上 下
144 / 196
シルフ族の療法司ショーア

ショーアがちょっとだけ怖かった

しおりを挟む
「朝っぱらから何の話をしてるんですか」

 ショーアの意見に全く同意だ。
 することがなくて時間を持て余している、という状況は理解できる。
 暇つぶしの道具を持ち込む余裕はないはずだからな。
 だからといって、俺をいじるにしても、話題があまりに退屈過ぎないか?

「ショーアは彼氏とかいるの?」

 露骨すぎだろそれ。
 自分で自分を恥ずかしいと思わんか?

「それどころじゃありませんからね。それに……恋愛より憧れの対象はいますけど」
「え? 誰?」

 なんかこう、部屋の雰囲気が一気に変わったぞ?
 ここにいる連中が、おそらく聞き耳立てている。間違いなく。
 だが俺が、その雰囲気をぶち壊す!

「彼氏なだけに、カレーだろ? 献身を主義としてるこいつが、それを捻じ曲げるほどの力を持つ恐るべき料理、カレー……」

 ……うん。
 ぶち壊した。

 冷たい視線を浴びようとも、俺はだらけそうになる雰囲気になることを回避させたのだ!
 ここは日向ぼっこができる長閑な縁側などではない。
 再び死地に赴く冒険者達に与える、わずかな寛ぎの場なのだ!

「コウジさん……」
「何でしょうか? 『聖女』ショーアさん」

 ショーアのにこにこした顔の額に、何か青筋のようなものが見えるんですが、気のせいですよね?

「気だるくなっていく雰囲気が人を死なせることもあるんですから、気を付けていただきたいのですが?」
「そんな雰囲気の部屋から出て行っても簡単に死にそうにない人の場合、とっとと出発してもらう方が安全なケースもあるのですが?」
「……今は仕事に集中しません?」
「したいんだが、こいつらが話しかけてくる。無視してもいいが、雰囲気は殺伐になる。治療に専念できれば何でもいいだろうが、ここは俺の家の一部だからな? それを忘れるなよ?」

 ショーアは視線を俺から男戦士ともう一人の冒険者に視線を移した。

「あ……あ、俺、もう少しこの部屋で休ませてもらいたい気が」
「お、俺も……」

 ヘラヘラしてた顔が、一瞬にして青ざめる。
 人のこと、笑えねぇだろ?

「……体力は戻っても、気力がまだ回復しない場合もあります。……自重してくださいね?」
「「は、はい……」」

 だから、この部屋の主は誰か分かってるかね、ここにいる全員は。

 ※※※※※ ※※※※※

「私の家族、ですか?」

 握り飯の時間が終わった後も、あの男戦士がショーアに聞いている。
 しつこい性格だったのか?

「診療所なんて町中にもあるしさ。確かに現場にきちんとした施設の診療所がありゃ安心だけど、そこで働いてる人の家族は気が気じゃないだろう?」

 やましい気持ちで質問したわけではなさそうだ。
 確かに、家族がいたら心配するだろうな。

「俺らは仕事が終われば家に帰る。けどそっちはそうじゃなさそうだよな。いくつも診療所抱えてるんだろ?」
「私はもう一人立ちしてますし、一緒に住んでる家族に任せてます」

 その言い方だと、大家族って感じがするな。
 ま、こっちに問題起こさなきゃどうでもいいけど。

「……コウジさんのご家族は?」

 ……この話って、ここに押しかけてくる奴らの人数と同じ回数しなきゃいけないのか?

「一人暮らしだ。細かい説明は面倒くさい」
「あ……ごめんなさい……」

 何か、勘違いしてるな。
 もっとも誤解を解いたところで、盛り上がる話とも思えんが。

「こっちは気にしねぇよ。下らねぇこと言ってねぇで、仕事するか休むかしてな」

 ショーアも指輪の部屋の使い方の要領を得たようで、カートを使って米袋を運び込み始めた。
 やらなきゃいけない仕事をやってもらえると、こっちも他の仕事に手が回る。
 そういう面では、まぁ有難いことだわな。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したからモンスターと気ままに暮らします

ねこねこ大好き
ファンタジー
新庄麗夜は身長160cmと小柄な高校生、クラスメイトから酷いいじめを受けている。 彼は修学旅行の時、突然クラスメイト全員と異世界へ召喚される。 転移した先で王に開口一番、魔軍と戦い人類を救ってくれとお願いされる。 召喚された勇者は強力なギフト(ユニークスキル)を持っているから大丈夫とのこと。 言葉通り、クラスメイトは、獲得経験値×10万や魔力無限、レベル100から、無限製造スキルなど チートが山盛りだった。 対して麗夜のユニークスキルはただ一つ、「モンスターと会話できる」 それ以外はステータス補正も無い最弱状態。 クラスメイトには笑われ、王からも役立たずと見なされ追放されてしまう。 酷いものだと思いながら日銭を稼ごうとモンスターを狩ろうとする。 「ことばわかる?」 言葉の分かるスキルにより、麗夜とモンスターは一瞬で意気投合する。 「モンスターのほうが優しいし、こうなったらモンスターと一緒に暮らそう! どうせ役立たずだし!」 そうして麗夜はモンスターたちと気ままな生活を送る。 それが成長チートや生産チート、魔力チートなどあらゆるチートも凌駕するチートかも分からずに。 これはモンスターと会話できる。そんなチートを得た少年の気ままな日常である。 ------------------------------ 第12回ファンタジー小説大賞に応募しております! よろしければ投票ボタンを押していただけると嬉しいです! →結果は8位! 最終選考まで進めました!  皆さま応援ありがとうございます!

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

W職業持ちの異世界スローライフ

Nowel
ファンタジー
仕事の帰り道、トラックに轢かれた鈴木健一。 目が覚めるとそこは魂の世界だった。 橋の神様に異世界に転生か転移することを選ばせてもらい、転移することに。 転移先は森の中、神様に貰った力を使いこの森の中でスローライフを目指す。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

処理中です...