64 / 196
未熟な冒険者のコルト
この部屋にはいつも大勢出入りあるけど、何かいつもとちょっと違う
しおりを挟む
「あ……」
それは、コルトの小さい声から始まった。
朝の握り飯タイム。
コルトもいつものように、行列の中ほどにトレイを持って行って、そこで冒険者達に握り飯と水を配っていた。
コルトの作業でミスをしたか。
……いや、そんな感じじゃない。
何かを見つけた時に出るような声だ。
俺はプレハブから家の中に入れる出入り口のそばにいる。
屋根裏部屋とプレハブの間にいるコルトは、こっちに背を向けている。
だから何がどうしたかは俺には分からないのだが。
「だ、大丈夫?」
俺から見えるコルトは、壁の向こうに姿を消した。
「キュウセイシュ様、俺らはいいから先にあの子を」
「コルト様、どうか先に……」
すっかり「キュウセイシュ」という敬称は完全にコルトに定着したようだ。
ほっとする。
が、そっちは何やらそれどころではなさそうだ。
部屋にいる連中の雑談が、屋根裏部屋の方では静まっている。
そして聞こえるすすり泣きしながらの呻き声。
女性……女の子?
……そんな来訪者が現れるのは珍しくはないんだが、異世界間でも行き来は出来ないとは言え、同じ冒険者。
コルトにはそんな気持ちがあるのか、歌声に癒しの力があると分かってからは、初めてここに来る者達には積極的に駆け寄って元気づけようとすることが多くなった。
が、今回はちょっと違った。
「コウジさーん、そっちの窓際の場所にこの子連れてくねー」
壁越しに聞こえるコルトの声。
それでもコルトは、誰かをそこまで優遇することはほとんどない。
雪も解けてきて、暖かな日差しがプレハブに入ってくることが多くなったこの時期は、コルトが希望する窓際が実に気持ちいい。
俺が返事するまでもなく、その辺りにいた者達は自主的にそこから遠ざかる。
コルトが連れてきたのは、その種族の特性上彼女よりも背が高い人馬族。
いわゆるセントール。ケンタウロスとも言うんだっけか。
それにしては随分衰弱している。
って当たり前か。
そんな奴しかここには来れないらしいから。
それでも体重は重そうなんだが、コルトがしっかりと支えてプレハブの方に連れてきた。
「ここなら大丈夫。ほら、お日様が外で照ってるから暖かいでしょ? 眠ってていいからね」
聞こえてきた泣き声と呻き声はこの人馬族の……言いづらいが、女の子からのようだ。
コルトはまるで赤ちゃんをあやすように、横になった彼女の体をさする。
俺なら、誰か一人に特別扱いするようなことはできない。
事情を知らないからな。
けどコルトはその子のために、囁くような小さい声で子守歌のような歌を聞かせ眠らせた。
それを誰も羨ましがることなく、その場で二人の姿が見える者達は、静かに見守っている。
もちろん見えてない連中は握り飯を頬張っているが。
区分けで言えば、やはりコルトはここにいる連中と同類。
気持ちが分かる分、ある意味平等だ。
症状がひどいものには気をかける度合いも強くなる。
その点俺は、ある意味部外者。
だから誰にでも同じような行動をとる。
けどコルトは、今までとはちょっと違う反応したな。
「……これでよし。あ、ごめんなさいね、トレイ持たせちゃって」
握り飯欲しがってる奴にトレイ持たせてたのかよ!
そいつが握り飯独り占めするかもしれなかっただろ!
「いや、いいんですよ、コルト様。これくらいなら朝飯前です」
そりゃお前はまだ握り飯手にしてないから、文字通り朝飯前だろうけどさ。
って誰が上手い事を言えと!
「さ、様って……面と向かって呼ぶのはちょっと……」
流石にそれは恥ずかしいだろ?
俺の今までの恥ずかしさを思い知るがいいっ!
で、間もなくしてコルトはこっちにトレイの交換のために戻ってきたのだが。
「あの子、何か特別なことでもあったのか? お前の様子がちょっと変に見えたから」
「え、あ、うん。あの子ね……私が見える扉が開いて入ってきたから」
同じ世界の者が来る時は、やって来る者がその扉を開けて入って来るのだそうだ。
違う世界の者達が部屋に来る時はその扉は開かず、突然扉から姿を現すという。
それは、扉が見える見えないの違いはあるが、俺には壁から突然現れるように見える。それと同じ現象のようだ。
ということは、だ。
「うん。私と同じ世界からここに来たってことよね。わたしもずっとここにいるけど、扉が開いて誰かが入って来たのは……」
「お前を助けてくれた戦士の男だけ、じゃなかったか?」
「うん、そう……」
コルトはそのセントールの女の子を心配そうに見る。
コルトの見た目はそんな風な顔なんだが。
でも俺には、自分の身に不安を感じているような顔にも見えた。
それは、コルトの小さい声から始まった。
朝の握り飯タイム。
コルトもいつものように、行列の中ほどにトレイを持って行って、そこで冒険者達に握り飯と水を配っていた。
コルトの作業でミスをしたか。
……いや、そんな感じじゃない。
何かを見つけた時に出るような声だ。
俺はプレハブから家の中に入れる出入り口のそばにいる。
屋根裏部屋とプレハブの間にいるコルトは、こっちに背を向けている。
だから何がどうしたかは俺には分からないのだが。
「だ、大丈夫?」
俺から見えるコルトは、壁の向こうに姿を消した。
「キュウセイシュ様、俺らはいいから先にあの子を」
「コルト様、どうか先に……」
すっかり「キュウセイシュ」という敬称は完全にコルトに定着したようだ。
ほっとする。
が、そっちは何やらそれどころではなさそうだ。
部屋にいる連中の雑談が、屋根裏部屋の方では静まっている。
そして聞こえるすすり泣きしながらの呻き声。
女性……女の子?
……そんな来訪者が現れるのは珍しくはないんだが、異世界間でも行き来は出来ないとは言え、同じ冒険者。
コルトにはそんな気持ちがあるのか、歌声に癒しの力があると分かってからは、初めてここに来る者達には積極的に駆け寄って元気づけようとすることが多くなった。
が、今回はちょっと違った。
「コウジさーん、そっちの窓際の場所にこの子連れてくねー」
壁越しに聞こえるコルトの声。
それでもコルトは、誰かをそこまで優遇することはほとんどない。
雪も解けてきて、暖かな日差しがプレハブに入ってくることが多くなったこの時期は、コルトが希望する窓際が実に気持ちいい。
俺が返事するまでもなく、その辺りにいた者達は自主的にそこから遠ざかる。
コルトが連れてきたのは、その種族の特性上彼女よりも背が高い人馬族。
いわゆるセントール。ケンタウロスとも言うんだっけか。
それにしては随分衰弱している。
って当たり前か。
そんな奴しかここには来れないらしいから。
それでも体重は重そうなんだが、コルトがしっかりと支えてプレハブの方に連れてきた。
「ここなら大丈夫。ほら、お日様が外で照ってるから暖かいでしょ? 眠ってていいからね」
聞こえてきた泣き声と呻き声はこの人馬族の……言いづらいが、女の子からのようだ。
コルトはまるで赤ちゃんをあやすように、横になった彼女の体をさする。
俺なら、誰か一人に特別扱いするようなことはできない。
事情を知らないからな。
けどコルトはその子のために、囁くような小さい声で子守歌のような歌を聞かせ眠らせた。
それを誰も羨ましがることなく、その場で二人の姿が見える者達は、静かに見守っている。
もちろん見えてない連中は握り飯を頬張っているが。
区分けで言えば、やはりコルトはここにいる連中と同類。
気持ちが分かる分、ある意味平等だ。
症状がひどいものには気をかける度合いも強くなる。
その点俺は、ある意味部外者。
だから誰にでも同じような行動をとる。
けどコルトは、今までとはちょっと違う反応したな。
「……これでよし。あ、ごめんなさいね、トレイ持たせちゃって」
握り飯欲しがってる奴にトレイ持たせてたのかよ!
そいつが握り飯独り占めするかもしれなかっただろ!
「いや、いいんですよ、コルト様。これくらいなら朝飯前です」
そりゃお前はまだ握り飯手にしてないから、文字通り朝飯前だろうけどさ。
って誰が上手い事を言えと!
「さ、様って……面と向かって呼ぶのはちょっと……」
流石にそれは恥ずかしいだろ?
俺の今までの恥ずかしさを思い知るがいいっ!
で、間もなくしてコルトはこっちにトレイの交換のために戻ってきたのだが。
「あの子、何か特別なことでもあったのか? お前の様子がちょっと変に見えたから」
「え、あ、うん。あの子ね……私が見える扉が開いて入ってきたから」
同じ世界の者が来る時は、やって来る者がその扉を開けて入って来るのだそうだ。
違う世界の者達が部屋に来る時はその扉は開かず、突然扉から姿を現すという。
それは、扉が見える見えないの違いはあるが、俺には壁から突然現れるように見える。それと同じ現象のようだ。
ということは、だ。
「うん。私と同じ世界からここに来たってことよね。わたしもずっとここにいるけど、扉が開いて誰かが入って来たのは……」
「お前を助けてくれた戦士の男だけ、じゃなかったか?」
「うん、そう……」
コルトはそのセントールの女の子を心配そうに見る。
コルトの見た目はそんな風な顔なんだが。
でも俺には、自分の身に不安を感じているような顔にも見えた。
0
お気に入りに追加
433
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
劣等生のハイランカー
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す!
無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。
カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。
唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。
学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。
クラスメイトは全員ライバル!
卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである!
そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。
それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。
難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。
かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。
「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」
学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。
「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」
時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。
制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。
そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。
(各20話編成)
1章:ダンジョン学園【完結】
2章:ダンジョンチルドレン【完結】
3章:大罪の権能【完結】
4章:暴食の力【完結】
5章:暗躍する嫉妬【完結】
6章:奇妙な共闘【完結】
7章:最弱種族の下剋上【完結】
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
女神に冷遇された不遇スキル、実は無限成長の鍵だった
昼から山猫
ファンタジー
女神の加護でスキルを与えられる世界。主人公ラゼルが得たのは“不遇スキル”と揶揄される地味な能力だった。女神自身も「ハズレね」と吐き捨てるほど。しかし、そのスキルを地道に磨くと、なぜかあらゆる魔法や武技を吸収し、無限成長する力に変化。期待されていなかったラゼルは、その才能を見抜いてくれた美女剣士や巫女に助けられ、どん底から成り上がりを果たす。
異世界トレイン ~通勤電車が未知の世界に転移した!2500人の乗客と異世界サバイバル~
武蔵野純平
ファンタジー
アルバイト社員として毎日汗をかいて雑用をこなす弾光広(ミッツ)は、朝の通勤電車の乗客とともに異世界に転移してしまった。だが、転移先は無人だった。
異世界は、ステータス、ジョブ、スキル、魔法があるファンタジーなゲームのような世界で、ミッツは巨大な魔物を倒すチート能力を得て大いに活躍する。前向きで気は良いけれど、ちょっとおバカなミッツは、三人の仲間とともに町を探す旅に出る。2023/3/19 タイトル変更しました『アルバイト社員!異世界チートで大暴れ!』
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる