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王女シェイラ=ミラージュ

関心がないから仕方がないが、俺の観察力は相当低いのかもな

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「コウジ、あのさ」

 シェイラがここに来て一か月。
 シェイラが加えた握り飯効果も各異世界で噂になりつつあるんだそうだ。

 だがこいつは、仕事には真摯に取り組むが、この部屋に初めて来た者へは高飛車なお嬢様って感じな態度で接している。
 簡単には性格は変わらないか?
 俺との会話はすっかりタメ口になってる。
 二十七才と十四才でタメ口の会話か……。
 俺は別に気にしねぇよ。
 いずれはここから立ち去る相手だ。
 その後の心配は、俺がするこっちゃねぇな。

「何だよ」
「コウジ、知ってる? なんか、しょっちゅう同じ顔が来てるの」
「そりゃ来ることもあるだろうよ。っつーか、分身の術でも使ってんのか?」

 唐突に報告に来られてもな。
 相手が理解できるような説明も入れろっての。

「そうじゃなくて。同一人物が二日おきくらいのペースで何度も来てるの」
「別にいいだろ。同一かどうか分かんねぇし」

 異世界間で同じ顔の人物がいる可能性だってある。
 異世界から日本人がやってくるくらいだし。

「私だってそう思ったわよ。でも装備は同じだし、能力だって同じよ、あいつら」
「ふーん……。ん?」

 ……ちょっと待て。
 同一人物を呼んで「あいつら」ってどういうことよ?

「何だよ、その言い方。変だぞ?」
「変じゃないわよ。何人かが二日くらい間をおいてここに来て、おにぎり受け取って、食べずに退室していくの」
「……で?」
「おかしいじゃない。何度もここに戻ってくるくらい大変なら、ここで休養取って力蓄えてから出て行けばいいでしょ?」

 そんなことを言われても、俺にはどうしようもないわけでな。

「しかも同じ時期に……三……四人くらいかしら? おかしいでしょ?」
「おかしいとしてもだ。それをどうするってんだ。お前が見える扉が開いてそいつらは来るのか?」
「閉じたまま……だけど……」

 急に威勢が弱くなったなおい。
 ま、俺の言いたいことは理解してるってことだよな。

「同じ世界から来た連中なら何か考えがあったりするんだろうが、その証明は俺にもお前にもできない。だから何とも動きようがないってことだ。まぁ毒にはならんから何の心配もしなくていいだろうがな」
「でも独り占めしてるのかもしれないじゃない?」
「どうやって? それと、ここに全員が長期間滞在すると、ここに入りたくても入れず、そのまま息絶える奴だっているかもしれない」

 前々から懸念していた一つではある。
 杞憂かもしれんし神経質かもしれんが、あり得ない話じゃない。

「だが入ってはすぐ出ていくってことは、次に入って来る奴の待ち時間は長くないってことだ。ここに入れる倍率だって相当高いかもしれん」

 そう。
 事実、プレハブができて屋根裏部屋と繋がった時は、次々と避難者が入って来てたからな。
 増築しようと思えばできなくはないだろうが、軒下を貸して母屋を取られかねない事態になったら大変だし、暴動が起きたら、徒手でもまず間違いなく破壊されるだろう。

 そもそも増築する理由がない。
 プレハブを作ったのは、献身的に働いていたコルトのためだったからな。

 それにだ。

「俺は、ここに来る奴らに握り飯を作ってる。そしてそのほとんどが命がヤバいって奴らだ。ごく一部は平然としたままここに来ることができるようだが」

 それを許容しているのは一人、もしくは二人。
 この店の収入を陰で支えてくれてるテンシュさん。そしてその連れ合いのエルフのみ。

 許容してないが、その気になれば平然と入って来るシェイラの母親。
 なんつったっけ?
 サー……、まぁいいや。どこぞの国の女王をしてる、娘も相当だからさらに段違いのいろんな力を上回ってる女傑。

 あとは俺の握り飯目当てに命を懸けてる数人の冒険者達くらいか。
 今でも時々コルトの歌声目当てに来る奴らはいるが、みな一様にがっくりと肩を落として、握り飯食らって感激して帰っていく。
 なんなんだろうな、あいつらは。

 とにかくだ。
 入れ違いが激しければ激しいほど、助かる命の数も増えるのは間違いない。

「だから、瀕死の重傷でやむを得ず長期滞在する奴らは仕方ないとしても、そうでなければ握り飯受け取ったらすぐに出る。それはある意味理想ってば理想だよな」
「助かる人の数が多くなる……それに異議はないけど……」

 シェイラは、やるせない怒りがこもった不満を顔に出した。
 けどそんな顔を俺に見せたって何ともならんし、そもそもまだお前の憶測の段階だろ?
 まぁその予想は外れとも思えないけどな。

 だが、当たったからと言って俺らには何にも動きようがない。
 何と言うかシェイラは……執着しすぎじゃね?
 修業が足らんな、うん。

 何の修行が必要かは分からんけどな!
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