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握り飯の役目は終わらない
鬼の少女と人間の男
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「……ちょいと昔話をしてやろうかの」
「いらん」
こっちは米研ぎで忙しいんだ。
米を水に浸す時間、確か四十分間。
それを握り飯百五十個分だからな。
全部一度にできることじゃない。
握り飯を待つ連中は、受け取る順番を守って待つ。
水に浸す米も同様に順番待ちさせる感じだ。
「まぁそう言うな。仕事をしながらでも構わんよ」
そうしてこの鬼女は語り始めていった。
※※※※※ ※※※※※
「昔々ある所に、鬼の小さい女の子が」
きっとこいつのことだよな。
しかしものの言い方がおかしいな。
小さい女の子の鬼……あれ?
何かニュアンスが違うな。
小さい鬼の女の子……これもなんか違うか?
「神隠しに遭うた」
被害者かよ!
しかも神隠しに遭ったのかよ!
鬼なのに神隠しなのかよ!
「気付いたら、大木の太い枝の上。少女には高い場所。降りるに降りられんかった」
少女……まぁ少女だろうな。
コルトもシェイラも少女と言えばしょう……コホン。
「今にして思えば、『鬼がいるぞー』と言う子供らの声。その声に釣られてやってくる大人達。長い棒で突き落そうとしたり、木の幹に体当たりして、少女を枝から落とそうとしとった」
今にして思えば、って、思い出話じゃねぇか!
他人事みたいな話し方して、結局自分事って思いっきりばらしてんじゃねぇか!
「少女は怯えて木の幹にしがみつくしかできんかった。人間たちは、そのうちそこから立ち去っていった。何も危害を加えないってことが分かったんじゃろうな」
「そりゃ蚊だって血を吸わず、耳元でプーンなんて音立てなきゃ、線香炊いたり殺虫剤撒いたりはしないよな、うん」
「蚊トンボと一緒にするな」
蚊トンボなんて、そっちにもいるのかよ。
「元々その場所は人通りが少ない道に伝っておった林。一日、二日と経つが、元の場所に戻れんかった」
「……その間もちろん一人?」
「左様。一人きり。寂しかったが、何を考えてるか分からん人間に近寄られるよりは大分マシじゃった。それと、誰か助けに来てくれる、迎えに来てくれる、と思っておったしな」
鬼……なんだろうか?
鬼だったとしても、神通力とか何かあるもんじゃねぇの?
「三日目、ある男が一人、その木に近寄ってきた。そしてその木をよじ登り始めた。わ……少女は怯えた。じゃがの……」
今、私とか妾とかワシとか言おうとしたろ。
別に昔話の演出とか考えなくていいから。
面倒くさい奴だな、こいつも。
「少女が座っていた枝に到着すると、腰に付けていた包みを外し、少女に差し出した」
随分物好きな奴がいたものだ。
「『これ、食え。腹、減ってるろ?』と言いながらの。大人だと思うが、物の言い方が何となく頭がた……子供っぽい感じがしたの」
今、頭が足りない、とか言おうとしたよな?
分かりやすくていいけどさ。
「おにぎり、というもんだった。包みには二個入ってた。すぐに食べ終わった。食べ終わってから気付いた」
男の分まで食べてしまった、と思ったんだろ?
男は、気にするな、とか言ったんだろうよ。
「お前、降りられないのか? と聞いてきた。降りたら、もう二度と自分の家に帰れない、と思ったんじゃろ。木の幹に力いっぱいしがみついた」
その場から離れたら、見えない出入口から離れてしまうってことだよな。
そんなの、この部屋にいたら何となく気持ちは分かる。
「よし、分かった、と言うてな。その場からすぐに立ち去った」
何だよ。薄情だな。
物語はそれでお終いって感じじゃねえか。
「どこぞからか、木材を持って戻ってきた。何度も往復して、とにかくたくさんの木材を運んできた」
「家でも建てたか?」
「いや、櫓を組んだ」
「ヤグラぁ?」
おそらくこいつのそばに簡単に行き来できるようにってことだろうが、はしごをかければそれで済む話じゃねぇの?
「やぐらを組むだけにしては、木材は多すぎた。そしたら男はそれを足場にしての」
足場代わりに櫓を組んだ?
その男、何するつもりだ?
「少女がいた枝を床の一部にした部屋を作り始めた」
おいちょっと待て。
つまり何か?
よく無人島で生活するって物語をテレビで見たりしたが、枝の上に家を作るみたいな、アレをしたってのか?
「床を作り、柱をその隅に建て、屋根を作った」
おい。
壁はどうした。
「風が寒いから壁も欲しい、と願った。男は少女の言う通り、壁を作った」
まぁ当然だろ。
「出入口どうしよう、と、四方の壁ができた後で困っておったな」
だめじゃん!
でも、何か可愛いな、その男。
「幹の方に扉を作って、何とか部屋が完成した。少女のために作ったと言っておった。少女は泣いて喜んだ」
心細い女の子の味方か。
そりゃ心強かったろうな。
「じゃが男の仕事はそれで終わりではなくてな」
また何か仕事し忘れてたんだろ。
「どこからか、藁をたくさん持ってきた。布団代わりと言うには暖かくはないかもしれん、と言うてな」
肝心なところに気が回らず、そういうところには気が回るのか。
丸っきりバカってわけじゃないらしい。
「鬼の少女と男の奇妙な生活が、短いながらもそこで始まった」
「めでたしめでたし」
「勝手に終わらせるでないわ」
まだ続くのかよ……。
「いらん」
こっちは米研ぎで忙しいんだ。
米を水に浸す時間、確か四十分間。
それを握り飯百五十個分だからな。
全部一度にできることじゃない。
握り飯を待つ連中は、受け取る順番を守って待つ。
水に浸す米も同様に順番待ちさせる感じだ。
「まぁそう言うな。仕事をしながらでも構わんよ」
そうしてこの鬼女は語り始めていった。
※※※※※ ※※※※※
「昔々ある所に、鬼の小さい女の子が」
きっとこいつのことだよな。
しかしものの言い方がおかしいな。
小さい女の子の鬼……あれ?
何かニュアンスが違うな。
小さい鬼の女の子……これもなんか違うか?
「神隠しに遭うた」
被害者かよ!
しかも神隠しに遭ったのかよ!
鬼なのに神隠しなのかよ!
「気付いたら、大木の太い枝の上。少女には高い場所。降りるに降りられんかった」
少女……まぁ少女だろうな。
コルトもシェイラも少女と言えばしょう……コホン。
「今にして思えば、『鬼がいるぞー』と言う子供らの声。その声に釣られてやってくる大人達。長い棒で突き落そうとしたり、木の幹に体当たりして、少女を枝から落とそうとしとった」
今にして思えば、って、思い出話じゃねぇか!
他人事みたいな話し方して、結局自分事って思いっきりばらしてんじゃねぇか!
「少女は怯えて木の幹にしがみつくしかできんかった。人間たちは、そのうちそこから立ち去っていった。何も危害を加えないってことが分かったんじゃろうな」
「そりゃ蚊だって血を吸わず、耳元でプーンなんて音立てなきゃ、線香炊いたり殺虫剤撒いたりはしないよな、うん」
「蚊トンボと一緒にするな」
蚊トンボなんて、そっちにもいるのかよ。
「元々その場所は人通りが少ない道に伝っておった林。一日、二日と経つが、元の場所に戻れんかった」
「……その間もちろん一人?」
「左様。一人きり。寂しかったが、何を考えてるか分からん人間に近寄られるよりは大分マシじゃった。それと、誰か助けに来てくれる、迎えに来てくれる、と思っておったしな」
鬼……なんだろうか?
鬼だったとしても、神通力とか何かあるもんじゃねぇの?
「三日目、ある男が一人、その木に近寄ってきた。そしてその木をよじ登り始めた。わ……少女は怯えた。じゃがの……」
今、私とか妾とかワシとか言おうとしたろ。
別に昔話の演出とか考えなくていいから。
面倒くさい奴だな、こいつも。
「少女が座っていた枝に到着すると、腰に付けていた包みを外し、少女に差し出した」
随分物好きな奴がいたものだ。
「『これ、食え。腹、減ってるろ?』と言いながらの。大人だと思うが、物の言い方が何となく頭がた……子供っぽい感じがしたの」
今、頭が足りない、とか言おうとしたよな?
分かりやすくていいけどさ。
「おにぎり、というもんだった。包みには二個入ってた。すぐに食べ終わった。食べ終わってから気付いた」
男の分まで食べてしまった、と思ったんだろ?
男は、気にするな、とか言ったんだろうよ。
「お前、降りられないのか? と聞いてきた。降りたら、もう二度と自分の家に帰れない、と思ったんじゃろ。木の幹に力いっぱいしがみついた」
その場から離れたら、見えない出入口から離れてしまうってことだよな。
そんなの、この部屋にいたら何となく気持ちは分かる。
「よし、分かった、と言うてな。その場からすぐに立ち去った」
何だよ。薄情だな。
物語はそれでお終いって感じじゃねえか。
「どこぞからか、木材を持って戻ってきた。何度も往復して、とにかくたくさんの木材を運んできた」
「家でも建てたか?」
「いや、櫓を組んだ」
「ヤグラぁ?」
おそらくこいつのそばに簡単に行き来できるようにってことだろうが、はしごをかければそれで済む話じゃねぇの?
「やぐらを組むだけにしては、木材は多すぎた。そしたら男はそれを足場にしての」
足場代わりに櫓を組んだ?
その男、何するつもりだ?
「少女がいた枝を床の一部にした部屋を作り始めた」
おいちょっと待て。
つまり何か?
よく無人島で生活するって物語をテレビで見たりしたが、枝の上に家を作るみたいな、アレをしたってのか?
「床を作り、柱をその隅に建て、屋根を作った」
おい。
壁はどうした。
「風が寒いから壁も欲しい、と願った。男は少女の言う通り、壁を作った」
まぁ当然だろ。
「出入口どうしよう、と、四方の壁ができた後で困っておったな」
だめじゃん!
でも、何か可愛いな、その男。
「幹の方に扉を作って、何とか部屋が完成した。少女のために作ったと言っておった。少女は泣いて喜んだ」
心細い女の子の味方か。
そりゃ心強かったろうな。
「じゃが男の仕事はそれで終わりではなくてな」
また何か仕事し忘れてたんだろ。
「どこからか、藁をたくさん持ってきた。布団代わりと言うには暖かくはないかもしれん、と言うてな」
肝心なところに気が回らず、そういうところには気が回るのか。
丸っきりバカってわけじゃないらしい。
「鬼の少女と男の奇妙な生活が、短いながらもそこで始まった」
「めでたしめでたし」
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