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三波新、放浪編

昔語りはまだ続く 地上に出ても怖かったその場所 そこで最初に会ったのは

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「ふーん……。つまりアラタは、思い込みが激しかったり、勘はよく外す人だったのね? けれど、他に頼るものもないから、外れる勘を当てにして、その勘は当たると思い込んで進んでいったら、その魔物とは遭わずにすんだ、と?」
「あぁ。というか、勘とも違うんだな。そうだな……。今ヨウミは酒を飲んでたが、今は飲むのをやめて料理を口にしている」
「そうよ。見りゃ分かるでしょ?」
「その前に、日中の仕事を終えて、その時に来ていた服を着替えて、今は気楽な格好をしている」

 行商中は歩きやすい恰好をする。
 仕事が終わって、特に宿に泊まる日は、少しばかりヒラヒラが多く付いた、自分好みの服に着替えている。

「……見りゃ分かるでしょ」
「そしてヨウミは女性である」
「見りゃ分かるでしょ!」
「分からんが?」
「殴ろうかな……」
「悲しいな。この女性はいつからそんな狂暴な性格になったのだろうか。子供の頃は家族から、蝶よ花よと育てられ……」
「何なのよアラタは。着替えも仕切りのないところでしたりするし、後ろしか見せてないけどアラタの前で着替えたことも何度あったか!」

 異性の前で着替えなんて、普通だったらできるはずもない。
 が、最初の頃は手持ちも不安だったからそれどころじゃなかった。
 もちろん俺は、それを直視するほどデリカシーがない人間じゃない。
 つまり、こいつは女性である、と俺は言い切ることが未だにできないという。

「話はずれたが、お前は全部『見りゃ分かる』と言ったな?」
「そうよ。それがどうしたの」
「その変な奴らがそこにいる気配ってのを、見りゃ分かると同じくらいに認識ができて、それを確信できるっていうか……」
「ひょっとしてそれが、今まで当たってた、ギルドが来るとか旗手が来るっていう勘とか予感になるわけ?」
「あぁ。……って言うか、しゃべったことあったろ?」
「ないわよ! 初めて聞いた! 軽い予知能力とか、人並み以上の予想ができるのかと思ってた! そう言うことは早く言ってよ」

 まぁ結果は同じだよな。
 それをヨウミに伝える手段は、結局言葉で告げるのみ。
 それは、俺の言う通りになる。
 商人ギルドの関係者が俺の予想通りにやってきたし、旗手の連中も接近してきた。
 予言、予知と思われてもおかしくはないか。

 まぁそれはともかく。

「話戻すぞ」

 ※

 得体のしれない者の気配から遠ざかる方向へと廊下を進む。
 が、いきなり冷や汗が流れる事態が起きた。
 その気配に感情が伴ったように感じた。
 暗闇の中にいくつも存在する気配が持つ感情は、みなすべて

「ハラ、ヘッタ」

 だった。
 そしてあの白い細い物がすべて人骨だった場合……。

「肉の一片も残さず……」

 自分で思ったことを口にして、それが自分の耳に入り、血の気が引いた。

「あ、会わなければどうということはない……」

 実際俺が移動しても、そいつらは俺に気付いた様子もなかった。
 さ迷い歩いてやがて見つける。
 トーチの火とは異質な明るさが、ある一か所に注ぎ込まれている。
 もちろん怪しさ満点。
 だが、その得体のしれない物の気配は遠くにある。

「ここで急いで、その気配をバケモノに察知されて襲われるという、よくある映画のワンシーン」

 そんな間抜けなことだけはしない。
 用心深くその光に近づくと、どの方向から来たものかが分かった。

「上への階段……。地上か?」

 待望の日の光と暖かさ。
 ここで焦って最後にどんでん返しってのは、神話の中にもある話。
 足跡をなるべく抑えて階段を上り切ると……。

「階段を上ると、そこは……死んだ記憶はないから天国じゃないな。となれば地上だが……ここ、どこだ?」

 そこは一面緑だらけの草原だった。
 だがちょっと離れたところに、社会の教科書とかにある写真にあるような、神殿みたいな建物がある。
 それ以外の建物は、この付近にはない。
 あのテーブルの文に従って、とりあえず、目的の場所に辿り着いた。
 が、あの気配は下からまだ感じ取れる。
 俺の気配に釣られて這い上ってくるかもしれない。

 だが地上に出て愕然とした。
 そこかしこからあのおぞましい気配が感じ取れたから。
 草むらで覆われてる地面をよくよく見たら、石枠に囲まれている地中に向かう階段があちこちにあった。

「あの地下迷路、あそこだけじゃなかったのか、それとも全部繋がってるのか……」

 誰か俺を助けてくれよ……。
 でもどうやって?
 両親や家族が助けに来たところで、俺をこの場から連れ出すことなんかできるわけがない。
 とんでもない力を持ったスーパーヒーローが突然現れて助けてくれるなんて現実もありえない。
 俺がこんなひどい目に遭うほど、誰かに傷つけたか? 迷惑かけたか?
 嫌悪感丸出しのそいつらの数はおびただしいほどじゃないが、一斉に地上に出て来られたら俺はもう一たまりもない。
 俺には何の抵抗手段もない。
 そんな連中に取り囲まれたら、もはや打つ手が見つからない。
 泣きたくなってくる。
 会社を無理やり辞めさせられてなかったら、こんな命が危ない状況になることもなかったのに!
 けど、自分から動いて、この危険地帯から抜け出さないと。

「?! 他に、誰か、いるのか?」

 そんな中から人間の気配が一つだけ感知できた。
 あわよくば助けてもらおう。
 でも、俺みたいに非力な人間なら……。
 いや、それでも同類ということで、この場面に限り心強い同士になってくれるはず。
 たとえ俺みたいなビビリだったとしても……。

 いや、違った。
 ビビリどころか、その移動の速さは俺と比べ物にならない。
 怖がるなんてもんじゃない。
 その気配から感じ取れる感情は、何やら力を得たことで恐れを知らない勇ましさ。
 俺の近くの石枠の地下から感じ取れ……。

「ぷはーっ! ようやく地上に出られたー!」

 勢いよく地上に飛び出たそいつは、両手を上げて大声を上げた。
 地下の連中にバレるだろうに!

 けど、それさえ気にも留めないということは、その得体のしれない連中なんか目じゃないっていう気概を感じた。
 それに、万歳をした両腕の片方には、両手で持たなきゃ振り回せないだろう大きな剣が握られていた。

「ん? お、あんたもひょっとして地下から来たのか? 大丈夫だったか?」

 彼は振り返り、見つけた俺に向かってそう言った。

 まさか、と思った。
 来てくれるはずのないスーパーヒーローが、よりにもよってその地下からやって来てくれたんだ。
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