上 下
85 / 493
三波新、放浪編

ここも日本大王国(仮) 改めて、おにぎりの店、準備万端!

しおりを挟む
 昼食で祝勝会。
 場所はサキワ村の唯一の宿屋。
 ドーセン一人で経営している。
 ちなみに泉現象の魔物討伐の案内役を買って出た。
 それにしても、だ。

「まさか王子様が相伴してくれるたぁ思わなかったぜ!」
「逆でしょ? 私達がご相伴に預かってるんじゃなくて?」
「王宮に招かれたかったなぁ。そっちでも祝勝会やってんじゃないの?」

 最後、図々しい奴だな。
 それはともかく、俺らばかりじゃなく、天馬とスライムまで混ざってるんだが……。
 この二体、ある意味混乱している。
 祝勝会参加のことじゃなくて、これまでの経緯のことを思い返して、らしい。

「だって、だってみんなさぁ……うぅ……」

 天馬はまだ泣き止まない。
 なんか、感情が複雑だ。
 怒りも入ってるし、不満もある。
 随分ネガティブだな。

「だって、だって……みんな仲間にしてあげるとか言っててさ……我慢しろとか言うこと聞けとか、そんな命令しか言わないんだもんっ。こっちの言うこと聞いてくれなかったし……」
「おーい、誰だー? この馬鹿天馬に酒飲ませた奴はー」
「真面目に聞いてよアラタっ!」

 噛みつかんばかりに大口を開けてこっちを向かれると、流石に迫力がある。

「テンちゃん、向こうで何があったの?」
「うえぇぇぇん! 自分のとこにくれば成長できるよって言われてぇ」
「誰に?」
「アラタに突っかかって来てた人ぉ」

 芦名か。
 まぁ伝達の旗手などと言う名称なら、コミュニケーション能力高そうだもんな。

「誰か一人に縛られるより、いろんな人といろんな体験すると、今よりもっと能力が高くなるよって」
「それで?」

 ヨウミがいい具合で相手してくれてる。
 おれは新しく仲間に入ったマッキーとモーナーとのコミュニケーションに行くかなー。

「で、アラタ達と別れた後、あの人達と合流してぇ」
「そうだったの。それで?」
「みんなから、あのときはごめんって」
「あのとき……アラタが助けに行った時のことだね。謝ってもらったんだ」
「あんなの口先だけだよぉ! だって……だって……うえぇぇん」

 泣いてばかりでなかなか話が進まない。
 ヨウミが辛抱強く話を聞いて、それを要約すると……。
 泉現象の討伐にも同行したらしい。
 で、いろいろ提案すると片っ端から却下された。
 却下されたどころか邪魔者扱いまでされたらしい。
 仲間になるって言っておいて、この扱いはどういうことかと反論したら、言葉を封じられたとのこと。
 それ以来目の前が真っ暗な、何に対しても希望が持てない毎日だったようで、そのうち命じられたとおりにしか動けなくなったそうだ。
 で、そんな中でモーナーに突進した出来事もあった、ということらしい。
 そのモーナーに、俺が仲間呼ばわりしたもんだから、その時には我に返って怒り狂った、と。

「うえぇぇぇん! おっきな人ぉ、ごめんなさああい! うええぇぇぇん!」

 子供かこいつは。
 子供らしい素直さは評価してもいいけどよ。

「んー……。結局みんな無事だしい、俺は平気だよお。まだ痛いけどお。そんなに泣かなくていいよお」
「でも……テンちゃんって言うの? まさかアラタの仲間だったとはねー。あ、あたしはマッキー。よろしくね」
「俺はモーナーだあ。よろしくなあ」

 おいおい。
 勝手によろしくしてんじゃねえよ。
 つか、仲間にならなくてもそれくらいの挨拶はするか。

「ヒック……ヒック……。みんなにも、ごめんなさい……」

 冒険者全員にも謝罪している。
 どこぞの王にこの態度を見せてやりたいもんだが。

「済んだことは仕方ねぇし、何よりみんな無事なんだ。結果オーライということでな」
「それに魔物退治の時には大活躍だったしよ。俺達も助かったぜ」
「その割には旗手の人達はそんなでもなかったな」
「仕方ねぇよ。三人くらいしかいなかったろ?」
「王子サマの気苦労も……大変だったろ? ほれ、飲め……って、酒は出ねぇんだっけか」

 酒は出ないはずなのに、泣き上戸の天馬がおる。

「アラタぁ、あたし達も戻りたいー」
「……どこかの異世界から来たって話は聞いてないぞ?」
「こら、アラタ。茶化さないのっ」

 相変わらずヨウミのツッコミには面白みがない。
 もうちょっと面白みをだな……。

「でもあたし達よりも前から一緒にいたんでしょ? ならいいじゃない。あたし達なら問題ないわよ? ねぇ、モーナー」
「あぁ。俺も別に気にしないぞお。アラタぁ、仲間が増えて、俺はうれしいぞお」

 なんかもうなし崩しにされてるな。

「まぁ……真っ先にモーナーに謝ったことだし……いいか」

 俺の一言で食堂の中が一斉に湧いた。
 何で盛り上がるんだよ、お前ら。
 公衆の面前でプロポーズして、それに応じた時のようなリアクションじゃねぇか。

「それにしてもさ。王子サマもこの後大変だよな」
「少なくとも俺達の心象はよくねぇよな、旗手の連中」
「俺達に直接的な被害はなかったけどさ、アラタがこうも被害受けたんじゃなぁ」
「何人かは恩義あるんだろ?」

 そういうのが嫌なんだってば。

「そういうのはなしにしてくれ。あいつと俺の関係は、俺の世界でのことなんだからさ。それを持ち込んだあいつが悪かろうが、俺とあいつの関係をこの世界の人間に被害が」
「あったろ? アラタ。それでその魔物二体が被害を受けた」

 そこを突かれると痛いんだが……。

「俺とあいつの間に、事情を知らない他人を巻き込む気はねぇよ。気にかけてもらって有り難くは思うが、それよりおにぎりを買ってもらった方がよほどうれしいんだがな」
「前々から噂で聞いていた。噂に違わぬ効果、実に夢のような食べ物だったな」

 いきなりの皇太子からの高評価。
 ま、個人的な意見だろうからご用達とまではいかないだろうがな。

「だからと言って、調子に乗って値上げとかしちゃだめだからね!」
「しねぇよ! まったく」

 ヨウミに言われるまでもない。
 それに俺の店もスタッフが一気に増えたわけだし、あとは俺の頑張り次第か。

「えー?! いつの間に名前決めたのー?! あたしも混ざりたかったのにぃー!」

 テンちゃんが地団太を踏んでいる。
 しょうがないだろ。
 あんなことが合った間に決まったんだから。

「仲間になれただけでも御の字だろ。ここで俺と会わなかったら、今頃何してたか……」
「うぅ……」

 恨めしい目つきになっても、現実は変わらんよ。
 現状で良しとすべきだろうに。

「ナカマ! ナカマ!」
「え? ライム、喋れるの?!」
「ナカマ! ナカマ! ライム、ウレシイ!」

 なんかこう、この一件でいろいろショックなことが多すぎた。
 テンちゃんとライムの裏事情。
 この二人の再合流。
 ライムの発声。
 二日三日、ちょっと気持ちを落ち着けて休みたい気分だ。

「できれば私も仲間に加わりたいが、王家としての務めは全うせねばならない。が、仲間に加えてもらえないだろうか」

 何をいきなり言い出すんだこの馬鹿王子は。
 そんな大物、手元にキープなんてできるわきゃねぇだろうが!

「まったく皇太子様は冗談がきついですよぉ」

 あぁ、冗談だったか。
 寿命縮むぜ。

「いや、ヨウミ殿、七割以上は本気のつもりだが?」

 ヨウミが顔を真っ赤にしている。
 名前と顔を覚えられたってこともあるんだろうけどな。

「……今はいろいろありすぎた。これ以上俺達を混乱させんなよ、馬鹿王子」
「こ、こらっ! 皇太子様になんてことを!」

 ええい!
 空気読めない奴はみんな馬鹿呼ばわりに決定だ!
 王族だろうが何だろうが知ったことかーっ!
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺わかば
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします

吉野屋
ファンタジー
 竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。  魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。  次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。 【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】  

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

処理中です...