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王女シェイラ=ミラージュ

騒動勃発 しかしシェイラは思ったように動けず

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 そっちの世界の事情はそっちで会話してくれ。
 俺は余計なことは知りたくないし、そっちだって自分の事情を知らない奴に口を挟まれたくはないだろう。

 例のガキはその三人から離れてプレハブの方のノートに何やら書き込んでいる。
 最近いろいろ書くようになったみたいだ。日記代わりにでもしてるのか。

 ま、夜の時間は消灯するだけ。
 これはシェイラに任せて、今日も何とか無事に終わった。
 戦争、なんて物騒な言葉を耳にしたが、ここで起きるのはせいぜい喧嘩くらいなものだろう。
 戦争に比べれば可愛いもんだ。

 ※※※※※ ※※※※※

 そして問題の時間がやってきた。

 朝の握り飯タイムの最中になだれ込んできた三人の……やはり兵士。
 体力は半分くらい回復したように見える、昨日やってきた二人の兵士はその三人を見て、それぞれの得物を三人に向けた。
 ガキは全く理解できずぽかんとしている。
 シェイラは怯えて固まる。

 周りの冒険者達はその二人を抑えるが、兵士の矛先はその三人からそんな連中に向けている。

「おい、お姫様よ、あいつら何とかしろよ」

 皮肉をたっぷり込めてシェイラに声をかけるが、身動きを取れないまま。

 何も知らなくても、昨日のシェイラの言葉で大体予想はつく。
 戦争の敵同士がここで鉢合わせたというわけだ。
 あれを仕切ることができるのはシェイラだけだろう。

 俺の脛を軽く蹴っただけでかなりの痛みを感じるほどの力を持ってる。
 二十キロの米袋を片手で平気な顔をして持てる力の持ち主。
 そんな奴にこんなことをしても罰は当たるまい。

 二十七才男が十四才の尻に、割と強めに蹴りを入れた。

「痛いっ!」
「痛い、じゃねぇよ。とっとと動け。あの二人何とかしろよ」
「何とか……って……」
「戦争してるとか何とか、そんなことやらかしてんだろ? お前の国はよ。ここは怪我人を休ませるところで、どこぞの国の支援をしてるわけじゃねぇ」
「だったらあの二人もまだ完全に」
「武器を振り回そうってくらいには元気になってる。ここを占領する気か? だったらこの壁も天井も取っ払ってもいいんだぞ? この国、どう動くかなぁ」

 シェイラの顔はさらに青くなった。
 どうなるかは想像できねぇだろ。
 けど、壁を取っ払えば、扉もなくなる。
 帰ることはできなくなる。

 粗方そんな想像でもしたんだろう。

「お前の手に余るんであれば、母ちゃんにここに来てもらえ。むしろそっちの方が話は早いかもな」

 王女一人を護衛もなしにここに寄こすくらいだ。
 何の権力も持ってないんじゃないか?
 そう考えるとつくづく箱入り娘だよな。

「そう……する……」

 己の無力さに打ちひしがれたか?
 だが今はそれどころじゃねぇよ。
 そっちの世界の火の粉が飛び火しようとしてるんだ。
 そこまで責任持てないなんて、当事者に言わせたくはねぇな。

 何かよたつきながら屋根裏部屋の壁の方に行ったが、ちと薬が効きすぎたか?
 ま、そこまで俺は責任持てねぇよ。

 って、なんでそこで下を向いて……また固まってやがる。
 床にノート落として、それを見てるっぽいが……今はそれどころじゃねぇだろう!

「行くなら行けよ! 止められるんなら止めろっての!」

 俺の声は、大きくなっていく騒ぎでシェイラには届いてなさそうだ。
 だがそのまま壁の向こうに消えてった。

 やれやれだ。
 後はこの騒ぎどうするかな……。
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