俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

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王女シェイラ=ミラージュ

拷問? とんでもございません ただ我々は昼食と夕食を普通に食べてただけです

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 翌朝の握り飯タイム。
 結果を言えば、その四人組の二人を捕縛した。
 魔法も便利なんだろうが、雑貨屋もなかなか捨てたもんじゃない。

 ガムテープ、なかなか便利だぞ。
 ぐるぐる巻きにするだけで捕縛できた。

 いくらか回復したその男とシェイラは、屋根裏部屋の入り口からは死角になるショーケースの陰に隠れて入り口を観察。
 双剣の男は入り口のそばにガムテープを持って待機。
 その四人と面識のない双剣の戦士は、二人からの合図で後ろからガムテープを巻き付ける。

 事前にここにいる連中に説明しておいたから、みんなが協力的だった。
 ただ、俺への守銭奴という噂にみんな怒って、その怒気を抑えてもらうのには難儀したが。

 四人組の二人が別々で部屋にやってきたのは幸運だった。
 二人一緒だったらどうなってたか分からない。
 怪我人が出る程度ならまぁ妥協しようか。
 死亡者が出たなら目も当てられない。
 負傷者数がゼロでよかった。

 俺の隣にいた昨日の怪我人の男とシェイラは一緒に立ち上がり、拘束した二人の男をプレハブの隅に転がした。
 そして握り飯の時間が終わる。

 四人組というシェイラの推測は、元怪我人の冒険者の証言により確定した。
 握り飯の時間が終わってから彼らがここに来ることはないだろう、ということで取り調べを始めることになったんだが。

「さて、と……」
「取り調べるか」

 シェイラは二人を見下ろしながらそんなことを言う。
 容疑者二人は口もガムテープで貼られ、もごもご言ってるがよく聞こえん。

 俺はその場から遠ざかる。
 握り飯を作るだけが仕事じゃないからな。
 雑貨屋の方にも顔を出さないと……。

「コウジ。お前がいなくてどうする」
「そうだな。できればコウジさんにも立ち会ってもらいたいんだが」
「すみませんが、お願いできませんでしょうか?」

 つったってなぁ……。
 断罪したい気持ちは分からんでもないけどさ。
 こいつらを強制的に何かをさせる力なんかありゃしない。
 この日本だって、裁判で出た判決の通りに被告人が動けないこともあるらしいし。

 それに、もう二人がいつ来るか分からんしな。

「四人そろってからの方が良くね?」

 三人は見合わせる。

「こいつらが戻ってこない。残りの二人は当然変に思うだろうし、金づるが来ないんだから偵察には来る必要はあるだろ?」

 俺の提案に三人は頷いた。

「それまで、こいつらこのまま放置。守銭奴の噂が流れる程までいい思いをしたんだから、それくらいは我慢できるだろ? 人生いいことばかりじゃないぜ? なんせ俺は三度も脛を蹴られた」
「それは今関係のないことだろう」

 シェイラの睨む目が、いつより増して怒りの色が濃い。
 けどそんな目で俺を睨まんでもいいだろうよ。

「ところで俺は気まぐれでな」
「何を唐突に」
「いや、今日はお昼も握り飯……塩だけだが、振舞おうと思ってな」

 ただの気まぐれだ。
 ガムテープを巻かれて身動きできない奴に、体力回復の効果がある握り飯をみんなで食べる姿を見せつけようなんてこと、夢にも考えてないから。
 もし見せつけるなら、具入りの握り飯を作るはずだからな。

「なるほど。こいつらに私達が握り飯を食べる姿を見せつけようって言うんだな? ならせっかくだからこないだの昼の塩おにぎりじゃなく、いつもの握り飯にしないか?」

 おいおいシェイラ。
 それは人としてどうかと思うぞ?
 流石にそれはあまりに可哀そう。

 ……あ、忘れてた。

「そう言えばこいつらを捕まえるのに、みんなから協力してもらったことだし……」
「そう言えばそうでした」
「……握り飯じゃなくてカレーにしようか。ゴミが増えるから握り飯にしてたんだけど、それくらいはこっちで引き受けるくらいの功労者だからな、みんなは」
「かれー? 何だそれは」

 シェイラにはうどんは食わせたことはあったが、カレーうどんはまだだったな。
 うどんじゃなくてライスにしてみようか。

 あ、この二人に匂いを嗅がせたり、美味しそうな顔を見せつけるつもりはないんだからな?
 ここにいる全員に、労をねぎらう意味で差し入れるだけなんだからな?

 他意はないぞ?

 ※※※※※ ※※※※※

 さて。
 俺は、こう言った。
 昼も握り飯を作ろう と。

 そしてこうも言った。
 握り飯じゃなくてカレーにしよう と。

 更にこうも言った。
 みんなに労をねぎらう意味でカレーにする と。

 そう。
 労をねぎらう意味でカレーにしようとしたのだ。

 あのあと、辛い物を食えるかどうかの確認をした。
 苦手なのはシェイラだけだった。
 一人分は甘口で。後は中辛で。

 そして、だ。
 労をねぎらう回数は、俺は一回きりとは言ってない。

 約二名と四名を除いて、よくもまぁ一品だけの料理で盛り上がるもんだと思うよ?
 四名とは言わずと知れた俺達だが、予想通りその仲間が入って来てすぐに、あの二人と同じようにガムテープで身柄を確保。

 全員を拘束した後で、俺も含めてようやくみんな、晩飯にありつけた。

 先に捕まった二人が、何やらこっちを見てるんだが、別に見せつけようなどと思ってもいないからな?
 勝手に見る方が悪いのだ。

「シェイラー」
「何? コウジ」
「お前の部屋にスプレーあったろ?」
「あ、あの缶の?」
「うん。消臭剤だから、片付け終わったら二部屋中にかけといてくれ」
「はーい」

 なんかこう……。
 久々に和んだ晩飯時だったような気がする。
 こういうのもいいもんだな。

 食った連中が一々感想を言ってくるのがうざかった。
 それと、明日も頼む、とリクエストを言ってくる奴らもな。
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