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王女シェイラ=ミラージュ

シェイラの手記:私も次第に

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 アール君がここに居ついて一か月くらい経つんだけど、何度かここに来たことがある人達からは、アール君より私の方に関心を向けてくる。

 私の前の、コウジの相棒を助けたことがある男の戦士とか、かれー? がどうのこうの喚いてた女の魔術師さんとか、そうそう、アール君の話し相手になってくれた弓戦士の仲間の槍の戦士の人とか……いろんな人から話しかけられた。

 そう言えば、コウジはアール君の名前知らないのよね。
 教えようとしても拒否するし。

「異世界と往復できないんだから、そんなのを知ったところで意味がない」

 とか言うし。

 でも考えてみれば、私だって時々屋根裏部屋の扉が開いて誰かが入って来るのを何度か見たことはある。
 けど、プレハブの壁から通り抜ける人ってコウジしかいないのよね。

「俺の世界じゃお前らみたいな種族を受け入れられる奴はほとんどいないと思うぞ? そう言うのが出てくる物語やアニメとかはたくさんあるけどな」

 なんてこと言ってた。
 だから誰もこの部屋に入れないようにしてるんだって。

「本当は、友達どころか知り合い、一人もいないんじゃない?」

 私だって、表面上かもしれないけど友達の一人や二人……どころじゃないわね。
 話しかけてくる人達は庶民の中にもいたもの。
 からかい半分で聞いてみた。
 けど、もしここに異世界の人達が誰も来なくなったら、この人はその後どうするつもりなんだろ?

「余計なお世話だ」

 まぁ私もそう思うんだけどね。
 でも私達の世話ばかりしてるようにしか見えないんだよね。
 それが、私達が来なくなったら、私達が世話していた時間って無駄になっちゃうんじゃないのかなーってさ。
 そのこと、この人気付いてんのかな?
 ま、好き好きだろうけどさ。

「でもあれだよな。コルトちゃんの歌もよかったけど、シェイラちゃんの術も有り難いよな」
「重体でも、握り飯一個で五割は治るって感じだもんな」

 そうだ。
 人のこと構ってられない。
 私は、私の出来ることがどこまで通用するか。
 自分の力を確信できるようになるまで、使いこなせるようになりたい。
 おにぎりにこの術をかけた初めの頃は、人の役に立ちたいって思うようになった。
 おにぎりの力だけじゃなく、私の力のことも、たくさんの人から認められるようになってからは、私のそんな目的が、さらに上のレベルに上がった感じになった。

「シェイラちゃんに付きまとってるあの子供も、なかなか甲斐甲斐しいじゃねぇか」
「でもコウジは全く会話しようとしてないよな? 部屋も作ってもらってないようだし……。コウジの相棒って訳じゃないのか」
「コウジの孫弟子って感じがしない? もちろんシェイラちゃんがコウジの直弟子……弟子?」

 弟子って……。
 錬金術の導師についてるアール君じゃあるまいし。

「シェイラお姉ちゃん、ノートのストックもそろそろなくなりそうなんだけど」

 っとと、そのアール君からお呼びがかかったか。
 って、ノートのストックもないの?!

「アール君、あなた、ノートにいろいろ書き過ぎじゃないの?」
「そんなことないよ。話聞いたら、前よりも部屋の出入りが激しくなったみたいだから、ノートに書く人も増えたんじゃないかって言われたよ?」

 自分が書こうとしたらいつの間にかページが埋まってて、知らないうちにストックまで使われてたんだって。

「コウジに直接言えばいいじゃない」
「言ったよ? でも聞こうとしないもん」

 しょうがないな。
 毛嫌いしてるのかしら?

 とりあえず、全部埋まったノート全部コウジに持ってくか。
 一、二、三……十冊?
 三十ページのノートか。
 ページ数の多いノート用意してもらった方がいいんじゃないかな?

「シェイラお姉ちゃん、一冊落としたよ」
「……アール君。他にすることないなら手伝うくらいしたら?」

 会話はまともにするようになったけど、こういう場面で気が回らないのも気になるわよね。

 表紙だけつまんで持ち上げたノート。
 中身が一部ちらっと見えたけど……見たことがある文字で文章が書かれてる。

 私の国の文字じゃないけど……見たことも言ったこともない異世界の文字にしては、見覚えのある文字の並び順もあるから、外国の文字かも。
 しかも結構書かれてるわね。

 あれ?
 その割には、屋根裏部屋の扉が開くのをもっと見てもいいはずなのに……。
 ま、気にするほどじゃないか。
 今すべきは、ノートの交換よね。
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