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三波新、定住編

アラタの店の、アラタな問題 そしてアラタに仲間入り

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「と、言うわけで新たに仲間が増えましたー。拍手ー」
「拍手って……」
「人増やしてえ、大丈夫なのかあ?」

 その夜。
 一応歓迎会みたいなことをやってみた。
 場所はもちろんドーセンのとこで。
 今回は、時間帯が夜ってこともあり、飲める奴には酒も出した。
 とはいっても今回は身内だけだからな。
 ヨウミは割と強い。
 マッキーも、嫌いじゃないという。
 モーナーも好きだが酔うことはほとんどないらしい。
 ライムとテンちゃんは飲んだことがないとのこと。
 どちらも酔っぱらわれては困る。
 暴れたら宿全壊待ったなしだ。
 クリマーは弱いらしい。
 自分でも飲まないように気を付けてるんだとか。
 体を変なものに変化させられても困るしな。

「テンちゃんもライムもマッキーも、お金じゃなくてもいい、おにぎりでいいって言ってくれたよな? モーナーもそんなに多くなくていいって言ってたし。給料の支払いが義務なのは、ヨウミとクリマーだけだから。俺は我慢できりゃ我慢すればいいし」
「あの……えっと……アラタ、さん」
「どうした? クリマー」

 日中の毅然とした態度がどこにもない。
 何となくオロオロした感じがする。

「マッキーさんのことは、まぁ気になってましたが」
「うん? あたし? 何を?」
「えっと、その……灰色の天馬と、プリズムスライムと、ダークエルフ……。ほとんどが珍しい種族なんですが」
「いや、ドッペルゲンガーのクリマーもでしょ」

 レアな種族に囲まれてるなー。
 なんか、何かの運命に導かれ、みたいな感じか?
 もしそうなら、すごく面倒くさい話だが。
 いや、迷惑極まりない話だが。

「ドウシタ? アラタ」
「んー? いや、別に……」

 それに、さらに面倒くさい奴が村に入ってきた気配がする。
 警戒しなきゃならんが、災いをもたらす者じゃない限り、立ち入りを禁止するわけにはいかない。
 誰か気を利かせて、村から追い返してくれないかな……。
 サキワ村って確か、日本大王国の端っこなんだよな。
 そんな端っこの村に来る理由なんか、ここにいろいろ転がってるわけがない。
 となれば……。

「そりゃ私も、レアと言えばレアだけど……弟もここにいるし」
「姉ちゃんよ、弟さんをそこに混ぜるつもりはねぇぜ? そこはアラタの店の歓迎会。うちの歓迎会じゃねぇ。そこんとこのけじめはつけねぇと、な」
「でもお、長生きしてる奴だってえ、なかなかお目にかかれないぞお。アラタのお、人徳だなあ」

 おだてたって何も出ねぇぞ、モーナー。
 つか、褒めすぎだろ、それ。

「うむ、私の目から見ても、実に珍しい光景だ。アラタ殿は、何かをきっと持っているに違いない」
「はい?」

 凛とした声が聞こえてきた。
 つか、何と言うか……。
 ホント、何でここに来た? こいつはっ。

「皇太子様っ!」
「え?!」
「ちょっ! どうしてここに?!」

 まったくだ。
 一同困惑だぞ?

「おい、馬鹿王子。帰れ」
「ひどい言われようだな。私も仲間だというのに」
「仲間になりたいって話は聞いた。お断りしたはずだが? その記憶もないほどの馬鹿王子」
「いや、断られた覚えはないが?」

 真顔で返された。
 断ってなかったか?
 確かモーナーのダンジョンで泉現象が起きた時のどさくさまぎれで言い放ったような気がするが。

「あ、あの、アラタ、さん」
「んー?」
「こ、この方……皇太子様、ですよね?」

 なんだ? クリマーのこのビビりようは。

「うむ。いかにも。……肩書はまだ国王だったか、父はゴナルト。母はミツアルカンヌ王妃の一人息子、エイシアンムだ。よろしく。ドッペル種の……」
「あ……は、はいっ! クリマーですっ! 弟がこの宿で働かせてもらってますゴーアですっ! ……アラタさんっ」

 なんか、ロボットみたいにぎこちなく首をこっちに向けたが……一体どうした?

「こ、こんな高貴な方と……お知り合いなんですか? そ、それにば。馬鹿王子って……」
「向こうからやってきただけだよ。来てくれなんて頼んでねぇし、身分弁えろっての。こんなところに気軽に来れる立場じゃねぇだろ。そんなことも分らんバカな王子で馬鹿王子」
「相変わらずなかなか冗談がきついな」

 いや、本音だが?
 つかなんだその高笑いめいた笑い声は。

「き、聞いてないですよこんなの……」
「おーい、馬鹿王子。新人からこんなの呼ばわりだ。ここに来ると碌な目に遭わねぇからとっとと帰れ」
「アラタ、何を言うか。アラタだって王家と全く無縁なわけでもないではないか。アラタが受け取りやすいこちらからの詫びということもあるのだぞ?」

 っていうか、何で呼び捨てだよ。
 やたら親しいって思われるじゃねぇか。

「無縁じゃない? って、どういうことなのでしょう? 皇太子様」
「うむ。アラタは元々は旗手の一人としてこの世界に召喚された一人」
「旗手?! アラタさんが……旗手?!」

 あ、こいつにも白目ってあったんだな。
 目を丸くした分白目の面積が増えてらぁ。

「アラタは大変だなあ」
「何だよいきなり」
「いちいち旗手の説明をお、しなきゃなんないんだもんなあ」
「まったくだ。まあ今回は人手がもう少し欲しいと思ってたから、それは我慢するけどよ。こんな話したって何の自慢にもなりゃしねぇ」
「じ、自慢になりますよ! き、旗手だっただなんて」
「あ、ちなみに二度ほど国王から直々にお尋ね者にされたぞ」
「はいぃ?! あ、アラタさんって……何者なんですかっ」
「私を馬鹿王子呼ばわりするくらいだ。曲者と言った方が当てはまるかもな、アラタ」

 うまいこと言ったつもりか?
 残念だったな。
 誰も笑っちゃいねぇぞ。

「み、みなさん、ご存じだったんですか?」

 おいクリマー、混乱してるぞ。
 俺らにまで敬語使い始めやがった。

「うん。まず最初にあたしと二人で行商やってて、最初にライム、次にテンちゃんが仲間になって、そのあとでアラタの話聞いたんだっけ?」
「そんなタイミング忘れたよ。みんながいる前で話……は馬鹿王子がしたんだっけ?」
「ライムとあたしが一旦離れて、その後でマッキーがアラタ達と合流?」
「そそ。で、このサキワ村で定職にありつけそうって話聞いて……」
「俺はずっとこの村にいたからなあ。で、テンちゃんとライムが再合流してえ」

 昔話しなきゃならんほど年を食ったつもりはねぇんだがな。

「で旗手の話をした、と」
「私を抜かさないでほしいな」
「だから仲間にした覚えはねぇっつってんだよ馬鹿王子!」

 こいつもこいつで、どさくさに紛れて何言い出し始めるんだ!
 権力者にすり寄られたくねぇっての。
 いつでも切り捨てられると陰の尻尾になんて、誰が好き好んでなるかっての!

「き……旗手がどうしてお尋ね者に? しかも二度?!」
「無銭飲食じゃないことは確かね」

 マッキー、ちょっと待て。
 お前もお前で何口走ってんだ!

「フジョボーコー」

 ライムの口の悪さは別格だぞオイ!
 誰だそんな言葉教えやがったのは!

「これも説明した方がいいんじゃないか? 気にする者はとことん気にするものだぞ?」

 だから余計な世話だっつーの!
 まったく……。

「国王に召喚されたらしい。が、その国王に嫌われた。そのついでに一度目の手配書が流れた。だから定住するわけにはいかなかった。行商を始めたけどギルドには加入しなかった。それとテンちゃんとライムが加入したことで魔物使いとして二度目の手配。理解できたか?」
「国王から嫌われた……って……何やらかしたんです?」
「何もしてねぇよ。おにぎり売ってただけ」
「国王……わが父、というか身内の恥を晒すようだが、我欲に振り回された王の行く末に、現在隔離されている。アラタが悪事をなしたのではなく、アラタの旗手としての役目を請け負っていた先々代、先代の予見の旗手が王を諫め、改心させようと試みたようだが逆鱗に触れた」
「……アラタさん、とばっちりだったんですね……」
「うるせぇ」

 それにしても、何で皇太子様がタイミングよくここに現われるんだよ。
 ゆっくり飯も食えやしねぇ。
 やれやれ。
 
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