俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

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王女シェイラ=ミラージュ

シェイラの告白:敵か味方か

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 部屋のノートの中に、最初に見知った字を見た時は、おや? としか思わなかった。
 見知った字と言っても、フォーバー王国で使われる文字じゃなくて外国語だった。
 その文字はいくつかの国で使われてるから、どの国の人が書いたのかまでは分からなかった。
 ちなみにフォーバー語は、私が知ってる限りでは二十二地域。
 その言葉は十地域くらいだったはず。

 その文字を見た二度目の時は、流石に震えた。

 ※※※※※ ※※※※※

 国の兵士から受けた報告では、フォーバー王国の属国であるショーラー民国が完全独立を目指すために蜂起したと言っていた。

 属国といってもフォーバー王国の領土の一地方という扱いだったはず。
 だから何の苦役も負担もなく、他の地域と何にも変わらない。

 ショーラー民国の国民は、基本的には穏やかな気質の人達が多い。
 そのせいか、属国の立場とは言え実り豊かな国土を持っている。
 けれどその気質には悪しき面がある。

 私の国と隣接している国の一つ、セーラン帝国は昔から何度も私達の国に、小競り合いや諍いを仕掛けてきた。
 ショーラーはこの二つの大国に挟まれている。
 私達と同じようにショーラーは、幾度となく略奪行為を受けてきた。
 それをやり過ごす防衛能力がないらしい。

 そこで彼らは私達のフォーバー王国に助けを求めてきた。
 その見返りとして、金銭物品問わず国民同然に納税を提案。
 私達の国はそれを快諾した。

 ゼーラン帝国はショーラーを占領しようと、今まで何度も画策してきたみたいだった。
 けれど、ショーラーの国内総生産に悪影響を及ぼさず、国民に被害を出すことはなかった。

 私は王女の立場とは言え、はっきり言えば子供。
 それ位は自覚している。
 そして、将来この国を背負うことになるだろうくらいのことも想像できる。
 だからこそ、それなりにこの国のこと、世界のことも身につけるべき……とは思うけど。

 だから詳しい事情は聞いてはいないけど、大きな国の仕組みみたいなのは、普段からいろいろと勉強……させられてた。

 しなきゃいけないことの中にも、苦手なことってあるもの。

「国内中にあらゆる施設を作って、地域ごとの特色を生かしながらも様々な産業にも力を注いでるのは知ってますね?」

 学校でも勉強するけど、休日は家庭教師までつけられてる窮屈な生活。

「国民の誰もが、自分の特性や特技を活かせられるように、との国王の配慮なのです」
「ふーん。でもどの国もそうとは限らないんでしょ?」
「その通り。ゼーランを始め、いわゆる独裁主義が強い国々は、地域ごとにそれぞれ担当の分野を宛がってて、何とか局と名付けてるらしいわね」

 国によっていろいろ制度が違うみたいね。

「たとえば魔術研究なんかは、デュードル魔術学術局って呼ばれてるみたいよね」
「デュードルって呼ばれてる地域で研究されてるってこと?」
「そう。そして、ゼーラン国内でありながら母国語を使用されてないの」

 使えないから、知らないから。
 だから使わないという話じゃないらしい。

「……デュードルで研究された魔術なんかを本国に伝えて軍事に徴用するってこと……よね」
「その通りです。別の言語にしてるのは、研究の成果を外に漏れづらくするためらしいわね。けどそっちの言葉を理解出来ればややこしく考える必要はないのよね」

 確かにそうだ。
 ゼーランの母国語をそのまま使わせても、問題なさそうな気もするんだけど。

「ということで、デュードルで使われてる言葉も勉強します」
「えーっ!」
「えー、じゃないです。と言うか、世界の主要国の言語はマスターしてもらいますから」
「やだーっ!」

 語学は苦手。
 家庭教師の授業では、物理とともにとにかく逃げた。
 でもゼーランとデュードルは叩き込まれた。
 権力で脅そうとしても全然平気な顔して、とにかく机の前に縛り付けられた。

「王と王妃から言いつけられておりますので。なのでシェイラ王女からどんなに責められても、痛くもかゆくもありません」

 鬼教師。
 でも、その鬼っぷりがここで役に立つとは思わなかった。

 部屋のノートに書かれている、見憶えるある言語はデュードルの物だった。
 人の目があるからじっくり読むわけにはいかない。
 短時間で目に入る単語は限られている。
 それでも理解できたのは、アールという人名とデュードルという名の地名。

 ※※※※※ ※※※※※

 私に親し気にしてくるアール君がまさか……。
 私は何か、とんでもないことを口走っていなかっただろうか。

 ゼーランに利することをしてしまってはいないだろうかと不安になった。

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