俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

文字の大きさ
上 下
89 / 196
未熟な冒険者のコルト

コルトの進路

しおりを挟む
「コウジさん……」

 雑用を一通り済ませたあとは、夜の握り飯タイムに備える。
 が、コルトが不安そうな顔をして近寄って来る。
 めんどくさい話が出て来なきゃいいが。

「私……スカウトされた」
「はい?」

 ※※※※※ ※※※※※

 夜の握り飯タイムの後。
 コルトの歌が終わってみんなが寝静まった時間。

「ま、四人くらいならいいよな」
「わ、私は別に気にしませんけど」

 ドライヤーを貸している。

 コルトは寝る前に服を洗い、ドライヤーで乾かす。
 流石にこれは申し訳ないと思う。
 しかしそれしか方法はない。
 店の品物に風呂敷などがある。
 コルトがそれでもいいというから、それをあげた。

 風呂敷を裁断して下着にしたり服にしたり。
 なかなか器用なことをする。

 服もどき。まあ服でもいいんだが。
 その服もそんなに数が多くない。
 私物があれば他人を部屋に入れるのを躊躇してたと思う。

「私はずっとここにいるつもりでしたけど、それでも何となくこの部屋、借り物のような気がするんですよね」

 セレナと呼ばれた女エルフ。
 彼女からテンシュと呼ばれてる宝石職人とやらの男、そして俺。
 コルトに持ち掛けられた話について、相談に乗ってほしいと言われた。

「行けばいいじゃねぇか」
「コウジさん、冷たいっ」

 ということで、四人でコルトの部屋で話し合い、というわけだ。

 口火を切る……というか、提案したのはこの店主とやらだった。

「まず、軽く自己紹介すると、いろんな物や人が持っている力を見ることができるんだ。で……コルトちゃん、だっけか。彼女は特殊な力を持ってるのは分かった」
「この人、宝石が専門なんだけど、私の世界に来てからは他の物が持つ力も詳しく見ることができるようになっちゃって……」
「セレナ、余計な事言わなくていい。で、その力を自分の世界で発揮してはどうか、と思ってな」

 道理だな。
 俺が反対意見を持つはずがない。
 だがしかし。

「私……何にも怯えることなく毎日を穏やかに過ごしたいんです。ここだと、誰からも嫌な役目を押し付けられずに生活できますし……」

 強くなった。
 そう思ったんだがな。

「テンシュさん、と言いましたか? いきなりそんな話を切り出したのは、何か当てがあるんですか?」

 コルトを自分の世界に連れて行こうとする者達は今まで何人かいた。
 他の世界には行けないが、かつての仲間達が強引に連れ帰ろうとしたこともあった。

 この男、強引に連れて帰ろうとするのではなく、こうして膝を突き合わせて話し合いを求めてきた。
 連中よりは好感は持てるし、大雑把な人物評はコルトが把握しているようだ。
 だからあいつらよりは安心だろうな。
 けどコルトはどう思うか、なんだよな。

 コルトがいなくなったら、『畑中雑貨店』の経営が難しくはなるだろう。
 だがそれはコルトの責任じゃないし、コルトの役目じゃない。
 こいつの厚意に俺が甘えてるだけだ。
 だから帰るのを希望したら、その対策を俺が考える。ただそれだけだ。

 となると、この男が抱える課題は、コルトを説得できる材料があるかどうか、なんだが……。

「特別な力とか、強大な力を持つ者ってのは、役目を果たすと厄介者になりかねないんだよな」

 いきなりコルトをビビらすようなことを言ってきたよこいつ。
 ……ほれ、ビビってる。
 ちょっと体震えてんぞ、コルト。

「だがコルトちゃんの場合は、まず誰かを傷つける力ではないってことがその例外の一つになりそうだ」

 だが無理やり眠らせることもできなくはない。
 その間、当たり前だが眠る以外に行動を起こせない。
 力の使い方によってはかなりヤバいんだよな。

「で、ただ帰るってことじゃない。雇い主がいる。ババ……コホン。ウルヴェスだ」

 何のことかよく分からん。
 どんな奴かも分からんし。
 ただ、コルトは固まっている。

「て……天流法国時代の……ですよね」
「そ。でも国王の座はライリーに譲位して、天流教主になったのよね」
「あいつもコルトちゃんの噂を耳にしている。仕事柄迷宮とかダンジョンによく足を運ぶようになってな」

 そのウル何とかから常々託されてるらしい。
 そのエルフの女の子にあったら声をかけてくれ、みたいな?
 つまりこいつの独断専行なんかじゃなく、受け皿はずっと前から用意されているってことか。

 にしても、宗教ねぇ。
 そのトップに立つ者ってぇと、些かまともじゃないような気がするがなぁ。

「時の権力者、ってイメージが拭えないな。クーデター起こされりゃコルトもただじゃ済まないだろ」
「多分ないな」
「ないわね。権力なんてないもの」

 なんだそりゃ。

「絶大な魔力は持ってる。だがそれ以上にしたたか……というか、賢さが高い」
「テンシュはそっち方面しか見ないものね。慈悲もあるわよ? でも明らかに反抗した場合は容赦ないけど」

 しかし権力がないってことは、権力争いは生じない。
 本人の取り巻き同士の争いは起きるだろう。
 そこに巻き込まれる可能性はあるなー。

 でも宗教っつったらなぁ。
 ま、それは向こうの世界の事情だな。
 いずれ、この部屋にいつまでもいるのは、こいつにとってはいい環境とは思えん。
 それに……。

 コルトは俺に縋るような顔を向けた。

 自分がいなくなったら、ここはどうなるのか。

 そんなことを言いたげな顔でもある。
 自分の占める影響力を大きくして、それを理由に留まろうと考えているのか。
 たしかにコルトがいなくなったら、俺個人としてはかなり痛い。

「コルト。俺は……」

 三人は俺を注視している。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

スキル:浮遊都市 がチートすぎて使えない。

赤木 咲夜
ファンタジー
世界に30個のダンジョンができ、世界中の人が一人一つスキルを手に入れた。 そのスキルで使える能力は一つとは限らないし、そもそもそのスキルが固有であるとも限らない。 変身スキル(ドラゴン)、召喚スキル、鍛冶スキルのような異世界のようなスキルもあれば、翻訳スキル、記憶スキルのように努力すれば同じことができそうなスキルまで無数にある。 魔法スキルのように魔力とレベルに影響されるスキルもあれば、絶対切断スキルのようにレベルも魔力も関係ないスキルもある。 すべては気まぐれに決めた神の気分 新たな世界競争に翻弄される国、次々と変わる制度や法律、スキルおかげで転職でき、スキルのせいで地位を追われる。 そんななか16歳の青年は世界に一つだけしかない、超チートスキルを手に入れる。 不定期です。章が終わるまで、設定変更で細かい変更をすることがあります。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

特典付きの錬金術師は異世界で無双したい。

TEFt
ファンタジー
しがないボッチの高校生の元に届いた謎のメール。それは訳のわからないアンケートであった。内容は記載されている職業を選ぶこと。思いつきでついついクリックしてしまった彼に訪れたのは死。そこから、彼のSecond life が今始まる___。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

婚約破棄された国から追放された聖女は隣国で幸せを掴みます。

なつめ猫
ファンタジー
王太子殿下の卒業パーティで婚約破棄を告げられた公爵令嬢アマーリエは、王太子より国から出ていけと脅されてしまう。 王妃としての教育を受けてきたアマーリエは、女神により転生させられた日本人であり世界で唯一の精霊魔法と聖女の力を持つ稀有な存在であったが、国に愛想を尽かし他国へと出ていってしまうのだった。

処理中です...