上 下
192 / 196
後日談:屋根裏部屋は異空間! おにぎりが結ぶ、俺を知らない父さんとの縁

身内の審判 けど俺はそれどころじゃない

しおりを挟む
「おい、エッジ!」
「ん?」

 いや、俺の方には誰も来なくていいよ。
 フォールスの方に……って、ヒュージか。

「何だ……ぶぐぁっ! ……いってぇ……。何すんだよ!」
「うるせぇ!」
「ぐぽっ!」

 いきなり頬に、そして次に腹を殴られた。

「てめぇがいなきゃ、フォールスはあんな目に遭わずに済んだんだぞ! てめぇ、何考えてやがんだ!」
「ぅお゛っ!」

 二発、三発と殴られる。
 周りは誰も止めてくれない。

「止めなさい! あんたがボーっとしてるからでしょ!」

 教室内に響く声。
 フォールスだった。

「何言ってんだ! こんなやつほっときゃお前は危ない目に遭わずに済んだんだろうが! それをこいつ」
「あんたとノクトがぼーっとしてたからでしょ! 地面にヒビが入ってたの見えなかったの?!」
「……思い出したぜ。俺とノクトを放り投げてくれたっけな。どういうつもりだ?! あぁ?!」
「あんたバカなの?! あのまま二人がそのままそこにいたら、下に落ちたのはあんたとノクトだったのよ?!」
「俺達だったらあの後普通にそこから退いてたね。それを、それに気付かないでボーっとしてるってこいつが判断したからだろうよ」
「ノクトの言う通りだ! 普段からボーっとしてるから、俺らも同じようにボーっとしてるって思いこんだんだろうよ!」

 痛えし、重いから退いてくれねぇかな。
 馬乗りにされてるよ、俺。

「落ちたのはあんた達だったらって言う話は無意味だけど、少なくともエッジは、暗いダンジョンの中でも扉を見つける視力はあるのよ?! そこで一晩避難してたもの。私は見つけられなかったんだから、エッジがいなかったらどうなってたか分からなかったわよ!」

 みんながざわついてる。
 何があった?
 フォールスの言うことにおかしいことなんかなかったろ?

「一晩一緒にいた? 何言ってる」
「せいぜい一時間くらいだったろ。時間見てみろよ」

 いつもの学校への帰還の時間よりも、確かに一時間くらいしか遅れてなかった。
 てっきり丸一日過ごしてたと思ったんだけど……。

「う、嘘……。だってあの屋根裏部屋で一晩寝て……。おにぎりも、夜のご飯と朝ご飯の代わりに……」
「屋根裏? おにぎり? ……お前ら……ひょっとして……」

 おい、お前ら。
 同じ屋根の下で若い男女が一夜を共にしたことを問題にしろよ。

「噂の……安全地帯の部屋にいたのか?」
「そうよ! だからヒュージ! いい加減エッジから離れなさいよ!」
「……ケッ!」

 またクラス中がうるさくなる。
 フォールスの無事を喜ぶ声から、屋根裏部屋での出来事を根掘り葉掘り聞きたがる連中の騒がしいこと騒がしいこと。

「お前ら……みんな、席に着かんかーっ!」

 ほら、教官に怒鳴られた。
 騒ぎを聞きつけてやってきたわけじゃなく、普通に下校時間が来ただけなんだけどな。

 ※

 ホームルームを終わったら帰るつもりだったんだけど、そうはいかなかった。
 当たり前か。
 フォールスと二人で呼び出された。

「そうか。屋根裏部屋に行ったのか。ハタナカ・コウジって奴はいたか?」
「はい。他の世界から来たような冒険者達におにぎりを配ってました。それと水も」
「そうか……。数年前にコウジの奴、死んだって聞いたんだが……」
「教官もご存じなんですか?!」
「あぁ。何度か俺も世話になった。他の教官何人かも世話になったらしい」

 フォールスが受け答えた。
 有り難いことに、俺があの人を父さん呼ばわりしたことは伏せてくれた。
 俺がそう思い込んでるだけかもしれないしな。
 ちなみにすでに死去してるので、学校に届け出ている家族構成は、当然母と二人だけってことにしてる。
 だからあの人のことで話題が盛り上がってるけど、教官は俺とあの人を結びつけて考えることはなかった。

 ただ、やっぱり同一人物かもしれないって思った話は出た。
 父さんは家族みんなに、カレーライス、カレーうどんを時々作ってくれた。
 教官もあの部屋でそれを口にしたことがあったらしい。
 何か、脳内でトリップしてたみたいだったけど……。

「……では失礼します」
「失礼します」
「うむ。気をつけて帰れよ?」

 結局、あの部屋での詳しい話を聞きたかっただけみたいだった。

「……あんたも何か喋ったらよかったのに」
「俺から喋ること、特になかったよ。フォールスが分かりやすく話してくれたし」

 二人一緒に玄関に出ると、屋根裏部屋の噂に興味津々のクラスメイトの大半がフォールスを待っていた。
 つくづく人気者だな、こいつ。
 それに比べて俺は空気。
 空気なら空気らしく、誰からも見られないようにこっそり帰る……って、また試合続行かよ。

「おい、エッジ」

 またヒュージとノクトだよ。やれやれ。

「ヒュージ、お前さ……」
「うるせぇ。お前に何かを言う権利すらねぇ」
「お前が何体も魔物を倒したことは知ってる。数え切れねぇよ」
「黙れ。お前、フォールスに」
「その魔物を倒した力で俺を殴るのか?」
「あぁ?!」
「俺は、あいつを、そしてお前らを殺そうとする魔物どもと同格なのか? 俺はそこまで邪悪なのか?」「フォールスを死なすところだったんだぞ?! それが邪悪でなくて何なんだ!」

 やれやれだ。
 議論する価値もないだろ、これ。
 誰も気が付かなかった要点に、俺達は気付くことができたんだぞっていうアピールだろ、これ。

「つまり俺は魔物と同類ということでいいのか? 冒険者ギルドや組合に問い合わせて確認するぜ? お前の善悪は、学校内で考える基準だろ。卒業したらお前ら何になるつもりだ? そのノリで仕事する気か? 冒険者全員ここを卒業してるわけじゃねぇんだぞ? 大体危険を察知できてりゃあんなことは起きなかったろうよ」

 ツッコみどころ満載だな。
 自分の行動を棚に上げて何言ってんだ。
 どうせこいつらのことだ。
 自分のミスはなかったことにしてんじゃねぇか?
 二人からの返事はない。

「じゃ、また明日な」
「……くっ! グループの再編成訴えてやる! お前なんか落ちこぼれ組にでもなっちまえ!」

 しょーもない捨て台詞だな、おい。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したからモンスターと気ままに暮らします

ねこねこ大好き
ファンタジー
新庄麗夜は身長160cmと小柄な高校生、クラスメイトから酷いいじめを受けている。 彼は修学旅行の時、突然クラスメイト全員と異世界へ召喚される。 転移した先で王に開口一番、魔軍と戦い人類を救ってくれとお願いされる。 召喚された勇者は強力なギフト(ユニークスキル)を持っているから大丈夫とのこと。 言葉通り、クラスメイトは、獲得経験値×10万や魔力無限、レベル100から、無限製造スキルなど チートが山盛りだった。 対して麗夜のユニークスキルはただ一つ、「モンスターと会話できる」 それ以外はステータス補正も無い最弱状態。 クラスメイトには笑われ、王からも役立たずと見なされ追放されてしまう。 酷いものだと思いながら日銭を稼ごうとモンスターを狩ろうとする。 「ことばわかる?」 言葉の分かるスキルにより、麗夜とモンスターは一瞬で意気投合する。 「モンスターのほうが優しいし、こうなったらモンスターと一緒に暮らそう! どうせ役立たずだし!」 そうして麗夜はモンスターたちと気ままな生活を送る。 それが成長チートや生産チート、魔力チートなどあらゆるチートも凌駕するチートかも分からずに。 これはモンスターと会話できる。そんなチートを得た少年の気ままな日常である。 ------------------------------ 第12回ファンタジー小説大賞に応募しております! よろしければ投票ボタンを押していただけると嬉しいです! →結果は8位! 最終選考まで進めました!  皆さま応援ありがとうございます!

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

妻が女神になりまして!?~異世界転移から始まる、なんちゃってスローライフ~

玉響なつめ
ファンタジー
吉田ヨシヤ、四十歳。 ある日仕事から帰ると妻が待っていた。 「離婚するか、異世界に一緒に行くか、選んで!!」 妻の唐突な発言に目を白黒させつつも、愛する女と別れるなんて論外だ! だがまさか妻の『異世界』発言が本物で、しかも彼女は女神になった? 夫として神の眷属となったヨシヤに求められているのは、信者獲得!? 与えられた『神域』は信者獲得でレベルアップした妻により、どんどん住みよくなっていく。 これはヨシヤが異世界で手に入れた、夢の自給自足生活(っぽいもの)の物語……のはずである。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

処理中です...