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三波新、放浪編

行商を専業にしたいんだが、どうしてこうなった その1

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 可愛い魔物を自分が飼っている魔物のエサにする。
 そんな噂が流れてるんだそうだ。
 けしからん!
 どこの店主だ!
 そう息巻く者もいるんだと。

 行商を始めて一年の間、客である冒険者は多分みんな初顔。
 彼らに言わせりゃ神出鬼没。
 荷車を引いて商売をする者ってのは、人が多く行き交う通りにいると感じたら、すぐその場で商売を始める。
 だから行商人達は、人が多くいる場所に固まるんだよな。
 ところが俺の場合は冒険者を相手にする商売で、しかもこれからそんな彼らが集まりそうな場所から、さらに微妙に離れたところで店を開く。
 だから、俺の店を探そうとしても大概見つけられない。

 だから、俺に文句を言いたいそんな連中ならなおさらだ。
 客の対象になってないそんな彼らが、客としている冒険者すらすぐには常連になれなかった店を見つけられるはずもなく。
 だから、そんな極悪非道な店は、社会正義の炎を燃やしたい奴の出まかせなんじゃないか、なんて言う噂まで流れる始末。

 そんな噂を尻目に、俺達は俺達で、いつも通りの商売を続ける。
 だからと言って、平穏な日々が続いているかというとそうでもない。

「なぁ、アラタ。お前んとこ、魔物二体いるよな」
「あぁ。いるが?」
「……貸してく……」
「断る」

 魔物商、なる職業もあるらしい。
 魔物を使役したきゃそっちに頼むべきだろう。
 俺はただのおにぎり売りだ。
 ……飲み物はライムがろ過してくれるから、ただの、でもないんだろうが。

「……あのさ、新人冒険者チームの面倒見てるんだけどさ」

 愚痴か?
 まぁ言うだけならタダだ。

「人手が足りんのよ。俺達ベテランの手にも負えん」

 依頼がない時は、新人冒険者達が引き受けた仕事の手伝いをして彼らの安全性を高め、そして若手の仕事の成功率を上げてやり、いろんな経験を積ませる役目を受け持つ。
 だがその指導役に慣れる冒険者達がかなり減り、新人の数の割合がかなり増えた。
 残った経験者達は、指導のほかに自分の仕事もしなければならないわけだから、負担が増える。
 前々から耳にしていた不満だが、とうとう猫の手ならぬ魔物の手を借りなきゃならない事態になってるわけだ。
 だが、こいつらにも選ぶ権利はあるし、奴隷や道具じゃない。
 道具になってくれることもあるが、それはこいつらが進んでその役目をしようとしてくれてるからだ。
 そして、こいつらは人にはできないことをやってのける力がある。
 こいつらがその力を使う時、これでも俺は感謝と敬意を持っている。
 俺の為にその力を使うのは当たり前、ではない。
 だからこそ、冒険者達が困ってるときに力を貸すのは当たり前と思ってもらっても困るし、それが当然だとも思ってほしくない。

「じゃあアラタが手伝ったら?」
「は?」

 ヨウミが突拍子もないことを言う。

「素人の俺がどうしてそんな真似ができるんだよ」
「だって、前にそんなこと言ってたでしょ? ダンジョンの中で行商できるかなって」

 言われてみれば。
 ライムに俺の体を包んでもらって、防御を完璧にすればダンジョンの中でも冒険者に食料を提供できるんじゃないか、とも考えた。
 もちろんそれは、客からの要望が先にあったわけだが。

 だが俺とライムがいない間、ヨウミと荷車をどうするか、というのが問題になった。
 魔物に襲われたら、誰も助けてくれる者はいない。
 けれども今は、その警護役を任せられるテンちゃんがいる。
 目立つ能力は飛行。
 けどそれ以外にも、たとえば蹴りの強さはその足の太さを見れば想像したくない。
 俺の胴回りと同じくらい。それが六本もある。
 人をくわえて自分の背に乗せられるほど体の柔軟性も高い。
 ヨウミと荷車の守りは任せられるんだが……。

「うおっ」

 テンちゃんが鼻をこすりつけてきた。
 それはいいんだが、お前は荷車の中に入らないからな?
 下手すりゃ壊しかねん。

「ひょっとして、任せろって言ってんじゃない?」
「仕草を自分の都合よく解釈すんな」
「でも頷いてるよ?」
「え?」

 首を何度も上げ下げをしている。
 周りの冒険者達も、その動作を見て驚いている。

「へえ……賢いもんじゃないか……。本人もこうして頷いてるんだから、こいつを……」
「断る」
「即答ね。でもあたしもお断りするかな。だってテンちゃんが頷いたのは、私と荷車を守るって言う話にだったからね」
「あ、あぁ……そう、だな」

 そいつは自分の要望を引っ込めた。
 だが条件が合っても俺はその要望は飲むつもりはない。
 当然だ。

「それだけじゃない。今あんた、『賢いもんじゃねぇか』って言ったな? 対等に意思疎通できる相手を格下のように見るような言い方をする奴と関わらせたくないんでな」

 別にそいつを拒絶するような感情はなかったが、気まずそうに口ごもりながら「そ、そうか」と言ったきり何も言わなくなった。
 だがテンちゃんも、そしてライムもその気はあるらしい。
 改めてミーティングは必要になるかもしれん。
 が、夢の中でこいつらと会話するのも、意外と疲れるんだよな……。
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