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三波新、放浪編

ここも日本大王国(仮) その5

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「そんなこと……そんな愚痴吐いてる場合じゃないでしょ! 今、何すべきか考えないと! とりあえず一旦戻ろう? モーナー達、戻るかもしれないし」

 確かに、魔物達から逃げきれないかもしれないとしか考えてなかった。
 何事もなく戻ってくる可能性もある。
 ならばその後のことも考えなければ。
 となると、村の防衛力がゼロに近いのは痛い。
 どこかから力を借りてこないと。

「確か隣の村か町までの距離は……」
「五キロくらいね。ラーマス村、かな。でもここに来た時の道から枝分かれした先だから」
「道沿いにはないのか。まぁいい。あと方向だが」
「え? そこに行くの?」

 逃げると思ってるらしい。
 冗談じゃない。
 逃げの手はねぇよ。

「応援を呼ぶ。関知しないかもしれんが、巡回してる冒険者だっているかもしれない。運が悪い俺に何かの力が宿って、とんでもない戦力を連れてくるかもしれんだろ?」
「絶望と希望を織り交ぜないでくれる? 人が真剣になってるときに……」
「五キロか。三時間もあれば往復できるかな。周辺の地図はないか? お前に買わせられたのは全国地図だろ。それじゃ役に立たん。ここに来るまでに枝分かれの道は見たことなかったから」
「ドーセンさんにはあとで謝っとこ? ここに貼ってある」

 壁に貼られている周辺地図には、そのラーマスとやらの村の一部も載っている。
 いや、ホント申し訳ないが、画びょうを外して……。
 おい。

「えいっ。よし。はい、これっ」

 こいつ、破きやがった。
 俺は悪くないぞ。
 悪くないからな!!

「よし、じゃ、モーナー、マッキーが戻ったらそのことを伝えて……村人も避難するようなら俺達も。村人たちが反応しなかったら、留まりつつどうにかする方法を」
「いいから! いいからとっとと行ってこいっ!」
「うおっ! わ、分かった!」

 ヨウミにケツ蹴り飛ばされた。

 ※

 地図がなかったらお手上げだった。
 遭難していたかもしれない。
 確かに道は……ないわけじゃなかった。
 だが、獣道まで地図に載ってるとは思わなかった。
 誰だ! この地図を作ったのは!
 けど地図に載るはずだ。
 その道の先はラーマス村に続いていたのだから。
 ただし、正面ではなく、いわゆる裏口とでも言うのだろうか。
 普通なら正面から出入りするものだろう。
 裏口から出入りする者の素性なんて、怪しく思われる連中しかいないんじゃないだろうか。
 俺もそんな風に怪しまれてもおかしくはないだろう。
 藁をもすがる思いとはこんな気持ちなんだろう。
 それでも、誰かに何とか力を借りなければ。
 俺の好まないしがらみという奴だ。
 だがこればかりは、俺の力ではどうにもならない。
 とにかく、周りの目を気にせずに、まずはラーマス村の、冒険者がいると思われる酒場に足を運ぶ。

「お、アラタじゃねぇか! 久しぶりだなあ!」

 ドアを開けて俺の耳に飛び込んできた第一声はこれだった。
 考えてみりゃ、今までだってそうだった。
 行商を続けていくうちに、商売中にやってくる客は真っ先に俺の名前を呼んでいた。
 思い返してみれば、俺の世界で俺が受けた仕打ちと同じことをする奴は、この世界には……いなかった。
 俺は……。

「おい、どうしたよ。アラタ。何、こんな時間から酒飲みに来たのか?」
「いや、アラタは酒は飲まねぇんだ。よな? 俺を用心棒にした時のことまだ覚えてるぜ?」

 え?
 俺が、冒険者を、用心棒に?
 えっと……。

「何だよ、忘れたのか? ホントに客の顔覚えねぇ奴だな。ガハハハハ」
「ちょっと、ゲンオウ! 人にはそれぞれ得意不得意ってのはあるのっ! 人の欠点を笑いものにしないのっ! ……で、どうしたの? アラタ。今日は一人?」

 ……そうだ。
 今は考え事に没頭してる場合じゃない。

「……また、用心棒、頼めるか?」

 そうだ。
 思い出した。
 商人ギルドの手下か何かが、俺の泊まる宿に押しかけてきそうなのを見計らって、声かけてきた冒険者に用心棒を雇ったんだった。
 あ、あぁ。こいつらだったか。
 だが、あん時は命の危険はほとんどなかった仕事。
 だが今回は……。
 下手すりゃ俺が責められるほど危険な仕事だ。
 拒否されるかもしれない。
 だが、引き受けてもらわにゃ困る仕事だ。

「何か、深刻そうだな。おう、話を聞くだけならタダだぞ?」
「その後のことを心配してるんじゃない? 二進も三進もいかない事情ができた。私達が引き受けるなら問題はないけど、ちょっとヤバい仕事だから断られるかもしれない。断られたらどうしようって」
「そりゃ……いくら腕に覚えがあるっつっても、限度ってのはあるからなぁ」

 そうだ。
 断られない範囲でなら、引き受けてくれるに違いない。
 いずれ、ここで手ぶらでは帰れない。

「実は……」

 ※

「……マジか」
「ゲンオウ、何ビビってんのさ。湧き出る魔物を退治してくれって依頼じゃなかったろ? ダンジョンの中にいる冒険者達の救出、なんでしょ?」

 そう。
 魔物の討伐は、ここにいる冒険者全員を連れて行っても無理な話だ。
 だが、あいつらを助け、村人の避難の手伝いならば、彼らもハードルが低く感じるだろう。

「だが正確な情報が欲しいな。その冒険者だって、素人じゃないだろう」
「待て。サキワ村のダンジョンだろ? 初心者向けのダンジョンって聞いたぜ?」

 いつの間にか俺の周りには、酒場にいる冒険者達全員が集まっていた。
 二十人くらいはいるだろうか。

「その中に、エージとかデイリーとかって奴はいなかったか?」
「え? あ、あぁ。四人組だったな。あの村で会う前に、俺の店に来た客の冒険者が引き合わせ」
「それ、俺だよ! って覚えてねぇか。シュルツ……って、その様子じゃ名前言っても思い出せそうにもないな」

 あ、あぁ、えーと……。
 そうだったかもしれないし、うん。

「待った。魔物が湧き出るっつってたな? それ、魔物の泉現象じゃねぇのか?」

 一瞬、酒場の天井から大量の冷たい水が被ったかのように、空気が凍り付いた。
 普通に魔物が出現する数とは比べ物にならない。
 ここにいる冒険者達で何とか出来る数ではない。

「いや、待て。出現場所は、そのダンジョンの中って言ったな?」
「あ、あぁ。遅くても明日の朝には」
「ってことは……出入り口があるってことだよな」
「あ、あぁ。二か所作ってるっつってたな」

 出入口は確かにある。
 だがそれがどうした?
 状況は

「となりゃ、ダンジョンが破壊されない限り、その二か所からでしか出入りできないってことだ」
「あ、そうか。その二か所で待ち伏せしていれば」
「雪崩現象とは違う。溢れ出てくるなら、一、二体ずつ出してやって袋叩きにすれば」
「待て。その前に救出作業が先だろう?」
「足のはえぇ奴に、脱出することだけ考えてもらえばどうよ」

 そいつの負担がでかくなるだけだが……。

「でも泉現象なら、旗手達がくるんじゃねぇの? もうじき魔物が出てくるってんなら、そろそろあいつらが現場に駆けつけててもおかしくはねぇだろ」

 ……すっかり忘れてた。
 だが……あてになるのか?
 いつまでも昔のことに固執して、俺より優位な立場に立とうとしてた奴も混ざってるんだぞ?

「あ、あの……」
「勝算は確実じゃねぇ。けど無策じゃねぇ。世話になった義理もある。が、そんな義理よりも……アラタのそんな顔は見たくねぇ」
「!!」

 言葉に詰まった。
 一体俺は、こいつらの中ではどんな立ち位置になってんだ?

「まずはあの若手の冒険者達の救出を第一に。そして第二は魔物を外に出さないようにすること。そして村や村人に被害を出さないようにする。自由参加だ。この村の馬車貸し切るぜ!」
「おうっ! ほら、アラタ、ぼーっとすんな! とっとと行くぞ!」
「み……みんな……」
「しけた顔してんじゃねぇよ! 急ぐぞ、ほら!」

 待て。
 肝心な事忘れてないか?
 この作戦の危険度と、それから……。

「お、お前ら、報酬はどうする気だ? 俺はそんなに金は出せねぇぞ?!」

 またも時間が止まる。
 酒場の中が静かになった。
 が、それも一瞬だけ。

「……ぷっ。下らねぇこと言ってんじゃねぇよ! それに泉現象なら、報酬は国からも出ることになってる。心配すんな!」

 初耳だ。
 そんなことも聞いたことはなかった。

「ほれ、とっとと行かねぇと、間に合うもんも間に合わねぇ!」

 意外と事情を知らないでいた。
 だが、最悪の、手ぶらでサキワ村に戻るという事態は避けられたみたいだった。
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