俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

文字の大きさ
上 下
173 / 196
四人目の相棒は許嫁

戻ってきたと思ったらカレー騒動

しおりを挟む
 ミュウワが帰ってきたのは、実家に帰って四日目だったか。
 夕方の握り飯タイムが終わり、ラノウと一緒に部屋で晩飯を食っていた時だったな。

「ただいま戻りましたっ……て……えぇ?!」

 ってそんなに驚くことか?
 部屋のレイアウトを変えたわけでもないし、ラノウの趣味を部屋に持ち込んだわけでもない。
 俺達はただ、カレーうどんを食ってただけだが?
 しかし、見事なまでに膝から崩れ落ちたって表現がそのまま当てはまるような動作を見せてくれた。
 映像に残したかった。
 それにしても……何だその大きい荷物は?
 布団っぽいのが二つセットで。
 もう一つは、何か段ボール箱っぽいな。

「どうして……ラノウちゃんが……カレーを……」
「コウジさんが、何も知らない所に突然放り投げられて可哀想って言ってくれて、慰めてあげるって言ってくれて、それがこれ。ミュウワお姉ちゃん、これ、すんごく美味しいね。こんな美味しいの、ミュウワお姉ちゃんだけ食べてたなんてずっこいっ」
「私だって……何か月か経って……ようやく口にできたって言うのに……ラノウちゃんは……たった三日四日で……」
「ううん。一昨日も食べた」
「うああぁぁぁ!」

 持ってきた物の説明しろよ。
 そっちは野菜か?
 見たことねぇな。
 つか、防音が施されてるとは言え、絶叫すんなよ。

「わ、私もっ! 私にもっ!」
「お姉ちゃんの分はあるかなぁ……」
「くっ! よこせーっ!」
「鍋の中見ればいいでしょー!」
「ひ、人が真剣にいろいろ悩んで、いろいろ模索して、それで帰ってきてこの扱いって何よー!」
「し、知らないよっ! お姉ちゃんが勝手に……」

 姉妹喧嘩が始まった。
 なんか急に思いつめた表情を見せたと思ったらいきなり実家に帰るみたいなことを言って、帰ってきたらこの有様。
 なんなんだ、こいつら。

「お前、晩飯食ってなかったのか?……まだ残ってるよ。食うか?」
「あ……えっと……少し食べてきました……でも食べますっ!」

 やれやれだ。
 見てて飽きないが、その食う量がな。
 しかもこいつら……。
 美味しい美味しい言いながら食いつつも、口喧嘩が止まらない。
 ミュウワの普段の行儀のよさはどこ行った?

「お姉ちゃん、こんな美味しい物みんなに内緒で食べて、独り占めして! ずっこいよ!」
「ラノウだって、来て早々何でこんなにたくさん食べてるのよ! 恵まれすぎ!」
「やかましいっ! 食うときくらいは楽しく食え! でないと、カレーの汁飛ばすぞ!」
「「はぅあっ!」」

 ※※※※※ ※※※※※

 コウジさんは、やっぱりコウジさんだった。
 私が少し、堅苦しく考えすぎてるのかなぁ。
 コウジさんとも話したことあったけど、この仕事は成り行きだったって言ってたし。
 生き方は自由ってことも分かるし、私の生き方のきっかけとなったジャイムも、仕事を冒険者から家業に変えた。
 でも私はコウジさんのことを知ったし、この人の毎日の過ごし方とか見て、予想と違ってびっくりもした。
 ただ、この人は……笑った顔は見たことがない。
 いつも不満そうな、不機嫌そうな顔をしている。
 けど、私には、時々穏やかな顔を見せてくれる。
 他人を自分の人生の決断の理由にするな、みたいなことを言われたけど……。
 コウジさんからは、ここでの仕事を強制されてるわけじゃないから、もうしばらく……しばらくここで仕事を続けてみようと思う。

 けど……。
 こんな思いを一瞬でも忘れさせるカレーって……。
 正体不明の魔力を持つ物体、という意味での魔物よね……。

 ※※※※※ ※※※※※

 で、ミュウワが妹呼ばわりしてた女の子は翌朝帰っていった。

「……ということで、極上の布団を頂いてきました」
「いいのかよ、それ」

 どんな手練手管でもらってきたのか。
 で、そっちの野菜っぽいのは?
 根野菜葉野菜その他いろいろ。

「カウラお婆様から、余りそうだからもってけって」
「余るって……そっちだって大家族だろ?」
「数がハンパだから、だって」

 出汁とかペーストとかすりゃいいだろうに。

「とは言ってもなぁ。どうやって調理するんだ?」
「えっと、お婆様は『硬い芯がある物は取り除け。あとはどのようにしても食べられる。煮るなり焼くなり好きにしろ』だって」
「いや待て。そりゃお前」
「『ついでにミュウワも』とか言ってたけど、どういうことかしら?」

 ババア、俺にスベってるぞ。
 つか、ミュウワはその……理解しろよ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

スキル:浮遊都市 がチートすぎて使えない。

赤木 咲夜
ファンタジー
世界に30個のダンジョンができ、世界中の人が一人一つスキルを手に入れた。 そのスキルで使える能力は一つとは限らないし、そもそもそのスキルが固有であるとも限らない。 変身スキル(ドラゴン)、召喚スキル、鍛冶スキルのような異世界のようなスキルもあれば、翻訳スキル、記憶スキルのように努力すれば同じことができそうなスキルまで無数にある。 魔法スキルのように魔力とレベルに影響されるスキルもあれば、絶対切断スキルのようにレベルも魔力も関係ないスキルもある。 すべては気まぐれに決めた神の気分 新たな世界競争に翻弄される国、次々と変わる制度や法律、スキルおかげで転職でき、スキルのせいで地位を追われる。 そんななか16歳の青年は世界に一つだけしかない、超チートスキルを手に入れる。 不定期です。章が終わるまで、設定変更で細かい変更をすることがあります。

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

特典付きの錬金術師は異世界で無双したい。

TEFt
ファンタジー
しがないボッチの高校生の元に届いた謎のメール。それは訳のわからないアンケートであった。内容は記載されている職業を選ぶこと。思いつきでついついクリックしてしまった彼に訪れたのは死。そこから、彼のSecond life が今始まる___。

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

オタクな母娘が異世界転生しちゃいました

yanako
ファンタジー
中学生のオタクな娘とアラフィフオタク母が異世界転生しちゃいました。 二人合わせて読んだ異世界転生小説は一体何冊なのか!転生しちゃった世界は一体どの話なのか! ごく普通の一般日本人が転生したら、どうなる?どうする?

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

処理中です...