俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

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四人目の相棒は許嫁

戻ってきたと思ったらカレー騒動

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 ミュウワが帰ってきたのは、実家に帰って四日目だったか。
 夕方の握り飯タイムが終わり、ラノウと一緒に部屋で晩飯を食っていた時だったな。

「ただいま戻りましたっ……て……えぇ?!」

 ってそんなに驚くことか?
 部屋のレイアウトを変えたわけでもないし、ラノウの趣味を部屋に持ち込んだわけでもない。
 俺達はただ、カレーうどんを食ってただけだが?
 しかし、見事なまでに膝から崩れ落ちたって表現がそのまま当てはまるような動作を見せてくれた。
 映像に残したかった。
 それにしても……何だその大きい荷物は?
 布団っぽいのが二つセットで。
 もう一つは、何か段ボール箱っぽいな。

「どうして……ラノウちゃんが……カレーを……」
「コウジさんが、何も知らない所に突然放り投げられて可哀想って言ってくれて、慰めてあげるって言ってくれて、それがこれ。ミュウワお姉ちゃん、これ、すんごく美味しいね。こんな美味しいの、ミュウワお姉ちゃんだけ食べてたなんてずっこいっ」
「私だって……何か月か経って……ようやく口にできたって言うのに……ラノウちゃんは……たった三日四日で……」
「ううん。一昨日も食べた」
「うああぁぁぁ!」

 持ってきた物の説明しろよ。
 そっちは野菜か?
 見たことねぇな。
 つか、防音が施されてるとは言え、絶叫すんなよ。

「わ、私もっ! 私にもっ!」
「お姉ちゃんの分はあるかなぁ……」
「くっ! よこせーっ!」
「鍋の中見ればいいでしょー!」
「ひ、人が真剣にいろいろ悩んで、いろいろ模索して、それで帰ってきてこの扱いって何よー!」
「し、知らないよっ! お姉ちゃんが勝手に……」

 姉妹喧嘩が始まった。
 なんか急に思いつめた表情を見せたと思ったらいきなり実家に帰るみたいなことを言って、帰ってきたらこの有様。
 なんなんだ、こいつら。

「お前、晩飯食ってなかったのか?……まだ残ってるよ。食うか?」
「あ……えっと……少し食べてきました……でも食べますっ!」

 やれやれだ。
 見てて飽きないが、その食う量がな。
 しかもこいつら……。
 美味しい美味しい言いながら食いつつも、口喧嘩が止まらない。
 ミュウワの普段の行儀のよさはどこ行った?

「お姉ちゃん、こんな美味しい物みんなに内緒で食べて、独り占めして! ずっこいよ!」
「ラノウだって、来て早々何でこんなにたくさん食べてるのよ! 恵まれすぎ!」
「やかましいっ! 食うときくらいは楽しく食え! でないと、カレーの汁飛ばすぞ!」
「「はぅあっ!」」

 ※※※※※ ※※※※※

 コウジさんは、やっぱりコウジさんだった。
 私が少し、堅苦しく考えすぎてるのかなぁ。
 コウジさんとも話したことあったけど、この仕事は成り行きだったって言ってたし。
 生き方は自由ってことも分かるし、私の生き方のきっかけとなったジャイムも、仕事を冒険者から家業に変えた。
 でも私はコウジさんのことを知ったし、この人の毎日の過ごし方とか見て、予想と違ってびっくりもした。
 ただ、この人は……笑った顔は見たことがない。
 いつも不満そうな、不機嫌そうな顔をしている。
 けど、私には、時々穏やかな顔を見せてくれる。
 他人を自分の人生の決断の理由にするな、みたいなことを言われたけど……。
 コウジさんからは、ここでの仕事を強制されてるわけじゃないから、もうしばらく……しばらくここで仕事を続けてみようと思う。

 けど……。
 こんな思いを一瞬でも忘れさせるカレーって……。
 正体不明の魔力を持つ物体、という意味での魔物よね……。

 ※※※※※ ※※※※※

 で、ミュウワが妹呼ばわりしてた女の子は翌朝帰っていった。

「……ということで、極上の布団を頂いてきました」
「いいのかよ、それ」

 どんな手練手管でもらってきたのか。
 で、そっちの野菜っぽいのは?
 根野菜葉野菜その他いろいろ。

「カウラお婆様から、余りそうだからもってけって」
「余るって……そっちだって大家族だろ?」
「数がハンパだから、だって」

 出汁とかペーストとかすりゃいいだろうに。

「とは言ってもなぁ。どうやって調理するんだ?」
「えっと、お婆様は『硬い芯がある物は取り除け。あとはどのようにしても食べられる。煮るなり焼くなり好きにしろ』だって」
「いや待て。そりゃお前」
「『ついでにミュウワも』とか言ってたけど、どういうことかしら?」

 ババア、俺にスベってるぞ。
 つか、ミュウワはその……理解しろよ。
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