上 下
68 / 493
三波新、放浪編

こだわりがない毎日のその先 その7

しおりを挟む
「あれを売り歩いてるの? へぇー。じゃあかなりのお金持ちなんだな!」
「なんでそうなる?」
「だってあれだけ美味しくて、食べた後も元気も出るし。何? アラタって魔法使いか何か?」
「一般人だっつっただろ」
「そうだっけ?」

 おにぎりを食ってから、俺にかなり興味津々のダークエルフのマッキー。
 本人から聞いた話によると、エルフ社会にいながら、その肌の色から爪はじきにされ、一族もろとも追い出されたとか。
 何人で生活していたかまでは聞かなかったが、最後の一人となって放浪していたらしい。
 が、居心地の良さから、森林から出たことはあまりないとのこと。
 食生活は主に植物、穀物を中心とした物らしい。
 肉や魚などは自分から好んで口にすることはなく、非常事態においてはやむなく口にする程度。
 だがおにぎりの具の程度なら普通に食えるらしい。

「でも肌つやいいよね。化粧とかしてるの?」
「化粧? 何それ」

 三人で荷車を牽いているが、力を入れているのは真ん中のマッキーで、俺とヨウミはただ梶棒を掴んでいるだけ。
 そしてマッキーとヨウミでガールズトークが始まった。
 何だろう、このいづらさは。

 ※

「へえぇ……。姿を見なくても、その気配で分かるんだー」
「そうみたいよ? 私はごく普通の一般人だけどね」
「あれ? じゃああたしがヨウミに矢を飛ばした時は……」
「アラタの指示でね。自分には当たらないって分かってたみたいよ?」

 ……なんか視線を感じるんだが、ここは敢えてスルー。

「アラタ、あのときボーっとしてたと思ってたんだけど」
「何か分かってたみたいよ?」

 ……なんか、視線に痛みを感じるんだが。

「も、もう一回あれをやり直ししようかしら」

 何体裁整えようとしてるんだよ。
 気配分かってても避けられたり防御できるかってのは別問題だからなっ!

「お、落ち着いて、ね? マッキー」

 ちらっとエルフの顔を見たら……。
 なんか赤面してる。
 何つーか……。
 仕事頼んだの、早まっちまったか?

「え? 普通の人じゃない? 異世界からの人? 何それ」
「えっとね、召喚魔法ってのがあって……」
「キシュ? キシュって……何?」
「え、そこから説明? えっとね……」

 人間の世界の常識や決まり事、その他諸々のことを全く知らない、興味がない社会も、同じ世界の中に存在する。
 いや、同じ国の中に存在するってことか。
 つくづく旗手ってやつを特権階級みたいに受け取らないでよかった。
 マッキーは、人間社会の情報のほとんどを知らないようだ。
 俺にとっちゃ、むしろそっちの方が都合がいいような気がする。

「え? サキワ村? この先の?」
「知ってる? マッキー」
「この道を真っすぐ行くと、村は一つだけ。そこで行き止まりって感じになってるのは知ってるけど、名前までは知らないなー」
「ほら、地図を持ってなくても生活できることはこれで証明できるだろ?」
「ややこしい口挟まないでよ、アラタ」

 叱られた。
 でも行き止まりってどういうことだ?

「その村の方にも行ったことあるけど、山に囲まれてるのよね。その山の向こうはどうなってるか分かんないけど。ぐるっと囲まれてるし、山の向こうに降りるまでかなり距離あるんだよね」
「日本大王国の外だからね。外国のことはあんまり興味ないかな」

 興味ない……って……。
 人のこと言えねぇじゃねぇかよ。

「その村、どんなとこか知ってる?」
「え? 知らないで行くの? まぁそういうのを楽しいって思うのもいるんだろうけど……。まぁ……野菜とかたくさん作ってる村だね。興味ないけど、肉とかも美味しいって話聞いたことあるよ?」

 何だそのお互いの興味ない話のやり取りは。
 でも肉とかも美味しい……ねぇ。
 想像する限りでは、農業と畜産業に長けている地域ってことか?

「あたしの足なら二日くらいで着くけど、人間の足とこれ引っ張ってじゃねぇ。三日くらいかな?」
「まぁ、計算通りだな」
「でも行商に行くって……買い物客、ほとんどいないんじゃないの?」
「何でそんなことが分かる?」

 思わず質問してしまった。
 マッキーは人間社会に疎そうなのに、なぜそんなことが分かるのか。
 けど、そっちの社会にも商売があるってんなら、客がいなければ仕事にならないってのは理解できるだろうけどな。

「何回かちらっと見に行ったことあるけど、家っぽい建物は数えるくらいしかなかったし、大きい建物は三つくらいしかなかったわよ? 畑仕事とかする人達だけの村って感じ」

 自給自足の生活をしてるのか。
 でも、仕事はある、みたいなことは言われたが、どういうことだ?
 まぁ行ってみれば分かることだが……。

 ※

 何事もなくそれから予想通り三日後の午後に着いた。

「……ここでしょ? 来たかったの」
「うん……だけど……」

 村の地域の柵の中には、普通の農地の風景が目の前に広がっている。
 確かに話に聞いた通り、建物はまばらだ。
 田んぼ、畑、果樹園と思しき林、そして牧場。
 のどかな風景だ。

「何もないね」
「いろんな話を聞いた通りだな」
「何もなさ過ぎて、どこに行けばいいのか分かんないな」
「あたしが知ってるのはここまでね。この土地の中はどうなってるかまでは全く知らないから」
「……誰かが案内してくれると思ったのに……」

 何を期待してたんだヨウミは。
 まさか、歓迎! アラタ御一行様 か何かの看板でも立ってると思ってたのか?
 ここの人にとっては、来るかどうか分からない集団を歓迎しているってことだぞ、その発想は。

「とりあえず、宿屋だな。冒険者達がたむろする場所と言えば、どこだってそれが当てはまるだろ?」

 民家と思われるような建物がその設備を有してるわけじゃないだろう。
 とは言え、普通の民家はざっと三十くらいか。
 それでよく村という自治体の態勢を整えられるもんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

追放されたテイマー半年後に従魔が最強になったのでまた冒険する

Miiya
ファンタジー
「テイマーって面白そうだったから入れてたけど使えんから出ていって。」と言われ1ヶ月間いたパーティーを追放されてしまったトーマ=タグス。仕方なく田舎にある実家に戻りそこで農作業と副業をしてなんとか稼いでいた。そんな暮らしも半年が経った後、たまたま飼っていたスライムと小鳥が最強になりもう一度冒険をすることにした。そしてテイマーとして覚醒した彼と追放したパーティーが出会い彼の本当の実力を知ることになる。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

お姉さまは酷いずるいと言い続け、王子様に引き取られた自称・妹なんて知らない

あとさん♪
ファンタジー
わたくしが卒業する年に妹(自称)が学園に編入して来ました。 久しぶりの再会、と思いきや、行き成りわたくしに暴言をぶつけ、泣きながら走り去るという暴挙。 いつの間にかわたくしの名誉は地に落ちていたわ。 ずるいずるい、謝罪を要求する、姉妹格差がどーたらこーたら。 わたくし一人が我慢すればいいかと、思っていたら、今度は自称・婚約者が現れて婚約破棄宣言? もううんざり! 早く本当の立ち位置を理解させないと、あの子に騙される被害者は増える一方! そんな時、王子殿下が彼女を引き取りたいと言いだして──── ※この話は小説家になろうにも同時掲載しています。 ※設定は相変わらずゆるんゆるん。 ※シャティエル王国シリーズ4作目! ※過去の拙作 『相互理解は難しい(略)』の29年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の27年後、 『王女殿下のモラトリアム』の17年後の話になります。 上記と主人公が違います。未読でも話は分かるとは思いますが、知っているとなお面白いかと。 ※『俺の心を掴んだ姫は笑わない~見ていいのは俺だけだから!~』シリーズ5作目、オリヴァーくんが主役です! こちらもよろしくお願いします<(_ _)> ※ちょくちょく修正します。誤字撲滅! ※全9話

処理中です...