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未熟な冒険者のコルト
優雅な来訪者
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異世界からの来訪者……避難民? に握り飯を提供する仕事……というか、作業? を始めて、そろそろ六年目になる。
プレハブの窓から見えるつららも、太陽の光を浴びながら雫を一滴、二滴と落としながら短くなっていく。
日のあたる場所は日向ぼっこで気持ちがいい特等席。
重症者がいなければ、その席の、見てて微笑ましい争奪戦が見られる。
完全に体調が復活したら、また死地に赴く彼らだ。
束の間ののどかな時間くらいは、ある程度は自由にしてやろう。
敢えて言おう。
俺はごく普通の一般人だ。
体力だってこいつらよりもはるかに下だ。
力づくで握り飯を奪われたら、奪い返すのはほぼ無理だ。
だから暴力沙汰が起きたら困る。
だが血の気の多い奴はここには来ない。
まぁ俺をトラブルに巻き込むことと取り返しがつかないこと以外なら何があっても気にはしない。
この部屋にはいろんな世界から、いろんな種族の者達がやって来る。
俺と同じ日本人でも気に食わない奴がいれば気の置けない奴もいる。
異世界の連中もおんなじだ。
だから、そんな何かをしでかすことよりも、俺への風当たりがきつい奴だったり握り飯を受け取る行列を乱す奴なんかの方が、俺にとっては取っつきづらい。
そんな奴らは、なるべく来てほしくないというのが本音だ。
こんな雪解けが進む季節には特にな。
冷暖房完備で外気をシャットアウトしているこの空間でも、一年の気候の変化は感じ取れる。
もっともそんな変な奴はしょっちゅう来るわけじゃない。
来たとしても数少ない事例。
そして俺の印象も良くないからなおさら目立つ。
その分記憶に残りやすい。
けどな。
ここに来る連中の中には礼儀正しい奴もいるよ?
その態度や姿勢を見れば大体どんな奴かすぐ分かるようになった。
凶悪そうな体格の奴もいる。
しかし見た目に騙されることはほとんどない。
見た目通りの奴もいれば、可愛く感じられる奴もいた。
礼儀正しい奴の中には、握り飯一個に対して何度も頭を下げる奴もいる。
気持ちは有り難いんだが、その一人に丁寧に対応してる場合じゃない。
一度の握り飯タイムに百五十個配る。
行列の途中でも配ってるから百五十人を相手にしてるわけじゃないが、半数くらいはショーケースの前で受け取る。握り飯タイムの間も部屋の出入りはあるからな。
だから逆に、礼儀正しい奴らの印象は薄いって訳だ。
まぁクレーム付ける程度じゃ顔も種族も一々覚えてらんないけどな。
だが……。
こんなことは、俺がこの仕事をして丸五年。六年目に入ろうとしているが、初めてのことだった。
握り飯タイムはいつものように異世界人達が握り飯を受け取っていく。
生気がないまま壁に寄り掛かって座り、誰かから手渡される者もいれば、有り難がりながらトレイの上から持っていく者もいる。
一個じゃ足りないと不満を言いながら受け取る者もいれば、やっとの思いで握り飯に手を伸ばす者もいる。
そしてその時間の後の、いつものコルトの歌の時間。
救世主の渾名を押し付けたが、そんなあやふやな二つ名なんかかすんでしまうくらい、聞く者の顔を安らかにさせている。
ほんとに、こいつに相応しい二つ名とか職業名、ありそうな気がするんだがな。
医学の力で患者を治すのを医療士とするなら、歌療士なんてのがあってもいいような気がするんだから。
何とかセラピスト、なんてのは当てはまるだろう。
けど、異世界にそんな名称があるとも思えんし。
まぁそんな彼女の活動中は、俺は巻き込まれるのはご免だからプレハブから退室してる。
一応防音はしている。
が、出入り口のドアはガラス張り。
部屋の外から中の様子は伺えるし、気配のかすかな変化くらいは感じられる。
コルトも気持ちよく部屋中にその声を響き渡らせている。
が、コルトの動きが突然止まった。
歌声も止まったようだ。
まだ眠りに就いてない冒険者達は、屋根裏部屋の方に注目している。
いや、厳密にいえば、異世界との扉があると思われる、屋根裏部屋の壁の方だ。
コルトはオロオロし出している。
久しぶりに見るな、あんなうろたえたコルトは。
って、のんびり観察している場合じゃない。
眠っている連中もいる。
静かにプレハブの中に入っていった。
「どうした? コルト」
「コウジさんっ。ちょっと……とんでもない人が……いえ、お方? が」
何でそんな呼び方で、しかも疑問符が?
「何だよ。一体いいぃぃぃい?!」
いつからここはファッションショーになった?!
「ふむ……。そなたがここの主か? イゾウはどうした?」
何だその上から目線の物言いは。
って言うか、イゾウ?
何だそりゃ?
いや、それよりも、何と言うか……。
俺より身長の高い……女性だよな。
白が目立つ、表面積がやたら広いドレス姿で頭には花冠。
そして背中から生えていると思われる、カラフルで大きな蝶の羽。
羽毛っぽい物がその先に付けられている扇で口元を隠している。
俺の頭の中に、「春先の昼の夢」っていうフレーズが頭に浮かんですぐ消えた。
プレハブの窓から見えるつららも、太陽の光を浴びながら雫を一滴、二滴と落としながら短くなっていく。
日のあたる場所は日向ぼっこで気持ちがいい特等席。
重症者がいなければ、その席の、見てて微笑ましい争奪戦が見られる。
完全に体調が復活したら、また死地に赴く彼らだ。
束の間ののどかな時間くらいは、ある程度は自由にしてやろう。
敢えて言おう。
俺はごく普通の一般人だ。
体力だってこいつらよりもはるかに下だ。
力づくで握り飯を奪われたら、奪い返すのはほぼ無理だ。
だから暴力沙汰が起きたら困る。
だが血の気の多い奴はここには来ない。
まぁ俺をトラブルに巻き込むことと取り返しがつかないこと以外なら何があっても気にはしない。
この部屋にはいろんな世界から、いろんな種族の者達がやって来る。
俺と同じ日本人でも気に食わない奴がいれば気の置けない奴もいる。
異世界の連中もおんなじだ。
だから、そんな何かをしでかすことよりも、俺への風当たりがきつい奴だったり握り飯を受け取る行列を乱す奴なんかの方が、俺にとっては取っつきづらい。
そんな奴らは、なるべく来てほしくないというのが本音だ。
こんな雪解けが進む季節には特にな。
冷暖房完備で外気をシャットアウトしているこの空間でも、一年の気候の変化は感じ取れる。
もっともそんな変な奴はしょっちゅう来るわけじゃない。
来たとしても数少ない事例。
そして俺の印象も良くないからなおさら目立つ。
その分記憶に残りやすい。
けどな。
ここに来る連中の中には礼儀正しい奴もいるよ?
その態度や姿勢を見れば大体どんな奴かすぐ分かるようになった。
凶悪そうな体格の奴もいる。
しかし見た目に騙されることはほとんどない。
見た目通りの奴もいれば、可愛く感じられる奴もいた。
礼儀正しい奴の中には、握り飯一個に対して何度も頭を下げる奴もいる。
気持ちは有り難いんだが、その一人に丁寧に対応してる場合じゃない。
一度の握り飯タイムに百五十個配る。
行列の途中でも配ってるから百五十人を相手にしてるわけじゃないが、半数くらいはショーケースの前で受け取る。握り飯タイムの間も部屋の出入りはあるからな。
だから逆に、礼儀正しい奴らの印象は薄いって訳だ。
まぁクレーム付ける程度じゃ顔も種族も一々覚えてらんないけどな。
だが……。
こんなことは、俺がこの仕事をして丸五年。六年目に入ろうとしているが、初めてのことだった。
握り飯タイムはいつものように異世界人達が握り飯を受け取っていく。
生気がないまま壁に寄り掛かって座り、誰かから手渡される者もいれば、有り難がりながらトレイの上から持っていく者もいる。
一個じゃ足りないと不満を言いながら受け取る者もいれば、やっとの思いで握り飯に手を伸ばす者もいる。
そしてその時間の後の、いつものコルトの歌の時間。
救世主の渾名を押し付けたが、そんなあやふやな二つ名なんかかすんでしまうくらい、聞く者の顔を安らかにさせている。
ほんとに、こいつに相応しい二つ名とか職業名、ありそうな気がするんだがな。
医学の力で患者を治すのを医療士とするなら、歌療士なんてのがあってもいいような気がするんだから。
何とかセラピスト、なんてのは当てはまるだろう。
けど、異世界にそんな名称があるとも思えんし。
まぁそんな彼女の活動中は、俺は巻き込まれるのはご免だからプレハブから退室してる。
一応防音はしている。
が、出入り口のドアはガラス張り。
部屋の外から中の様子は伺えるし、気配のかすかな変化くらいは感じられる。
コルトも気持ちよく部屋中にその声を響き渡らせている。
が、コルトの動きが突然止まった。
歌声も止まったようだ。
まだ眠りに就いてない冒険者達は、屋根裏部屋の方に注目している。
いや、厳密にいえば、異世界との扉があると思われる、屋根裏部屋の壁の方だ。
コルトはオロオロし出している。
久しぶりに見るな、あんなうろたえたコルトは。
って、のんびり観察している場合じゃない。
眠っている連中もいる。
静かにプレハブの中に入っていった。
「どうした? コルト」
「コウジさんっ。ちょっと……とんでもない人が……いえ、お方? が」
何でそんな呼び方で、しかも疑問符が?
「何だよ。一体いいぃぃぃい?!」
いつからここはファッションショーになった?!
「ふむ……。そなたがここの主か? イゾウはどうした?」
何だその上から目線の物言いは。
って言うか、イゾウ?
何だそりゃ?
いや、それよりも、何と言うか……。
俺より身長の高い……女性だよな。
白が目立つ、表面積がやたら広いドレス姿で頭には花冠。
そして背中から生えていると思われる、カラフルで大きな蝶の羽。
羽毛っぽい物がその先に付けられている扇で口元を隠している。
俺の頭の中に、「春先の昼の夢」っていうフレーズが頭に浮かんですぐ消えた。
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