になったのでまた冒険する

Miiya
ファンタジー
「テイマーって面白そうだったから入れてたけど使えんから出ていって。」と言われ1ヶ月間いたパーティーを追放されてしまったトーマ=タグス。仕方なく田舎にある実家に戻りそこで農作業と副業をしてなんとか稼いでいた。そんな暮らしも半年が経った後、たまたま飼っていたスライムと小鳥が最強になりもう一度冒険をすることにした。そしてテイマーとして覚醒した彼と追放したパーティーが出会い彼の本当の実力を知ることになる。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

処理中です...