上 下
44 / 493
三波新、放浪編

行商を専業にしたいんだが、どうしてこうなった その2

しおりを挟む
「テンちゃんとライムがさ、夢の中に出てきて、会話するようになったのよー。まるで夢みたいよね」

 すまん。
 日本語で頼む。
 って言うか、かなり前からだろ? それ。
 まぁ意思確認できるだけでも、仕事の上ではかなり楽だな。
 恐る恐るご機嫌伺い、なんて無駄な気遣いをせずに済む。
 もっともそんな奴が傍にいたら、とっとと放り出すかそいつから逃げるかどちらかだが。

「誰かの為に、俺がテンちゃんにその誰かに付き従うっていうような指示は出したくないんだよな。その誰かが、自分の為にテンちゃんが動いてくれる、って勘違いする奴が必ず出てくるからさ」

 俺が会社で働いていた頃は、そんなことはよくあった。
 もっともあの時は勘違いじゃなくてそんな指示だった。
 この案件は俺に託された。
 だから俺の独断で仕事を進めて会社に利益をもたらしたのだが、誰がその功績をお前の物にしろと言った、と怒鳴られた。
 功績は俺に仕事を託した上司のものにしたかったらしい。
 筋道の正誤はともかく、託す側と託される側の間に意思の齟齬があるのは、俺の世界にもこの世界にも同じように存在するらしい。
 思い込みの押し付けもそうだったな。

 まぁこの世界に来た初日からそうだったし、異世界は俺がいた世界と比べて素晴らしい世界と言う気はない。
 ただ、誰それのおかげという押し付けがない点が、自分の世界にいた頃の俺にとって理想の世界とは言える。

「朝っぱらからボーっとしないのっ。で、どうするの?」
「冒険者が魔物と戦うそばで店を開くってのは気が引けるが、最近は要望じゃなくて切望めいた感じになってるしな。行商の人達も、あの一件以前と同じ業務をしてるとは思えないし」

 俺が冒険者相手に店を開いている場所にやって来る他の行商達は、その数も少なくなってる話を聞くし、俺の滞在期間が長いままということから、そんなことは容易に想像できる。
 更なる儲けを狙って危ない橋を渡る行商人の数も減ってるらしい。
 そんな同業者のほとんどは魔物を使役してるからな。
 そこんとこが摘発される理由になるかも、という噂も流れている。
 実際そんな動きはないが、妄想ってのは膨らみやすいし万が一への備えの対策も怠らない商人達は、そんな商売のやり方からは手を引いているってことだ。

 ずっと商売のやり方を変えていない俺に縋る客も増えるのも道理なんだよな。

「まぁ、やってみるさ。とりあえず、魔物の行動範囲に少し触れる辺りをうろついてみる。俺に何かがあったらお前らにとっても打撃だろ?」

 ヨウミはいろんな料理を作ることができる。
 が、なぜかおにぎり作りは下手なんだよな。
 そんなことないよ、と憤慨していたが、実際うまく作れないでいるのは本人も不思議に思っているようだ。

 ※

 魔物がいる場所は大きく分けて二種類。
 単純に、屋内と屋外。
 前者はダンジョンというやつで、これは更に二種類に分けられる。
 人工物か自然物か。
 人工物の場合は、迷路めいた物か住居目的の物かの二つに分かれる。
 自然物の場合は、俺達が夜を過ごす、岩壁の窪みの状態か、それともさらに深い洞窟か迷路かの三種類に分けられる。
 どのみち死角が多いそれらの中で、体力がない俺でも魔物から逃げきれる自信はある。
 問題は屋外。
 森林、草原、水辺など、天気や自然現象の影響を受けやすい場所だが、自分の身を隠す場所がないので、魔物に感知されたら逃げ切る自信はない。
 奴らの行動範囲外にいるくらいしか防衛手段がない。
 そこでライムの出番というわけだ。
 以前試したように、ライムに全身を覆ってもらい、防御力を完璧にする。
 後に夢の中で教わることになるのだが、切断、圧迫などの物理攻撃を完璧に無効にするだけでなく、毒や麻痺、催眠、幻覚なども無効あるいは無効に近い耐久力があるんだそうだ。
 おまけに手足の先や関節の突起の部分を刃物のような形状に変えることもできる。
 武器を持った時、手放す可能性が高い。
 格闘技とかの経験は全くないからな。
 攻防一体型の鎧になってくれるライムは、実に心強い。

 無敵だと思うだろ?
 ところが残念なことに、致命的な欠点が一つある。

「お疲れ。どうだった?」

 魔物が出そうなフィールドに足を運んでみた。
 一、二体ほど倒して安全地帯に戻ってきたのだが、ヨウミに返事ができない。

「……水、飲む? 少し横になったら? テンちゃん、枕になったげて」

 息切れ、疲労困憊。
 理由は一つ。
 ライムに無理やり体を動かされていた。それだけ。
 ライムにしちゃ、俺の命さえ守れればそれでいいわけだから、こいつの働きぶりは非の打ち所はない。
 けど、体力の限界近くまで体を動かす、いや、動かされてたわけだから……。

「ライムーっ! 少し休ませろーっ! お願いっ! 止まってっ! 俺の足、止めてくださいっ! お願いしますーーーっ!」

 倒せない魔物が現れた、と判断したライムは、全身鎧状態の自分の体を高速で変化させた。
 もちろん俺の体を守りながら。
 その変化は、全力疾走する人型。
 それに付き合わされる俺。

 まさかの計算外だった。
 もちろんこれは、ライムには何ら悪いところはない。
 単なる俺の運動不足。
 ようやくライムが泊まったその場所は、魔物の行動範囲外で俺達の拠点となる荷車のそば。

「……運動不足、よね」

 荷車を引くだけじゃ、体力増強を目的とした運動にはなり得なかったってことが分かった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

見よう見まねで生産チート

立風人(りふと)
ファンタジー
(※サムネの武器が登場します) ある日、死神のミスにより死んでしまった青年。 神からのお詫びと救済を兼ねて剣と魔法の世界へ行けることに。 もの作りが好きな彼は生産チートをもらい異世界へ 楽しくも忙しく過ごす冒険者 兼 職人 兼 〇〇な主人公とその愉快な仲間たちのお話。 ※基本的に主人公視点で進んでいきます。 ※趣味作品ですので不定期投稿となります。 コメント、評価、誤字報告の方をよろしくお願いします。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!

マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です 病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。 ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。 「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」 異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。 「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」 ―――異世界と健康への不安が募りつつ 憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか? 魔法に魔物、お貴族様。 夢と現実の狭間のような日々の中で、 転生者サラが自身の夢を叶えるために 新ニコルとして我が道をつきすすむ! 『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』 ※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。 ※非現実色強めな内容です。 ※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

処理中です...