俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

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未熟な冒険者のコルト

コルト、キュウセイシュとしての道を進む決心

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「……寝てるな。みんな気持ち良さそうだ」
「はい。……あの魔法剣士の人も眠ってます……」

 まるで幼稚園か保育園の昼寝の時間みたいだ。
 安らかな寝息を立てている。

「……飯、食うか」
「……はい」

 コルトの顔は、見てて実に分かりやすい。
 やる気はあるものの、まだ恥ずかしさが強いらしい。
 俺を見て、顔が次第に赤くなる。
 歌ってたところを思い出して、俺がそのシーンを見ていると思い込んでるんだろうな。
 こいつにとっちゃ黒歴史なんだろうか。
 なんにせよ、まずは昼飯を食って、あいつらが起きるまで道具作りに精を出してもらわにゃ困る。

 ※※※※※ ※※※※※

 昼飯を片付け終わった頃に、連中は次々と目を覚ましていった。
 誰も彼も気持ち良さそうに目覚めてやがる。

「上手くいったみたいね」
「あ、はい。有り難うございま……す」

 語尾が聞き取れん。
 課題は当面……。

「その度胸を何とかしないとね。それをクリアできたら、まぁいっぱしの……聖歌士ね」
「聖歌士?」

 なんだそりゃ?
 コルトも初耳って感じだな。
 聖歌隊なら知ってるが……。
 それよりもかなり実益がありそうだよなぁ。

「聞いたことないかー。私の所にはかなりいるんだけどね。むしろ私のような、魔法剣士とか魔法騎士の方が人数少ないかも」
「はい……聞いたことないです」

 そりゃそうか。
 聞いたことがあったら、冒険者職よりそっちの方が向いてるもんな。
 あれ?
 確か回復役で頼まれたって話聞いたような気がする。
 ってことは、元々素養はあったわけか。

「じゃあひょっとしたら、あなたの世界ではあなたが最初の職種かもしれないわね。すごーい」

 すごーい、って、子供かよ。

「でも、この役目って何て名乗ればいいんですか? 吟遊詩人とかじゃないですよね」
「ちょっと違うわよね。あの人達は歌を聞かせて楽しませる仕事だから。コルトちゃんはそうじゃないもんね。こっちの世界なら悩まなくてもいいけど……」

 歌……歌声で癒す仕事か。
 こっちじゃ何とかセラピーだよな。
 でもそっちにそんなのはなさそうだしなー。

 ピンチの冒険者を声で救う……あ。

「キュウセイシュはどうよ?」
「「キュウセイシュ?」」

 発音は同じなんだよな。
 でも文字にすると違うよな。

「救世主はコウジさんのことでしょ?」
「それをお前に擦り付けてやる」
「コウジさんってば……。大体私、世界を救うなんて考えられないですよ?」

 コルトってば、馴れ馴れしい物言いをしたり丁寧語使ったりしてややこしいな。

「世界じゃねぇよ。声で救う主。救声主でキュウセイシュ」
「おー。コウジってばなかなか上手いわね」

 はん。
 こっちはどうやってこの渾名を取り消そうかって、ずっと考えてたんだからな。

「んー……でも……」

 何だよ。
 また弱気の虫か?

「まだその効果とか、力加減とかがしっかりできてないので……」
「そうねー。その力を使うにはまだ未熟って感じよね。初々しさがあるって言うか」

 物は言いようだな。
 ヘタレ、でも当てはまるぞ、こいつには。

「お姉さん、いろいろおしえてくださってありがとうございましたっ」

 苦手なのは人前に立つことだけか。
 場数増やせば克服できそうだよな。

「まぁ今回はたまたまよね。コウジもこの娘に歌わせてなけりゃ、その能力を見落とすとこだったもん」
「……ま、何でも試してみるもんだな。女も度胸、ということで」
「そうだ! お姉さんのお名前まだ聞いてないっ! 教えて下さ」
「ストップ! ストップだ、コルト。それは聞かない方がいい」
「え? どうして? だって私の」

 恩人、だろうな。
 それは否定しねぇよ。
 けどな。

「名前覚えたところでどうする? またここに来る可能性はある。けど普通は来ることは考えないぞ? だって自分の身をみずから危険に晒すんだ。そんなことを考えるのはまともな奴じゃねぇ」

「まぁ確かにただ危険な場所に行くだけだったら、頭どっかおかしいわな。俺はやっぱ、宝物目当てにダンジョンに潜り込むからな。トレジャーハンター系に偏ってる。だからこうして何度もきてるわけだ」

 そういう弓戦士は三回目くらいか?

「俺はこいつの名前も知らない。何度来られても名前を覚えるつもりはない。唯一知ってるのはコルトだけだ。そいつは初めてここに来ただろ。ここに来る奴を平等に接待するには、みんなの名前、素性をなるべく知ろうとしないようにするくらいだな」
「コウジってば硬いわねー。聞かれりゃ答えるけど、ここの管理責任者のコウジがそういうなら言わないでおくわ」
「あぁ。そうしてくれ」

 変に親しみを覚えて、厄介なしがらみができちまったら対処しようがねえしな。

「でも私も二回もコルトちゃんの歌声の世話になったから、もう行くね。ありがとねコルトちゃん。それとコウジも」

 俺はついでかよ。まあいいけどさ。

「おう。無事に帰って、二度とくんなよ?」
「はは、どうだろね。じゃあね」

 コルトは目をキラキラさせながら、女魔法剣士を見送っていた。
 何か、明るい未来が見えてそうで何よりだな。

「んじゃコルトー。これからは一日三回、やってもらおうかな。お前にしかできない新たな仕事だ。照れたりしてる場合じゃねぇぞ」
「うっ……。は、はいっ」

 ……なんか、ちょっと頼りがいが感じられるようになったのは気のせいかね? うん。
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