俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

文字の大きさ
上 下
190 / 196
後日談:屋根裏部屋は異空間! おにぎりが結ぶ、俺を知らない父さんとの縁

そして部屋を後にする

しおりを挟む
 朝ご飯の時間が終わって後片付けも済ませた頃、コウジさんからおにぎりを差し出された。

「お疲れ。食っとけ」
「は、はいっ。ありがとうございますっ」

 コウジさんから声をかけられたのは初めてかな。
 そんな今なら……質問してもいいかもしれない。

「コウジさん、質問、三つほどあるんですが」
「……三つ? ……答えられるなら答えてやる」
「コウジぃ、この子にちょっと甘いんじゃない?」
「うるせぇ。寝坊の遅刻者はどっか行ってろ」

 あの子に……悪いことしちゃったかな……。
 でもそれよりも今は……。

「一つ目は、おにぎりを作る仕事、嫌いなのかなって。それと、みんなが喜んでおにぎりを食べてるんですけど、それを見てうれしいとか感じますかってこと。それと、ここに来る人達にどう思ってるのかなって……」

 質問してる間、コウジさんはずっと俺の方を見てた。
 何となく、俺に質問をするなっていう目で睨まれた感じがして、ちょっと怖くなった。

「やんなきゃならないこと。それだけ。握り飯は、食えるもんなら食えばいいし、食えたもんじゃないっつーんなら食わなきゃいい。俺は、食えると思える握り飯を作るだけだ。それと……」

 正面から見下ろされて睨まれてる。
 やっぱ、怖い。
 でも……、父さんじゃないとは思えないんだよな、なぜか。

「ここに来る人達をどう思ってるか、じゃなくて、ここに来る人達に、どう思ってるかってのか? ……ふん。面白い質問するじゃないか」

 俺の質問の意味、分かってくれただろうか……。

「早く回復してとっとと出てけ、としか思えんし、思わん」
「……誰に、でも?」
「特定の誰かなんか来るわきゃない。そっちの世界にはどこにも行けるわきゃねぇんだから」

 そう言えば聞いたことがある。
 父さんもいろんな世界の人におにぎりを作ってたという話を聞いて、その人達の世界に行ったことがあるかどうか。
 なかったって言ってた。
 その入り口が見えなかったから、って。
 母さんと一緒になる前には行けるようになったけど、それどころじゃなかったとも言ってた。
 でも俺が今、知りたいことは……。

 いや、そう言えば教官が言ってた。

『感情が伴わなくても目的を達することはできる。だが自分のなすべきことに対しては集中しろ』

 やる気がなくても、おにぎりを作り、それを食べてくれる人がいる。
 そしてそれを最後までやり切ってた。
 ……そう言えば、母さんも……。

『あとは……特に、誰かのためにとか、誰かにはあげないっていうことはなかったな。誰に対しても変わらない態度だったわね』

 自分がおにぎりを作る時は……そうじゃなかった。
 作ってあげる相手がいる時は、その人のために作ってた。
 丸っきり……この人と逆のことをしてた。

 じゃあ……俺も……ひょっとしたら……。

「コウジさん……。答えていただいてありがとうございました。俺も、コウジさんみたく……頑張ってみようと思います」
「……勝手にしろ。んじゃとっとと出てけ」
「はいっ!」

 ここに来た甲斐があった。
 明日から、俺、父さん……コウジさんの真似、してみようかと思う。

「ちょっと! 何勝手に決め付けてんのよ! あのワニのバケモノ、どうするつもり?!」
「確かに二人きりじゃ倒せないと思う。けど、あの部屋はあの魔物が体当たりしてもびくともしなかったんだぜ? 二進も三進もいかないなら、ここにまたお邪魔させてもらおうよ」
「エッジっ! ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

 隣の屋根裏部屋に移動して扉を開いた。
 空耳かもしれなかったけど、コウジさんの声が聞こえたような気がした。

「エッジ、頑張れよ」

 って。

 ※
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

スキル:浮遊都市 がチートすぎて使えない。

赤木 咲夜
ファンタジー
世界に30個のダンジョンができ、世界中の人が一人一つスキルを手に入れた。 そのスキルで使える能力は一つとは限らないし、そもそもそのスキルが固有であるとも限らない。 変身スキル(ドラゴン)、召喚スキル、鍛冶スキルのような異世界のようなスキルもあれば、翻訳スキル、記憶スキルのように努力すれば同じことができそうなスキルまで無数にある。 魔法スキルのように魔力とレベルに影響されるスキルもあれば、絶対切断スキルのようにレベルも魔力も関係ないスキルもある。 すべては気まぐれに決めた神の気分 新たな世界競争に翻弄される国、次々と変わる制度や法律、スキルおかげで転職でき、スキルのせいで地位を追われる。 そんななか16歳の青年は世界に一つだけしかない、超チートスキルを手に入れる。 不定期です。章が終わるまで、設定変更で細かい変更をすることがあります。

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

聖剣を錬成した宮廷錬金術師。国王にコストカットで追放されてしまう~お前の作ったアイテムが必要だから戻ってこいと言われても、もう遅い!

つくも
ファンタジー
錬金術士学院を首席で卒業し、念願であった宮廷錬金術師になったエルクはコストカットで王国を追放されてしまう。 しかし国王は知らなかった。王国に代々伝わる聖剣が偽物で、エルクがこっそりと本物の聖剣を錬成してすり替えていたという事に。 宮廷から追放され、途方に暮れていたエルクに声を掛けてきたのは、冒険者学校で講師をしていた時のかつての教え子達であった。 「————先生。私達と一緒に冒険者になりませんか?」  悩んでいたエルクは教え子である彼女等の手を取り、冒険者になった。 ————これは、不当な評価を受けていた世界最強錬金術師の冒険譚。錬金術師として規格外の力を持つ彼の実力は次第に世界中に轟く事になる————。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

特典付きの錬金術師は異世界で無双したい。

TEFt
ファンタジー
しがないボッチの高校生の元に届いた謎のメール。それは訳のわからないアンケートであった。内容は記載されている職業を選ぶこと。思いつきでついついクリックしてしまった彼に訪れたのは死。そこから、彼のSecond life が今始まる___。

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

オタクな母娘が異世界転生しちゃいました

yanako
ファンタジー
中学生のオタクな娘とアラフィフオタク母が異世界転生しちゃいました。 二人合わせて読んだ異世界転生小説は一体何冊なのか!転生しちゃった世界は一体どの話なのか! ごく普通の一般日本人が転生したら、どうなる?どうする?

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...