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三波新、定住編
アラタの店の、アラタな問題 待つしかできない けどだからこそ、みんなが大切
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テンちゃんが足を引きずりながら、子供を抱えて走ってくるマッキーの後をついてきて、店の前に到着した。
とたん、テンちゃんは気を失って倒れた。
「て、テンちゃん?! テンちゃん!」
「ヨウミ、心配ないよ。気を失ってるだけだよ」
「で、でも足を引きずって……。空も飛べずに……」
子供の冒険者達はオロオロしたままだ。
この子達を宥めるのは私しかないんだろうけど、どんな経緯でこうなったのかも気になるし、何よりこのままテンちゃんを横にしておけないだろう。
「ア、アラタはどうなったの?! 無事なんでしょうね!」
「うん、今来るよ。それよりこの子も寝かしたいんだけど」
肌の色が妙に黒い子だった。
黒というよりこげ茶だろうか。
火で焦げた色ではないし、焦げ臭い臭いはしない。
「じゃああたしの寝室に連れてったげて。あたしはテンちゃん看てるから」
「うん、お願いね、ヨウミ。あ、ちょうどよかった。ほら、アラタとモーナー来たわよ」
「え? あ、アラタ……」
アラタはここを飛び出した時と同じ、全身虹色のまま。
モーナーと一緒に、何事も無いように歩いてきた。
けどアラタが歩いているのか、ライムがアラタを歩かせているのか分からない。
「アラタっ……。モーナー……あなたは?」
「無事だぞお。テンちゃんはあ?」
「て、テンちゃんは、そこで力尽きて……寝てるけど……」
「んじゃあ俺が中に入れてやるぞお。ヨウミはあ、アラタを頼むぞお」
「え? あ、うん……。って、アラタ……まず自分の寝室に行こうか」
「あ、ライムとアラタ。……って、大丈夫?」
丁度マッキーがやってきた。
最後の一人の子を私の布団に寝かせてしばらく様子を見てたんだろうな。
「マッキー、この子達のこと、お願い。あたしアラタ寝せてくるから」
「うん、分かった。さ、みんなは大丈夫かな?」
うん、あとはアラタだけが心配だけど……。
「ハヤク、ツレテケ」
ライムの声がいきなり飛んできた。
「アラタ、マズイ」
「なっ……! ライム、急いで彼のベッドに!」
のんびり歩かせてる場合じゃないでしょうに!
※※※※※ ※※※※※
「いいわよ、ライム。……よし。布団をかけてから……ライム、解除していいわよ」
ライムはまるでアイスが解けるように、アラタから離れていく。
想像通り、アラタは苦しそうな顔。
あたしができることと言えば……。
「そうだ! ライム、あなたの加工した飲み物、あれを飲ませたら、アラタも少しは回復するかしら?」
「トッテクル!」
ライムはぴょんぴょん飛んで貯蔵庫の方に向かって行った。
アラタは、しわが寄っている眉間にのみ力が入り、あとはどこにも力を入れられないまま苦しそうにしている。
「ほんっとにアラタってば……」
思わずアラタの体を布団越しに叩きそうになった。
……最初に出会った時は、不審人物だった。
一緒に行商していくうちにこんなことを言いだした。
「なるべく人と関わりたくない」
そして行商生活が終わって、こうして仲間と一緒に店を続けて……。
今までたくさんの命を支え、ピンチから脱出させる力を与え続けてきた。
この人は、そんな大事なアイテムをたくさん作ってきた。
けれどこの人がお客さんに、何度も繰り返した言葉と言えば……。
「十個セットの注文なら、十二個分の値段になって得だよー」
「あ? 六人分を五人分に? じゃあ値段は七人分ね」
「それだと百五十円だが、ゼロが一個だけってのが気に食わねぇ。おまけしてゼロを二個にしてやる」
こんなくだらない事ばかり。
でも、こうして店を構えて、今までと同じ調子で商売を続けてきたと思ってたんだけど……。
この人はこう言い切ってた。
「俺はなぁ、みんなから仲間にしてくれって頼まれたリーダーなんだよ!」
こんなことを言うなんて、行商時代はとても思いもしなかった。
この人自身は、周囲に気を配って気配を感じ取り、それを手掛かりにトラブルを事前に回避するくらいしか特別な力はないと思ってた。
それ以外は普通の人と変わらないと思ってた。
でも、普通の人じゃなかった。
アラタ本人も知ってた。
みんなから頼りにされたけど、だからといって、自分の身を犠牲にしていいわけないじゃない!
「ノミモノ、モッテキタ!」
「それを飲ませたいんだけどそのまま飲ませたらこぼしちゃうし布団濡れるわよね」
「マカセロ!」
ライムは水筒の蓋を開け、それを覆う。
体のてっぺんを細くして、アラタの口の中に入れる。
「ストロー……とはちょっと違うね」
吸い込まなければ飲めないストローではなく、少しずつ飲み物をアラタの口に押し出している漏斗のような役目をしている。
口から溢れ出そうになるとその動きを止め、体内に入れようと頑張っている。
「あまり無理しないでね。アラタにも無理させないでね」
「ワカッテル」
アラタの顔が穏やかになった。
それにしても、ダンジョンでどんな動きをしてたのか。
全く想像もつかない。
ライムがさせたんだろうけど、その無理のお陰で子供達は皆無傷……だと思う。
「アラタの状態はどう?」
「マッキー……あの子達は?」
「もう時間が時間だし、あの子以外は、とりあえず宿に連れてった。ドーセンも心配してた」
「余計な心配かけちゃったわね」
「あ、いや、そうじゃなくて」
「え?」
子供達の話で、怪我がないことは分かったからその心配は得にしてないが、いつも泊まりに来るモーナーが来ないから、とのこと。
普段の日常の中でいつもと違う様子が見られたら、それは確かに心配もするか。
「あの子が目が覚めたら一緒に帰んなさいっつっといたけどね。そんなことよりテンちゃんがちょっと重傷っぽいね。様子見てきたけど、モーナーがつきっきりで看病してくれるってさ」
「それは助かる」
「まったくだ」
テンちゃんを運べるのって、モーナーくらいなもんだろう。
つくづく心強い仲間がいて有り難いと思う。
「じゃああたしはあの子の看病するから。アラタのこと、よろしくね。ライムも頼んだわよ?」
「うん、そっちはよろしくね」
「リョーカイッ」
長い一日がようやく終わろうとしている。
けど、今回もアラタが目覚めるまで三日くらいかかるんだろうなぁ。
とたん、テンちゃんは気を失って倒れた。
「て、テンちゃん?! テンちゃん!」
「ヨウミ、心配ないよ。気を失ってるだけだよ」
「で、でも足を引きずって……。空も飛べずに……」
子供の冒険者達はオロオロしたままだ。
この子達を宥めるのは私しかないんだろうけど、どんな経緯でこうなったのかも気になるし、何よりこのままテンちゃんを横にしておけないだろう。
「ア、アラタはどうなったの?! 無事なんでしょうね!」
「うん、今来るよ。それよりこの子も寝かしたいんだけど」
肌の色が妙に黒い子だった。
黒というよりこげ茶だろうか。
火で焦げた色ではないし、焦げ臭い臭いはしない。
「じゃああたしの寝室に連れてったげて。あたしはテンちゃん看てるから」
「うん、お願いね、ヨウミ。あ、ちょうどよかった。ほら、アラタとモーナー来たわよ」
「え? あ、アラタ……」
アラタはここを飛び出した時と同じ、全身虹色のまま。
モーナーと一緒に、何事も無いように歩いてきた。
けどアラタが歩いているのか、ライムがアラタを歩かせているのか分からない。
「アラタっ……。モーナー……あなたは?」
「無事だぞお。テンちゃんはあ?」
「て、テンちゃんは、そこで力尽きて……寝てるけど……」
「んじゃあ俺が中に入れてやるぞお。ヨウミはあ、アラタを頼むぞお」
「え? あ、うん……。って、アラタ……まず自分の寝室に行こうか」
「あ、ライムとアラタ。……って、大丈夫?」
丁度マッキーがやってきた。
最後の一人の子を私の布団に寝かせてしばらく様子を見てたんだろうな。
「マッキー、この子達のこと、お願い。あたしアラタ寝せてくるから」
「うん、分かった。さ、みんなは大丈夫かな?」
うん、あとはアラタだけが心配だけど……。
「ハヤク、ツレテケ」
ライムの声がいきなり飛んできた。
「アラタ、マズイ」
「なっ……! ライム、急いで彼のベッドに!」
のんびり歩かせてる場合じゃないでしょうに!
※※※※※ ※※※※※
「いいわよ、ライム。……よし。布団をかけてから……ライム、解除していいわよ」
ライムはまるでアイスが解けるように、アラタから離れていく。
想像通り、アラタは苦しそうな顔。
あたしができることと言えば……。
「そうだ! ライム、あなたの加工した飲み物、あれを飲ませたら、アラタも少しは回復するかしら?」
「トッテクル!」
ライムはぴょんぴょん飛んで貯蔵庫の方に向かって行った。
アラタは、しわが寄っている眉間にのみ力が入り、あとはどこにも力を入れられないまま苦しそうにしている。
「ほんっとにアラタってば……」
思わずアラタの体を布団越しに叩きそうになった。
……最初に出会った時は、不審人物だった。
一緒に行商していくうちにこんなことを言いだした。
「なるべく人と関わりたくない」
そして行商生活が終わって、こうして仲間と一緒に店を続けて……。
今までたくさんの命を支え、ピンチから脱出させる力を与え続けてきた。
この人は、そんな大事なアイテムをたくさん作ってきた。
けれどこの人がお客さんに、何度も繰り返した言葉と言えば……。
「十個セットの注文なら、十二個分の値段になって得だよー」
「あ? 六人分を五人分に? じゃあ値段は七人分ね」
「それだと百五十円だが、ゼロが一個だけってのが気に食わねぇ。おまけしてゼロを二個にしてやる」
こんなくだらない事ばかり。
でも、こうして店を構えて、今までと同じ調子で商売を続けてきたと思ってたんだけど……。
この人はこう言い切ってた。
「俺はなぁ、みんなから仲間にしてくれって頼まれたリーダーなんだよ!」
こんなことを言うなんて、行商時代はとても思いもしなかった。
この人自身は、周囲に気を配って気配を感じ取り、それを手掛かりにトラブルを事前に回避するくらいしか特別な力はないと思ってた。
それ以外は普通の人と変わらないと思ってた。
でも、普通の人じゃなかった。
アラタ本人も知ってた。
みんなから頼りにされたけど、だからといって、自分の身を犠牲にしていいわけないじゃない!
「ノミモノ、モッテキタ!」
「それを飲ませたいんだけどそのまま飲ませたらこぼしちゃうし布団濡れるわよね」
「マカセロ!」
ライムは水筒の蓋を開け、それを覆う。
体のてっぺんを細くして、アラタの口の中に入れる。
「ストロー……とはちょっと違うね」
吸い込まなければ飲めないストローではなく、少しずつ飲み物をアラタの口に押し出している漏斗のような役目をしている。
口から溢れ出そうになるとその動きを止め、体内に入れようと頑張っている。
「あまり無理しないでね。アラタにも無理させないでね」
「ワカッテル」
アラタの顔が穏やかになった。
それにしても、ダンジョンでどんな動きをしてたのか。
全く想像もつかない。
ライムがさせたんだろうけど、その無理のお陰で子供達は皆無傷……だと思う。
「アラタの状態はどう?」
「マッキー……あの子達は?」
「もう時間が時間だし、あの子以外は、とりあえず宿に連れてった。ドーセンも心配してた」
「余計な心配かけちゃったわね」
「あ、いや、そうじゃなくて」
「え?」
子供達の話で、怪我がないことは分かったからその心配は得にしてないが、いつも泊まりに来るモーナーが来ないから、とのこと。
普段の日常の中でいつもと違う様子が見られたら、それは確かに心配もするか。
「あの子が目が覚めたら一緒に帰んなさいっつっといたけどね。そんなことよりテンちゃんがちょっと重傷っぽいね。様子見てきたけど、モーナーがつきっきりで看病してくれるってさ」
「それは助かる」
「まったくだ」
テンちゃんを運べるのって、モーナーくらいなもんだろう。
つくづく心強い仲間がいて有り難いと思う。
「じゃああたしはあの子の看病するから。アラタのこと、よろしくね。ライムも頼んだわよ?」
「うん、そっちはよろしくね」
「リョーカイッ」
長い一日がようやく終わろうとしている。
けど、今回もアラタが目覚めるまで三日くらいかかるんだろうなぁ。
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