上 下
13 / 493
三波新、放浪編

昔語りはまだ続く 異世界で出会った人とは、何か会話が噛み合わなかった

しおりを挟む
 得体のしれない魔物。
 石造りの部屋に迷路、そして建築物。
 死体。
 そして大剣を持った剣士。

 このキーワードで何を連想する?
 俺の脳内では、取り巻く環境がホラー映画からファンタジーものの映画かゲームに変わってしまった。
 命の危険がすぐそばにあることには変わりはない。
 けれども、安全な場所があることが分かっただけでも、気持ちにかなりの余裕が生まれる。

「あ、あぁ。お、俺は三波新。ミナミでもアラタでも、好きなように呼んでくれ。き、君は?」
「おれはカマロ・健司。大学の授業が終わってさ、図書館で勉強してたんだがうとうとしちまってな。気付いたら薄暗い部屋の中にいた」

 俺と同じだ。
 っていうか大学生?
 まぁ見た目で俺より年下ってのは分かったけど……いや、ちょっと待て。

「大学生? 大学ってあったか?」
「は? いや、数えきれないくらいあるだろ。って、自己紹介よりも、まずこっから離れる方が先だ。あんたは何か武器持ってるのか?」

 武器?
 何の話だ?

「いや……手ぶらだが……」
「そっちにはなかったのか? 俺んとこにはテーブルに、こいつを使って、知恵と勇気で地上に行けとか何とかって文が刻まれててな」

 そう言えばそんな文章があった。
 けれど、テーブルの上には何もなかった。
 俺が寝てる間に何者かが侵入してきて持っていった?
 ってことは、地下の迷宮は一つに続いている?

「ゲームとかでよく見かけるゴブリンみたいな、そんな連中をこいつでバッタバッタと薙ぎ払い」

 なんか気持ちよく語り始めたぞ?
 っていうか、ゴブリン?
 俺もゲームは好きだが、あんなもん、想像の中の世界……とは言い切れないか。
 そんな物とは出会っちゃいないが、出てきてもおかしくはない雰囲気だった。

「調子こいてたら、ここに出てくることを忘れちまっててな」

 こいつがゲームの中に登場したら、間違いなく狂戦士になるだろうな。。
 よく見たら、来ている服に変な模様がついてると思ったら、その返り血とかなんじゃないか?

「けどここ、どこなんだろうな。アラステイト……じゃないよな」

 はい?

「……何それ」
「は? 日本の首都知らないの? アラステイト」
「……何を言ってる? 東京都だろ」
「はい? ……荒れるって字にさんずいに州、ミカドって字に都で荒洲帝都。日本帝国の首都だよ」
「待て待て。日本民国だろ。何だよ帝都って」
「いや待て。民国って何だよ。トウキョウ……いや、だからここで言い争いをしてる場合じゃない。えーと……とりあえずあそこに行ってみようか」

 奇妙なことを言い出した。
 が、会話は成立している以上意思疎通は可能だ。
 それに、こいつが指差した神殿っぽいところには人の気配がある。
 かなり多い。

「けど迂闊に動くと、地下にいる変な連中に気付かれるかもしれんが」
「あ、アラタは手ぶらだったっけ。心配するな。言い争いをするのは地名だけのようだから、それ以外は守ってやるぜ」
「あー、あと細かいことなんだが」
「ん?」
「おれ、二十七で社会人……職場首になったけどな。一応年上だから……」
「お、おぉ……、悪ィ……。目上の人との会話慣れてねぇんだ。なるべく気を付けるわ、アラタ、さん」

 目上の人と会話する機会がないのか?
 ま、まぁそんなやつもいるだろうな。
 それより、天からの救いだ。
 とりあえず神殿までは安全をキープできた。

 ──────

「カマロ・ケンジ……あぁ、旗手の人ね。そう言えばあの時も大きな剣持ってたよね。大剣の旗手だったのか。ただの武器かと思ってた」

 話の途中でヨウミが割り込む。
 思い当たる節が出てくれば、話のすり合わせも必要だろうしな。

「何それ」
「え? 知らないの? 他にも双剣の旗手とか鎧の旗手とか、旗手の人達が持つ特有の装備品とかでそう呼ばれるんだよ」

 旗手って呼び方は聞かされてた。
 だが何とかの旗手って呼ばれ方をするのは初めて聞いた。

「あれ? でも、と言うことは……アラタも旗手なわけ?」
「俺は凡愚な一般人。そう呼ばれたって何度も説明しなかったっけ?」
「え? あれって説明だったの?!」
「何だと思ったんだよ」
「ただの自虐だと思ってた」

 ……それでもいいけどさ。
 何の取り柄もなかったしな。

「あ、いや、ごめんごめん。その、悪口とかじゃないよ? でもおかしいよ。異世界から召喚された人はみんな旗手になる資格があるって言ってたよ? あ、でも最初は勇者って呼んでたけど、魔物に立ち向かう勇気がない人もいたって言ってたから、本質は変わらないのかな?」

 それだと俺がまるで勇気のない人……。
 いや、まぁそっちの方が当たってるか。
 ビビリだったしな。

「あれ? でもそうなると、あの大剣の人とアラタの二人だけ? あの時カマロって人は他の人達と一緒に来てたよね」
「あぁ。神殿に辿り着いて中に入ったんだが」

 とにかく、今いる場所が日本のどこかが分からない。
 俺の近所に、ただっ拾い草原の中に神殿がある場所なんてなかったからな。
 それにカマロの言ってた帝国とか帝都ってのも気になるし、日本民国なんて国の名前は聞いたことがないと言ってたことも気になった。
 とにかくここの人に聞けば、俺の家に戻れる。
 と思ってたんだが。

 それはともかく。
 昔語りの続きに戻る。

 ─────

 その建物は全体的に白い。
 観光地か何かか。
 歴史的建造物か。

 そんなことを呆然と考えてたが、扉が開く音で我に返った。
 カマロが扉を開けていた。

「お、おい、勝手に開けて……」
「入るしかないでしょ? ごめんくーださーい」

 ついさっきまで命の危険に晒されてた立場の人間が、なんとも軽い挨拶ができるもんだ。
 もっとも本人にそんな自覚がなければ、そんな気軽な気持ちにもなるか。

 中は、大人数を収容できる礼拝堂といった感じ。
 奥の正面に祭壇らしい物があった。
 その祭壇の奥に、何やらきらびやかな衣装をまとった男性が一人立っている。
 祭壇の手前には、白い衣装を着た人が……二十人くらいいたか。
 そして逆に目立つ、まちまちの服装をしているのが六人。
 何となく、その六人も俺達と同じ、この世界に迷い込んだ者達って気はした。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺わかば
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします

吉野屋
ファンタジー
 竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。  魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。  次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。 【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】  

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

処理中です...