68 / 196
未熟な冒険者のコルト
コルトの手記:頑張ってる姿は、誰かが見てる それとあのメニュー、美味しかった!
しおりを挟む
女魔法剣士さんがこの部屋から出て行った。
あのピンチを切り抜けそうなくらい十分回復したから帰るって。
最後に「コルトちゃんのおかげで助かったわ」って言ってくれた。
ちょっとだけ泣いた。
結局、あの人の名前聞けなかった。
あの人も思い直したらしい。
「私も善人じゃないからねー。再会した時には、恩着せがましいこと言っちゃうかもしれないし」
って、いたずらっぽく笑ってた。
恥ずかしい思いはまだ消えない。
けど、それで元気になってくれる人がたくさんいるなら、頑張ってみようと思った。
だって何もしなければ、今までと同じままだもの。
「へたくそー」
とか言われるかと思った。
「聞こえないぞー」
って言われるかと思った。
魔法剣士さんみたいに、私を擁護してくれる人いなくなったから。
コウジさんは相変わらず。
確かに私のことをそれなりに目をかけてくれるけど、魔法や魔力、コウジさん以外の世界の話題になると関知しないって感じになるの。
だから私のことは、私が考えなきゃいけない。
自分の能力のこと、自分に出来ること、そのほかいろいろ。
でも、当たり前のことなんだけどね。
それでもやっぱり、バツの時間は恥ずかしいよー。
だから最初は、力いっぱい目をつぶりながら歌ってた。
少しだけ気になって、薄目で周りを見てみた。
みんな私のこと注目してたりするのかなって。
どうしても気になって。
そしたら、そばで聞いてる人達は……眠ってた。
楽な姿勢で、みんな穏やかな顔をして寝てた。
最初は遠くにいた人達も、いつの間にか近くに寄って来てて体を横にしてた。
歌ってる間、そんな不満の声は聞こえなかった。
聞きたい人は、私の声が聞こえる所に移動してた。
私がもっと大きな声を出せたら、その人達は移動せずに済んだんだよね。
次のバツの時間は、もう少し大きな声を出してみた。
移動する人も増えた感じだけど、ちょこっと動いたって感じ。
聞こえる範囲が増えたってことだよね。
時々、私を見る人もいる。
って言うか、見る人が増えた。
でも見られる時間はそんなに増えてない。
みんなすぐに眠っちゃうから。
毎回歌い終わって部屋を見渡すと、聞いていた人はみんな静かに寝息を立ててた。
で、コウジさんが毎回「お疲れ」って言って、私の食事を持ってきてくれる。
食事と後片付け、そしてその後のみんなの目が覚めるまでの時間が、顔が真っ赤になるくらい恥ずかしかった私の気持ちを静める時間。
みんなに歌ってる姿を見られてるっていう恥ずかしい思いもあるけど、回数を重ねていくうちに、みんなを休ませられる力があるんだって言う自覚も出てきた。
プレハブの方で歌ってたんだけど、真ん中で歌えばみんながその場で休められるって考えて、魔法剣士さんのアドバイスのことも思い出して、声の出し方とかを工夫するようになった。
目が覚めた後のみんなから褒められることが多くなったけど、褒められるのも恥ずかしいよね。
でも、ある日の昼のこと、みんなに歌を聞かせて歌い終わった後。
「お疲れ。昼飯、もう持ってってるぞ。さっさと食い終われ。でないとまずいぞ」
私は首を傾げた。
だって、早く食べ終わらないとまずいっていう言い方がおかしいじゃない?
部屋の中に入ったら、ちょっと匂いが強い物があった。
「……これ……まさか……」
「おう。カレーうどん。二人分。ただしお代わりもついてる」
「……!」
すっかり忘れてたけど、食べたかったあのうどん!
まさか私のお昼ご飯に出てくるなんてっ……!
「言っとくが、バツをやったご褒美じゃねぇぞ?」
え?
えーと、じゃあどう解釈すれば?
「そんな子供だましの気持ちじゃねぇよ。あんな風に、一度に全員が安心して休んでたことなんて一度もなかったからな。お前への労いの気持ちだよ」
え、えーと……。
「恥ずかしい思いを堪えて、自分の成長を目的にバツを受けてんだ。頑張ったねーよしよし、なんて気持ちで出せるかよ」
つ、つまり……。
「ご苦労さん、まず、食え。ってことだよ。早く食わねぇと匂いで連中が目を覚ますぞ?」
「あ、そ、それはまずいですね」
「まずいと思うなら食わなくていい」
「そのまずいじゃありませんっ! いただきますっ」
初めて一口目から食べ終わるまでカレーうどん、堪能しましたっ!
今まで何度も外食したことあるけど、こんな美味しいの食べたことないっ!
お代わりもしっかりいただきました。
「おいしかったー」
「有り難い、と思ったか?」
「うん! とってもおいしかった! 有り難うございますっ!」
「多分それだよ」
「何がです?」
「……今、眠ってる連中が、お前に向けてる思いだよ」
思いもしない言葉が耳に入って来て、咄嗟に返事ができませんでした。
「……やれやれだ。大げさだな。泣いてる暇なんかねぇぞ。とっとと片付けて消臭剤ぶっかけろ!」
……私、泣いてたみたい。
美味しかったのと、その気持ちで。
今までのお昼もおにぎりで時々うどんだったけど、この日から毎日のお昼はうどんになりました。
で、カレーうどんは時々出るようになりました。
ところで、しばらくしてからコウジさんが、
「いたずらで激辛やってみたけど、まさか普通に食えるとはな……」
って、よく分からないことを言ってた。
何なんだろうな。
あのピンチを切り抜けそうなくらい十分回復したから帰るって。
最後に「コルトちゃんのおかげで助かったわ」って言ってくれた。
ちょっとだけ泣いた。
結局、あの人の名前聞けなかった。
あの人も思い直したらしい。
「私も善人じゃないからねー。再会した時には、恩着せがましいこと言っちゃうかもしれないし」
って、いたずらっぽく笑ってた。
恥ずかしい思いはまだ消えない。
けど、それで元気になってくれる人がたくさんいるなら、頑張ってみようと思った。
だって何もしなければ、今までと同じままだもの。
「へたくそー」
とか言われるかと思った。
「聞こえないぞー」
って言われるかと思った。
魔法剣士さんみたいに、私を擁護してくれる人いなくなったから。
コウジさんは相変わらず。
確かに私のことをそれなりに目をかけてくれるけど、魔法や魔力、コウジさん以外の世界の話題になると関知しないって感じになるの。
だから私のことは、私が考えなきゃいけない。
自分の能力のこと、自分に出来ること、そのほかいろいろ。
でも、当たり前のことなんだけどね。
それでもやっぱり、バツの時間は恥ずかしいよー。
だから最初は、力いっぱい目をつぶりながら歌ってた。
少しだけ気になって、薄目で周りを見てみた。
みんな私のこと注目してたりするのかなって。
どうしても気になって。
そしたら、そばで聞いてる人達は……眠ってた。
楽な姿勢で、みんな穏やかな顔をして寝てた。
最初は遠くにいた人達も、いつの間にか近くに寄って来てて体を横にしてた。
歌ってる間、そんな不満の声は聞こえなかった。
聞きたい人は、私の声が聞こえる所に移動してた。
私がもっと大きな声を出せたら、その人達は移動せずに済んだんだよね。
次のバツの時間は、もう少し大きな声を出してみた。
移動する人も増えた感じだけど、ちょこっと動いたって感じ。
聞こえる範囲が増えたってことだよね。
時々、私を見る人もいる。
って言うか、見る人が増えた。
でも見られる時間はそんなに増えてない。
みんなすぐに眠っちゃうから。
毎回歌い終わって部屋を見渡すと、聞いていた人はみんな静かに寝息を立ててた。
で、コウジさんが毎回「お疲れ」って言って、私の食事を持ってきてくれる。
食事と後片付け、そしてその後のみんなの目が覚めるまでの時間が、顔が真っ赤になるくらい恥ずかしかった私の気持ちを静める時間。
みんなに歌ってる姿を見られてるっていう恥ずかしい思いもあるけど、回数を重ねていくうちに、みんなを休ませられる力があるんだって言う自覚も出てきた。
プレハブの方で歌ってたんだけど、真ん中で歌えばみんながその場で休められるって考えて、魔法剣士さんのアドバイスのことも思い出して、声の出し方とかを工夫するようになった。
目が覚めた後のみんなから褒められることが多くなったけど、褒められるのも恥ずかしいよね。
でも、ある日の昼のこと、みんなに歌を聞かせて歌い終わった後。
「お疲れ。昼飯、もう持ってってるぞ。さっさと食い終われ。でないとまずいぞ」
私は首を傾げた。
だって、早く食べ終わらないとまずいっていう言い方がおかしいじゃない?
部屋の中に入ったら、ちょっと匂いが強い物があった。
「……これ……まさか……」
「おう。カレーうどん。二人分。ただしお代わりもついてる」
「……!」
すっかり忘れてたけど、食べたかったあのうどん!
まさか私のお昼ご飯に出てくるなんてっ……!
「言っとくが、バツをやったご褒美じゃねぇぞ?」
え?
えーと、じゃあどう解釈すれば?
「そんな子供だましの気持ちじゃねぇよ。あんな風に、一度に全員が安心して休んでたことなんて一度もなかったからな。お前への労いの気持ちだよ」
え、えーと……。
「恥ずかしい思いを堪えて、自分の成長を目的にバツを受けてんだ。頑張ったねーよしよし、なんて気持ちで出せるかよ」
つ、つまり……。
「ご苦労さん、まず、食え。ってことだよ。早く食わねぇと匂いで連中が目を覚ますぞ?」
「あ、そ、それはまずいですね」
「まずいと思うなら食わなくていい」
「そのまずいじゃありませんっ! いただきますっ」
初めて一口目から食べ終わるまでカレーうどん、堪能しましたっ!
今まで何度も外食したことあるけど、こんな美味しいの食べたことないっ!
お代わりもしっかりいただきました。
「おいしかったー」
「有り難い、と思ったか?」
「うん! とってもおいしかった! 有り難うございますっ!」
「多分それだよ」
「何がです?」
「……今、眠ってる連中が、お前に向けてる思いだよ」
思いもしない言葉が耳に入って来て、咄嗟に返事ができませんでした。
「……やれやれだ。大げさだな。泣いてる暇なんかねぇぞ。とっとと片付けて消臭剤ぶっかけろ!」
……私、泣いてたみたい。
美味しかったのと、その気持ちで。
今までのお昼もおにぎりで時々うどんだったけど、この日から毎日のお昼はうどんになりました。
で、カレーうどんは時々出るようになりました。
ところで、しばらくしてからコウジさんが、
「いたずらで激辛やってみたけど、まさか普通に食えるとはな……」
って、よく分からないことを言ってた。
何なんだろうな。
0
お気に入りに追加
435
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したからモンスターと気ままに暮らします
ねこねこ大好き
ファンタジー
新庄麗夜は身長160cmと小柄な高校生、クラスメイトから酷いいじめを受けている。
彼は修学旅行の時、突然クラスメイト全員と異世界へ召喚される。
転移した先で王に開口一番、魔軍と戦い人類を救ってくれとお願いされる。
召喚された勇者は強力なギフト(ユニークスキル)を持っているから大丈夫とのこと。
言葉通り、クラスメイトは、獲得経験値×10万や魔力無限、レベル100から、無限製造スキルなど
チートが山盛りだった。
対して麗夜のユニークスキルはただ一つ、「モンスターと会話できる」
それ以外はステータス補正も無い最弱状態。
クラスメイトには笑われ、王からも役立たずと見なされ追放されてしまう。
酷いものだと思いながら日銭を稼ごうとモンスターを狩ろうとする。
「ことばわかる?」
言葉の分かるスキルにより、麗夜とモンスターは一瞬で意気投合する。
「モンスターのほうが優しいし、こうなったらモンスターと一緒に暮らそう! どうせ役立たずだし!」
そうして麗夜はモンスターたちと気ままな生活を送る。
それが成長チートや生産チート、魔力チートなどあらゆるチートも凌駕するチートかも分からずに。
これはモンスターと会話できる。そんなチートを得た少年の気ままな日常である。
------------------------------
第12回ファンタジー小説大賞に応募しております!
よろしければ投票ボタンを押していただけると嬉しいです!
→結果は8位! 最終選考まで進めました!
皆さま応援ありがとうございます!
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった
ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。
しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。
リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。
現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!
妻が女神になりまして!?~異世界転移から始まる、なんちゃってスローライフ~
玉響なつめ
ファンタジー
吉田ヨシヤ、四十歳。
ある日仕事から帰ると妻が待っていた。
「離婚するか、異世界に一緒に行くか、選んで!!」
妻の唐突な発言に目を白黒させつつも、愛する女と別れるなんて論外だ!
だがまさか妻の『異世界』発言が本物で、しかも彼女は女神になった?
夫として神の眷属となったヨシヤに求められているのは、信者獲得!?
与えられた『神域』は信者獲得でレベルアップした妻により、どんどん住みよくなっていく。
これはヨシヤが異世界で手に入れた、夢の自給自足生活(っぽいもの)の物語……のはずである。
俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。
異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~
夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。
が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。
それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。
漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。
生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。
タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。
*カクヨム先行公開
十人十色の強制ダンジョン攻略生活
ほんのり雪達磨
ファンタジー
クリアしなければ、死ぬこともできません。
妙な部屋で目が覚めた大量の人種を問わない人たちに、自称『運営』と名乗る何かは一方的にそう告げた。
難易度別に分けられたダンジョンと呼ぶ何かにランダムに配置されていて、クリア条件を達成しない限りリスポーンし続ける状態を強制されてしまった、らしい。
そんな理不尽に攫われて押し付けられた人たちの強制ダンジョン攻略生活。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる