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三波新、放浪編
閑話休題:日本大王国のとある酒場のとある冒険者達の会話
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日本大王国のとある都市の中のとある酒場の中にて。
「ところでお前ら、ユージ・カスタッツって奴知ってるか?」
冒険者チームのメンバーで酒を楽しむ者達もいれば、この場で知り合って気の合った者同士でカウンター席からテーブル席に移動する者達もいる。
このテーブルは後者の、いい具合に酒を楽しんでいる、男五人女一人の六人グループだ。
「おぉ、苗字の方珍しいかから有名だよな」
「バカヤロ。名前だけじゃなく実力派の中でも指折りの冒険者だろうが」
「チームリーダーとしても優秀だって話よね? ハチの巣って名前だったっけ?」
「あぁ、常に六人で編成されてたチームだろ?」
「一人一人が一騎当千、みたいなチームらしいね。腕に覚えがあっても、そいつらには敵わないわよね」
冒険者チームは、そのメンバーの入れ替えがほとんどないチームに限り、ランキングがいろんな部門で公表される。
そのランキングは、下位になればなるほど変動は激しい。
逆に上位になるとその変動はほとんど見られない。
討伐数や依頼成功率など、様々な部門で一位か二位の位置をキープし続けるそのチームは、全冒険者の九割ほどから順位の目標や憧れにされ、話題もしょっちゅうあがる。
言い出しっぺが一口酒を飲んで、その先を続けた。
「じゃああいつら、全滅したって知ってるか?」
「嘘だろ?!」
「下らねぇ冗談だな」
「はい?」
「おい、頭大丈夫か?」
「あり得ないわよ、そんなの」
一瞬の間をおいて、他の五人の口から出た言葉は、彼への疑いだった。
「……ニーゴーの森の奥のダンジョンは知ってるか?」
「もちろん。冒険者の初級者から上級まで幅広いレベルで活動できるダンジョンよね?」
「……あいつらもそこに行ったが、そのダンジョンの奥で魔物の泉に出くわしたんだと」
「「「「「!!」」」」」
五人が息をのむ。
泉の現象が起きた噂は聞いていた。
その現象は、いつ、どこで起きるか分からない。
目の前でその現象が起きたなら、運が悪いとしか言いようがない。
いくら腕利きでもおびただしい魔物の数に圧倒されたら一たまりもない。
交代しながら応戦して、その場から離脱できれば生存可能だが、その先が袋小路だったり離脱の速度が遅ければアウト。
「連中がその奥に向かったって言う同業者の数も多くて、その彼らの悲鳴も聞いた奴も多いらしい」
「そ……それで、どうなったの?」
「どうもこうも。悲鳴を聞いた奴らに何ができる? ランク一位独占したこともある奴らを、どうやって助けるってんだ?」
冒険者の誰もが、彼らに比べれば腕は落ちる。
そんな冒険者達が悲鳴を上げるほどの現場で、悲鳴を聞いた彼らは何ができるというのか。
「……じゃあそのニーゴーの森のダンジョンは……」
「行けてもせいぜい入り口までだな。森の中は魔物狩り放題とは聞いたが」
魔物が一度に大勢湧く。
それが落ち着けば、強力な魔物が何体か発生する。
それらを倒せるのは、特別な加護が付随している装備を持つ旗手たちのみだ。
「……あいつが作るおにぎりを持ってたら、状況は変わってたかもな」
「あいつ? どいつだよ」
「あ、ひょっとして、荷車で行商してる人? 名前、なんてったっけかなぁ。一回買ったことありますよ」
「何それ?」
「ミナミ・アラタっつったっけ?」
「ひょっとして、プリズムスライムに懐かれてる人?」
「あぁ、そいつのことだよ。お前は知ってたのか」
「嘘だろ?! レアモンじゃん!」
「うっそぉ! 見てみたい! 今どこにいるの?!」
「俺が知るかよ! ……俺は店先でプニプニ動いてるのを見たぞ」
「でもモンスターに懐かれること自体珍しいですよね。どんな経緯があったんでしょうね」
「さぁなぁ」
ライムの話題で盛り上がるが、それも一瞬。
「……旗手の方々は何やってんだよ」
「国王様からの厚遇を楽しんでる真っ最中じゃねぇの?」
彼らの口から出る、選ばれし者への敬称にはもちろん皮肉が込められている。
旗手は異世界からやって来た者達であることは周知の事実。
ならば、よそ者が身内を見殺しにしたと言えなくはないのだが。
「休む間もないらしいぜ? どこに現われるか分からないらしいから、いつも後手に回ってるらしい。どこに減少が現れるか予想できりゃ、そんな被害はゼロで済むはずなんだがな」
「……やることを全力でやってるなら非難できないわね。休む間もないなら、逆に旗手達にはお気の毒としか言えないわね」
「召喚の術使ってこれだろ? なんだかなぁ」
泉に現われた魔物達は全滅させているようだが、その結果こちらにも犠牲が出るとあっては、感謝の気持ちはあれども言葉に出せるものではない。
その犠牲者とは面識がなくても、惜しむ気持ちは強くなる。
誰かのせいにしたい気持ちも生まれるが、それで現実が変わるわけではない。
が、しかし。
「……旗手の召喚術って……どんなんだ?」
一人がぽつりとこぼす。
それには、そんなもしもの話をする気持ちはなく。
「いや、ほら、今まで何度か召喚術をしたって話は聞くけどさ、その実態ってほとんど知らねぇし」
「慈勇教の大司祭がするんだろ?」
「それしか知らねぇじゃねぇか」
「一度に召還できる人数は七人って聞いたな」
「ってことは、旗手の種類はもっといるってこと?」
「剣とか魔術とか……体術の旗手ってのも聞いたことがある」
「でも今回は六人って聞いたな。七人じゃないとダメなんじゃなかったか?」
「そのせいかもな。いつもは一年もいれば泉の現象は収まってたじゃん。それが今回は一年オーバーしそうって話」
「それでこっちの冒険者が犠牲になってるの? もう一人はどうしたのさ?」
「俺に聞くなよ」
周りが騒いでいる中、このテーブルだけが空気を重くしている。
噂話と確たるもののない情報が行き交うこの話は、なかなか明るい話題に切り替えられない。
しかし時間は誰にでも平等に、同じ速さで過ぎていく。
他のテーブルと同様、そして他の酒場同様、夜はこの日も更けていく。
「ところでお前ら、ユージ・カスタッツって奴知ってるか?」
冒険者チームのメンバーで酒を楽しむ者達もいれば、この場で知り合って気の合った者同士でカウンター席からテーブル席に移動する者達もいる。
このテーブルは後者の、いい具合に酒を楽しんでいる、男五人女一人の六人グループだ。
「おぉ、苗字の方珍しいかから有名だよな」
「バカヤロ。名前だけじゃなく実力派の中でも指折りの冒険者だろうが」
「チームリーダーとしても優秀だって話よね? ハチの巣って名前だったっけ?」
「あぁ、常に六人で編成されてたチームだろ?」
「一人一人が一騎当千、みたいなチームらしいね。腕に覚えがあっても、そいつらには敵わないわよね」
冒険者チームは、そのメンバーの入れ替えがほとんどないチームに限り、ランキングがいろんな部門で公表される。
そのランキングは、下位になればなるほど変動は激しい。
逆に上位になるとその変動はほとんど見られない。
討伐数や依頼成功率など、様々な部門で一位か二位の位置をキープし続けるそのチームは、全冒険者の九割ほどから順位の目標や憧れにされ、話題もしょっちゅうあがる。
言い出しっぺが一口酒を飲んで、その先を続けた。
「じゃああいつら、全滅したって知ってるか?」
「嘘だろ?!」
「下らねぇ冗談だな」
「はい?」
「おい、頭大丈夫か?」
「あり得ないわよ、そんなの」
一瞬の間をおいて、他の五人の口から出た言葉は、彼への疑いだった。
「……ニーゴーの森の奥のダンジョンは知ってるか?」
「もちろん。冒険者の初級者から上級まで幅広いレベルで活動できるダンジョンよね?」
「……あいつらもそこに行ったが、そのダンジョンの奥で魔物の泉に出くわしたんだと」
「「「「「!!」」」」」
五人が息をのむ。
泉の現象が起きた噂は聞いていた。
その現象は、いつ、どこで起きるか分からない。
目の前でその現象が起きたなら、運が悪いとしか言いようがない。
いくら腕利きでもおびただしい魔物の数に圧倒されたら一たまりもない。
交代しながら応戦して、その場から離脱できれば生存可能だが、その先が袋小路だったり離脱の速度が遅ければアウト。
「連中がその奥に向かったって言う同業者の数も多くて、その彼らの悲鳴も聞いた奴も多いらしい」
「そ……それで、どうなったの?」
「どうもこうも。悲鳴を聞いた奴らに何ができる? ランク一位独占したこともある奴らを、どうやって助けるってんだ?」
冒険者の誰もが、彼らに比べれば腕は落ちる。
そんな冒険者達が悲鳴を上げるほどの現場で、悲鳴を聞いた彼らは何ができるというのか。
「……じゃあそのニーゴーの森のダンジョンは……」
「行けてもせいぜい入り口までだな。森の中は魔物狩り放題とは聞いたが」
魔物が一度に大勢湧く。
それが落ち着けば、強力な魔物が何体か発生する。
それらを倒せるのは、特別な加護が付随している装備を持つ旗手たちのみだ。
「……あいつが作るおにぎりを持ってたら、状況は変わってたかもな」
「あいつ? どいつだよ」
「あ、ひょっとして、荷車で行商してる人? 名前、なんてったっけかなぁ。一回買ったことありますよ」
「何それ?」
「ミナミ・アラタっつったっけ?」
「ひょっとして、プリズムスライムに懐かれてる人?」
「あぁ、そいつのことだよ。お前は知ってたのか」
「嘘だろ?! レアモンじゃん!」
「うっそぉ! 見てみたい! 今どこにいるの?!」
「俺が知るかよ! ……俺は店先でプニプニ動いてるのを見たぞ」
「でもモンスターに懐かれること自体珍しいですよね。どんな経緯があったんでしょうね」
「さぁなぁ」
ライムの話題で盛り上がるが、それも一瞬。
「……旗手の方々は何やってんだよ」
「国王様からの厚遇を楽しんでる真っ最中じゃねぇの?」
彼らの口から出る、選ばれし者への敬称にはもちろん皮肉が込められている。
旗手は異世界からやって来た者達であることは周知の事実。
ならば、よそ者が身内を見殺しにしたと言えなくはないのだが。
「休む間もないらしいぜ? どこに現われるか分からないらしいから、いつも後手に回ってるらしい。どこに減少が現れるか予想できりゃ、そんな被害はゼロで済むはずなんだがな」
「……やることを全力でやってるなら非難できないわね。休む間もないなら、逆に旗手達にはお気の毒としか言えないわね」
「召喚の術使ってこれだろ? なんだかなぁ」
泉に現われた魔物達は全滅させているようだが、その結果こちらにも犠牲が出るとあっては、感謝の気持ちはあれども言葉に出せるものではない。
その犠牲者とは面識がなくても、惜しむ気持ちは強くなる。
誰かのせいにしたい気持ちも生まれるが、それで現実が変わるわけではない。
が、しかし。
「……旗手の召喚術って……どんなんだ?」
一人がぽつりとこぼす。
それには、そんなもしもの話をする気持ちはなく。
「いや、ほら、今まで何度か召喚術をしたって話は聞くけどさ、その実態ってほとんど知らねぇし」
「慈勇教の大司祭がするんだろ?」
「それしか知らねぇじゃねぇか」
「一度に召還できる人数は七人って聞いたな」
「ってことは、旗手の種類はもっといるってこと?」
「剣とか魔術とか……体術の旗手ってのも聞いたことがある」
「でも今回は六人って聞いたな。七人じゃないとダメなんじゃなかったか?」
「そのせいかもな。いつもは一年もいれば泉の現象は収まってたじゃん。それが今回は一年オーバーしそうって話」
「それでこっちの冒険者が犠牲になってるの? もう一人はどうしたのさ?」
「俺に聞くなよ」
周りが騒いでいる中、このテーブルだけが空気を重くしている。
噂話と確たるもののない情報が行き交うこの話は、なかなか明るい話題に切り替えられない。
しかし時間は誰にでも平等に、同じ速さで過ぎていく。
他のテーブルと同様、そして他の酒場同様、夜はこの日も更けていく。
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