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三波新、放浪編

行商を専業にしたいんだが、どうしてこうなった ……ほんと、どうしてこうなった?

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 ダンジョンから出て久々の日光を浴びた。
 流れる空気も気持ちいい。
 エージは相変わらず精気が抜けたような顔をしている。
 一体どうしたというのか。
 とりあえずここまで来たらあとは荷車に合流するのみ。
 そして俺の企みは成功していた。
 その企みとは……。

「あ、アラタ、それとエージ君、だっけ? 大丈夫だった?」

 ヨウミが静かな声で呼びかける。
 先に戻った三人は、忠実に俺の伝言をテンちゃんに伝えたようだ。
 テンちゃんは横に寝そべり、いつものように自分の腹を枕にし、三人を寝かしつけていた。

「こ……これ……どういうこと?」

 エージが戸惑うのも無理はない。
 というか、このことを説明するのを忘れていた。

「あんまり慌ててたから先に戻らせて、こいつに寝かしつけるように伝言しといたんだよ」
「三人の慌てぶりがただ事じゃなかったからね。テンちゃんいい仕事してくれたわ」
「え……えっと……」
「ま、崩落事故が起きた時点で一番落ち着いてたのはお前だってことだよ。テンちゃん、三人起こしていいぞ」

 顔を腹に向け、一人ずつ顔を舐めていく。

「う……むぅん……ん?」
「うぅ……あ……あれ?」
「んぁ……ん……んん?」

 目をこすりながら三人は上体を起こした。

「み……みんな、大丈夫?」
「あ……エージ!」
「エージ! 心配したんだぞ!」
「エージぃーっ!」

 感動の再会を無事に済ませることができた。
 まぁ事故が起きた時点で、正直なんとかなるとは思ってたが……。
 この気持ちはこいつらには伝えられないな。

「そ、そうだっ。俺、アラタさん、旗手様だと思うんだよ!」

 再会して第一声がそれかよ。

「いい加減に……」
「地下二階から上がってくるまで、一体も魔物と出会うことがなかったんだぜ?」
「それは、気配を」
「普通じゃないですよ! みんな、どんなルートになってるか覚えてるか?」

 噴き出した興奮はそう簡単に抑えられそうにもないし、すぐに収まりそうにない。
 普段と違うリーダーに驚いているのか、三人は何も言い出せず、エージの話をただ聞く一方だ。

「ちょ、ちょっと落ち着こうか、ね? エージ君。一体どういうこと? アラタはずっと前から魔物や人の気配とか感じ取れる人なんだよね。その気配から、どんな魔物か、どんな人かも判断することができたんだけど……」
「どんな魔物かって?」
「私達に敵意があるのか害意はあるのか、こっちに親しい思いを持ってるかどうか、とか、そんな感じ」
「……普通じゃないですよ、それ」
「冒険者達の中にも、そんな力を持つ人達いるでしょ?」
「……魔術を使えばね。魔術や魔力なしにそんなことが分かる人っていませんよ」
「……アラタぁ……。この子、頑固」

 お前は何で口出ししてきたんだよっ!
 しかも他の三人も興奮して来てるみたいだし。
 ミーハーかよ!

「俺も旗手のことは何度か見たけど、何と言うか……特有の武器とか防具とか手にしてたんだよな。俺は全くなかったし、そばにそんなもんなかったしな」

 四人は顔を見合わせた。

「……じゃないの?」
「俺もそう思う」
「それ以外当てはまらないよな」
「うん。大体特別なことがなきゃあんなこと……」

 イライラしてきた。
 言いたいことがありゃはっきり言えよ。

「……冒険者養成校で習うことなんですが」
「何がよ」
「旗手様って、どんな種類の方がいらっしゃるかご存じですか?」
「知るかよ。俺は一般人でたんに巻き込まれただけっつーことで、神殿から追い出されたんだよ。詳しい話なんか聞くわけないだろ。この世界のことを聞くのが精一杯だったよ!」

「……旗手様は大司祭様の召喚魔法により、召喚されるんです。でも一度につき半数。旗手様の種類は十四人いると聞いてます」

 随分多いなおい。
 特撮ヒーローでも一度にそんなにたくさん出てくるのは滅多にないぞ?

「えっと、大剣、双剣、投擲、打棒の攻撃の四種でしょ? それと……」
「守りは、守護、守備、治癒の三種だね」
「ほかには魔術系よね、魔術、補助、伝達、創製、改修の五種で十二種。あとはその他だけど……」
「うん。策術と……予見。卒業テストにも出てたよな」

 四人から見つめられる。
 が、だからと言って、どうしろというのだ。

「予見の旗手様なんじゃないですか? アラタさん」
「知らねぇよ。全然聞かされてないし噂話ですら耳に入ってこねぇよ。大体大司祭も国王も、この世界に来たその日に見たよ。凡人だって陰口言われてそれっきりだよ。もしそうだとしても、お前らが俺に何かできるわけじゃねぇよな?」

 なにしょげてんだか。
 勝手に盛り上がって勝手に落ち込んだその姿。
 洞窟の中に入った時の様子とは偉い違いだな、おい。
 やっぱりまだ子供、まだ新人か。

「……噂では聞いていたんです。いつもは七人召喚されるのに、六人だって。教官達も首をかしげてた」
「だからどうした。そんなのは酒場で酔っ払ってグダってる連中が言うことだろ? 結論も出ない。そんなことを言う連中が解決に向けて行動を起こすでもない。ただの愚痴の類じゃねぇか」
「で……でも……」
「俺は二度もお尋ね者になった経験がある。しかもその手配書の発行責任者はその二人。そんな妄想を言うのはもう止めろ」

 テンちゃんが四人に鼻面をこすりつける。
 慰めてるつもりなんだろうな。
 俺だって好きで空気を重くしてるわけじゃない。
 ごめんなさいとか出過ぎた真似をとか言えばそれで済む話だ。
 そんな機転も利かせられず、この重苦しい雰囲気を打ち消すには、なかなかいい仕事をしてくれる。

「……ほらほら。今回の依頼はこれでお終いだ。とっとと宿屋にでも行ってきたらどうだ?」

 と言っても、この件で彼らの収入はなかったな。
 こいつらの腰が重いなら……。

「あ、あの……」
「……ちょっと待ってろ」

 金は出せないが、これくらいなら朝飯前だ。
 もう夕方だが。

「……ライム特製の水と人気の筋子とシャケのおにぎりセットだ。宿に泊まる金がなきゃ食うもんにも困るだろ。これくらいあれば明日までは持つだろ? 持っていきな」
「あ、ありがとうございますっ!」
「おう。ただし次回からは金を払ってもらうからな。初めての買い物になるだろうからサービスして、一人二倍いてっ!」
「アラタ……その冗談はもう十分使い古されてるから」

 ヨウミからはたかれた。
 最近宿に泊まれないからって、うっ憤を晴らしてるんじゃないだろうな?

「……あの、じゃあこのことはアラタさんとは直接関係ないかもしれませんが……」
「ん?」
「国王にはよくない噂があって……」
「その噂なら聞いたぞ? 王妃と皇太子が国王に成り代わって国政を仕切ってるとか。改善されてるとか何とかって話も聞いたかな?」

 四人はやや安心したような顔をした。
 何か心の中に引っかかってるものがあったんだろうな。

「旗手様じゃないかもしれませんが、旗手様と似た能力を持ってる、という見方もできますから……」
「すると、また手配書が出るかもな。偽物だって。言っとくが一般人で、旗手になろうとか旗手だとか名乗る気は一切ないからな? そんな噂聞こえてきたら否定してくれよ?」

「は、はいっ」
「今日はありがとうございました」

 四人は口々に礼を言って去っていった。
 何と言うか……今日はいろんな意味で騒がしかった日だったな。
 ところで……。

 俺がダンジョンの中に入っていった目的、何だったかなぁ……。
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