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三波新、放浪編
動揺、逆上、激情 その1
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「今日はフィールドで魔物が湧くっぽいな」
「行商、どうするの?」
どうするか。
迷宮の中なら、通路や廊下が曲がりくねった道なら壁をぶち壊して最短ルートを通って追いかけてくる魔物がいるとは考えにくい。
つまり逃げ切れる可能性は高い。
だがフィールドでは、迂回して逃げても最短距離で追いかけてくる魔物にはいずれ捕まる。
無理して行商できるかどうかなんて実験をしなくても……。
「冒険者達、最近マジで困ってるらしいのよね」
分かってるよ、そんなこと。
俺だって直に何度も聞いた。
魔物を使役する行商人達が、魔物が現れる場所の近くで商売をする。
そこを装備の付け替えや補給の拠点などにしていたって話。
魔物を使役することでお縄になるかもしれない噂はまだ消えない。
普通の行商人達はそんな場所に行ったら一たまりもない。
護衛を雇うにも、冒険者の不足は慢性的な問題になりつつあり、なかなか雇えない。
この異世界を第二の故郷……というにはちと大げさだが、そんな世界をそう称するつもりなら、多くの人達が抱えた問題に、少しくらいは前向きになった方がいい。
「となると……今回はテンちゃんと一緒に行ってみようか」
「え? あたし? なんで? ライムの方がよくない?」
「……テンちゃんがその姿で、夢の中と同じ声で喋るってのは違和感あるわね……」
俺もそう思うけどさ。
今はそんなことに構ってらんないだろうよ。
「魔物に襲われた時のことを考える。ぶっ倒すか逃げ切るかのどちらかを選ばなきゃならない」
「まぁ……そうよね」
「迷宮の中は逃げる手が有効だ。死角もあるし、追手が必ず減速する曲がり角もある」
「ライムは……ある意味自由にアラタの体を操作できるもんね」
言葉を選べよ、ヨウミ。
まぁ間違っちゃいないけどさ。
「そう。それに変化して武器になって、魔物を倒すこともできる」
「フィールドだって有効でしょ?」
「すぐに倒せりゃな」
戦闘は、確かに攻撃力が防御力を上回れば敵を制圧できる。
けど、戦いは数なんだよな。
ライムの能力を圧倒するほどの数がこられりゃ、ライムは生き延びることはできるだろうが、中の人がしんどい。
すなわち、俺だ。
「となると……逃げきる方がいいのね?」
「もちろん気配の数が少なければ、ライムと一緒でもいいだろうが」
「泉とか雪崩現象の近くになること多いもんね」
「そう。となると逃げきる方法だが、屋内と違って……」
「壁、そして天井がない。天井がないということは……飛べるってことね?」
もちろん飛んだり浮いたりする魔物もいるだろう。
だが行動範囲というものもある。
空にいる魔物は陸上の魔物よりも倒しづらい。
そんな魔物の方が、倒した後に見つけられるアイテムのレア度も高いんだそうだ。
それを狙う冒険者達もいる。
その人達に倒してもらえれば問題ない。
「でもテンちゃん、私達と出会った時は襲われてたわよね?」
「あの時は体力回復できてなかったのよ。少量で体力体調魔力が万全なんてのは、アラタが作るおにぎりくらいね」
と、本馬が申しております。
「それに、私の背中に乗ったら、落馬することはほとんどないから安心よ。自然に発動する魔力でそうなってるの」
「へー。でも飛べるのは物理的法則だよな?」
「もちろん。あ、こうして喋ることができるのは、私の知力も必要だけど魔力も使うのよ?」
そんな薀蓄は今はいらん。
「とりあえず、魔物が出るポイントを確定してから活動範囲外に荷車を置いて拠点とする。ここまではいつも通り」
ヨウミとテンちゃんは頷き、ライムは二人の首の動きに合わせて体を伸縮させている。
了解した、と見ていいんだよな?
「そこからある程度そのポイントに向けて接近するが、一定の距離から近づかないことにする。魔物が俺達を確認しても、テンちゃんが楽に逃げ切れて魔物は追いつかない距離ってことだ。その距離は、魔物の詳細が分かった時点で決めよう」
「分かった。それまでは慎重に距離を縮めればいいのよね?」
「あぁ。頼むぞ、テンちゃん」
ミーティングを済ませ、出発する。
身の隠し場所のない危険地帯に行こうとするのだから、流石に緊張は隠せない。
決めるも取りやめるも、俺達の意志次第。
緊張するくらいなら止めた方がいいに決まってる。
身の安全が第一だ。
が、冒険者達の要望に応えたらどうなるだろう? という好奇心にも似た気持ちもある。
それはきっと、俺の世界では体験できなかった『褒められる』ということを、死ぬまでに一回は体験してみたい、と心底……。
いや。
ないない。
褒められてうれしがるのは子供くらいなもんだ。
大人になったら、褒められるより報酬の方が大事だろ。
けど、おにぎり一個五百円はないな、ない。
……特別な報酬も期待できないんだ。
なら、やっぱり……。
「でも川沿いなのは変わらないのよね。こないだみたいに氾濫とかなきゃいいけど……。ないよね、この天気じゃ。ね? アラタ。……アラタ?」
「ん? 何か言ったか? ヨウミ」
「アラタ……何かいつもと違う?」
「ちょっと緊張してるのね。大丈夫だよ、アラタ。あたしが付き添うんだから」
テンちゃんにはバレてるのか。
まぁ緊張なら、大の大人だってするさ。
「えー? ガラじゃないなー」
ヨウミはデリカシーってもんはないのかっ。
って……。
「ポイント、見っけ。さてさて、拠点はどこにしますかね」
本日の大仕事が始まる。
「行商、どうするの?」
どうするか。
迷宮の中なら、通路や廊下が曲がりくねった道なら壁をぶち壊して最短ルートを通って追いかけてくる魔物がいるとは考えにくい。
つまり逃げ切れる可能性は高い。
だがフィールドでは、迂回して逃げても最短距離で追いかけてくる魔物にはいずれ捕まる。
無理して行商できるかどうかなんて実験をしなくても……。
「冒険者達、最近マジで困ってるらしいのよね」
分かってるよ、そんなこと。
俺だって直に何度も聞いた。
魔物を使役する行商人達が、魔物が現れる場所の近くで商売をする。
そこを装備の付け替えや補給の拠点などにしていたって話。
魔物を使役することでお縄になるかもしれない噂はまだ消えない。
普通の行商人達はそんな場所に行ったら一たまりもない。
護衛を雇うにも、冒険者の不足は慢性的な問題になりつつあり、なかなか雇えない。
この異世界を第二の故郷……というにはちと大げさだが、そんな世界をそう称するつもりなら、多くの人達が抱えた問題に、少しくらいは前向きになった方がいい。
「となると……今回はテンちゃんと一緒に行ってみようか」
「え? あたし? なんで? ライムの方がよくない?」
「……テンちゃんがその姿で、夢の中と同じ声で喋るってのは違和感あるわね……」
俺もそう思うけどさ。
今はそんなことに構ってらんないだろうよ。
「魔物に襲われた時のことを考える。ぶっ倒すか逃げ切るかのどちらかを選ばなきゃならない」
「まぁ……そうよね」
「迷宮の中は逃げる手が有効だ。死角もあるし、追手が必ず減速する曲がり角もある」
「ライムは……ある意味自由にアラタの体を操作できるもんね」
言葉を選べよ、ヨウミ。
まぁ間違っちゃいないけどさ。
「そう。それに変化して武器になって、魔物を倒すこともできる」
「フィールドだって有効でしょ?」
「すぐに倒せりゃな」
戦闘は、確かに攻撃力が防御力を上回れば敵を制圧できる。
けど、戦いは数なんだよな。
ライムの能力を圧倒するほどの数がこられりゃ、ライムは生き延びることはできるだろうが、中の人がしんどい。
すなわち、俺だ。
「となると……逃げきる方がいいのね?」
「もちろん気配の数が少なければ、ライムと一緒でもいいだろうが」
「泉とか雪崩現象の近くになること多いもんね」
「そう。となると逃げきる方法だが、屋内と違って……」
「壁、そして天井がない。天井がないということは……飛べるってことね?」
もちろん飛んだり浮いたりする魔物もいるだろう。
だが行動範囲というものもある。
空にいる魔物は陸上の魔物よりも倒しづらい。
そんな魔物の方が、倒した後に見つけられるアイテムのレア度も高いんだそうだ。
それを狙う冒険者達もいる。
その人達に倒してもらえれば問題ない。
「でもテンちゃん、私達と出会った時は襲われてたわよね?」
「あの時は体力回復できてなかったのよ。少量で体力体調魔力が万全なんてのは、アラタが作るおにぎりくらいね」
と、本馬が申しております。
「それに、私の背中に乗ったら、落馬することはほとんどないから安心よ。自然に発動する魔力でそうなってるの」
「へー。でも飛べるのは物理的法則だよな?」
「もちろん。あ、こうして喋ることができるのは、私の知力も必要だけど魔力も使うのよ?」
そんな薀蓄は今はいらん。
「とりあえず、魔物が出るポイントを確定してから活動範囲外に荷車を置いて拠点とする。ここまではいつも通り」
ヨウミとテンちゃんは頷き、ライムは二人の首の動きに合わせて体を伸縮させている。
了解した、と見ていいんだよな?
「そこからある程度そのポイントに向けて接近するが、一定の距離から近づかないことにする。魔物が俺達を確認しても、テンちゃんが楽に逃げ切れて魔物は追いつかない距離ってことだ。その距離は、魔物の詳細が分かった時点で決めよう」
「分かった。それまでは慎重に距離を縮めればいいのよね?」
「あぁ。頼むぞ、テンちゃん」
ミーティングを済ませ、出発する。
身の隠し場所のない危険地帯に行こうとするのだから、流石に緊張は隠せない。
決めるも取りやめるも、俺達の意志次第。
緊張するくらいなら止めた方がいいに決まってる。
身の安全が第一だ。
が、冒険者達の要望に応えたらどうなるだろう? という好奇心にも似た気持ちもある。
それはきっと、俺の世界では体験できなかった『褒められる』ということを、死ぬまでに一回は体験してみたい、と心底……。
いや。
ないない。
褒められてうれしがるのは子供くらいなもんだ。
大人になったら、褒められるより報酬の方が大事だろ。
けど、おにぎり一個五百円はないな、ない。
……特別な報酬も期待できないんだ。
なら、やっぱり……。
「でも川沿いなのは変わらないのよね。こないだみたいに氾濫とかなきゃいいけど……。ないよね、この天気じゃ。ね? アラタ。……アラタ?」
「ん? 何か言ったか? ヨウミ」
「アラタ……何かいつもと違う?」
「ちょっと緊張してるのね。大丈夫だよ、アラタ。あたしが付き添うんだから」
テンちゃんにはバレてるのか。
まぁ緊張なら、大の大人だってするさ。
「えー? ガラじゃないなー」
ヨウミはデリカシーってもんはないのかっ。
って……。
「ポイント、見っけ。さてさて、拠点はどこにしますかね」
本日の大仕事が始まる。
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